ヒグチアイの楽曲は『進撃の巨人』になぜ求められてきたのか “感情移入の深さ”が鍵に
2013年から10年にわたり続いてきたアニメ『進撃の巨人』が、ついに堂々のフィナーレを迎えた。11月4日24時より、NHK総合にて『進撃の巨人 The Final Season 完結編(後編)』が放送された後には、SNS上に、アニメ制作陣への感謝とリスペクトの投稿が溢れ、また同じタイミングで、原作者・諫山創がシリーズ完結記念イラストを投稿したことも大きな話題となった。この投稿は、世界中のファンによって拡散され、現時点で4,000万を超えるインプレッションを記録しており、その数値はまさに、このアニメがいかに多くのファンの心を掴んでいたかを物語っている。
そして、11月5日12時からは、「完結編(各話版)」の配信が、各種配信サービスにてスタートした。「完結編(各話版)」では、オープニングテーマとして、Linked Horizonの「最後の巨人」が、エンディングテーマとして、ヒグチアイの「いってらっしゃい」が起用されており、テレビ放送とは異なるオープニング映像、エンディング映像を観ることができる。最後の戦いに挑む登場人物たちの勇壮な姿をドラマチックに描き出したオープニング映像は圧巻で、また、エレン・イェーガーとミカサ・アッカーマンの幼少期をフィーチャーしたエンディング映像は、ヒグチアイが歌い奏でるピアノバラードの切実な響きと相まって、強く胸を締めつけられる。
ヒグチアイがアニメ『進撃の巨人』に楽曲を書き下ろすのは、『The Final Season Part 2』のエンディングテーマ「悪魔の子」以来、今回が2度目となる。振り返れば「悪魔の子」は、『進撃の巨人』の世界観に見事にマッチする壮大さを誇るエモーショナルな楽曲で、アニメの全世界的なヒットと相まり、世界各国のApple Music J-Popランキングなどのチャートで1位を記録した。それ故に、今回の2度目の起用を楽しみに待っていた人も多かったはず。
今回の楽曲のタイトルは、「いってらっしゃい」。それはまさに、『進撃の巨人 The Final Season 完結編』のキービジュアルのミカサの言葉「いってらっしゃい エレン」と重なるものであり、すでに物語の結末を知る人であれば、このタイトルを見ただけで、その短い言葉に込められた想いの重みと深みを感じ取ることができるだろう。そして、ミカサの観点から紡がれるこの曲の歌詞に注目すると、『進撃の巨人』の物語に秘められた切なさが改めて浮き彫りになる。
〈ずっと探してた 捧げた心臓の在処/本当の想いを教えて 夢物語でいいから〉
〈最後になにがしたい?どこに行きたい?/わたしはね 帰りたいよ/一緒の家に帰ろうよ〉
〈もしも明日がくるのなら/あなたと花を育てたい/もしも明日がくるのなら/あなたと愛を語りたい〉
〈走って 笑って 転んで/迷って 庇って 抱いて/また会えるよね/おやすみ〉
いつまでも心の奥底に残り続けるイノセントな記憶。その景色の中にいる〈あなた〉に向けた積もり積もった想い。たとえ世界を敵に回したとしても、そしてどれだけ時が経ったとしても、決して揺るがぬその想いを懸命に伝える同曲は、サビの最後が〈おやすみ〉で結ばれることを含めて、まさに『進撃の巨人』の物語のフィナーレを彩るのにふさわしいバラードであると言える。日々の何気ない(だからこそ、かけがえのない)生活に溢れるような平易な言葉で歌詞が綴られている点にも、ミカサの想いのまっすぐさが伝わってきて強く心を動かされてしまう。