連載『lit!』第75回:STU48、=LOVE、アンジュルム……歌詞にも注目したい女性アイドルの新曲
2023年のアイドルシーンと言えば、坂道シリーズや48グループを筆頭にライブにおける声出しが解禁されたことを受けて、夏の祭典『TOKYO IDOL FESTIVAL 2023』では久しぶりに大盛り上がりを見せた。ひと夏を越えてアイドルシーンは落ち着くかと思われたが、まだまだ勢いは止まりそうにない。年末にかけて多くの楽曲がリリースされる。
そんなアイドルソングはパフォーマンスと一体して語られることが多い。それはアイドルの身体性が密接に関係しているからではあるが、じっくりと歌詞に耳を傾けてみると普遍的なメッセージが歌われていたり、様々な趣向が凝らされていたりすることに気づく。今回は直近でリリースされた中から、歌詞に注目して聴きたい5つの作品を紹介する。
STU48「君は何を後悔するのか?」
2023年11月15日にリリースされるSTU48の10thシングル『君は何を後悔するのか?』。本作は卒業を発表している瀧野由美子がセンターを務める。瀧野はSTU48初のオリジナル楽曲となった「瀬戸内の声」やデビューシングル曲「暗闇」など8度もセンターポジションを務めてきたグループのエースだ。作曲には2022年4月リリースの「花は誰のもの?」以来となる元チェッカーズの鶴久政治を起用。STU48らしい郷愁漂うイントロから始まり、心地よくリズムが刻まれるAメロとBメロを経て、サビでは一転して流れるように駆け抜ける。
一方で歌詞はこれまで歩んできた過去に後悔を感じながらも、新たな決意を胸に未来へと進んでいく力強いメッセージが込められている。曲中何度も繰り返される〈君は何を後悔するのか?〉という言葉は、第三者の視点から語られているようにも見えるが、過去を後悔する曲の主人公が自身を俯瞰して問いかけているとも捉えられる。過去を振り返ってみると、誰しも後悔を経験してきたはず。それでも〈過去は過去だ 変えられやしない〉と受け入れて前へと進んでいくポジティブなメッセージは多くの人が共感するはずだ。
=LOVE「ラストノートしか知らない」
指原莉乃がプロデュースをするアイドルグループ =LOVE。冬に向けたニューシングル『ラストノートしか知らない』が11月29日にリリースされる。センターには「樹愛羅、助けに来たぞ」や「セノビーインラブ」などでセンターを務めてきた齋藤樹愛羅。表題曲では初めてのセンターとなる。「青春“サブリミナル”」や「好きって、言えなかった」を手掛けてきた塚田耕平が作曲を担当する同曲は美しく温かいメロディが印象的で、=LOVEの歌唱力の高さが発揮されている。
いつも指原の歌詞のセンスには驚かされるばかりだが、本作でも随所に手腕が発揮されていた。まずテーマにもなっている香水はトップノート、ミドルノート、ラストノートという形で時間経過によって香りが変化していく。〈みんなが知らない私だけの香り〉〈ラストノートに恋をしてしまった〉といったフレーズは、ラストノート、つまりは長く一緒にいた自分だけにしか感じることのできない香りであることを指している。じっくりと歌詞に耳を傾けてみると、じんわりと切なくなる。この冬に聴きたいアイドルソングである。
アンジュルム「RED LINE」
竹内朱莉が卒業し、上國料萌衣をリーダーとして新体制となったアンジュルムが初のシングル『RED LINE/ライフ イズ ビューティフル!』をリリースする。アンジュルムと言えば、女性の強さをテーマにした楽曲が多いが、「RED LINE」は傷つきながらも本気の恋を続けたいと望む恋心を表現している。〈テキトーだなんて 言い訳はナンセンス 「君のため」って I’m gonna say〉〈このキスは 覚悟の証拠〉〈本気で恋しようぜ〉と言い切ってしまえるのが今のアンジュルムの強さだ。
恋愛をテーマにしたアイドルの楽曲はどこか切なさを感じさせるものや別れを歌ったものが多い中で、ここまで強くメッセージを押し出せるのは唯一無二の魅力である。落ち込んだ時には寄り添ってくれる楽曲を聴きたくなるものだが、アンジュルムの「RED LINE」を聴いて自分を奮い立たせてみるのも良いだろう。