サカナクション「忘れられないの」が再注目 平成カルチャーの再提示とリバイバル、現象の核を考える
2019年8月、サカナクションは8cmシングル『忘れられないの/モス』をリリースした。80年代の空気感をまとったシティポップ風の楽曲「忘れられないの」は、リリース当初からコンセプチュアルなMVと共にセンセーショナルなリアクションで受け入れられた。それが今年10月、英語圏のSNSでバイラルを起こした。11月6日の時点で、「Anime endings after your favorite characters dies in the worst ways possible.(お気に入りのキャラクターが最悪の形で死んでしまったアニメのエンディング)」と題されたポストは7.2万いいねを超えた。
サカナクションは度々音楽的なアイデアを80年代から引っ張ってくるが、この曲ではかなりストレートに80’s AOR(Adult-Oriented Rock)を鳴らしている。バンドのフロントマンである山口一郎は以前、ラジオでこの曲のリファレンスとして御大ボビー・コールドウェルの「What You Won't Do For Love」を挙げていた。
サカナクションに限らず、近年は過去にヒットした作品(や音楽ジャンル)が何らかの形で再注目される場面が見受けられる。たとえば、TikTokの韓国コミュニティで再生数億回超えを記録した、大塚愛の「さくらんぼ」、あるいは「TikTok流行語大賞2022」の特別賞に輝いたPUFFYの「愛のしるし」などがこれにあたる。前者は2003年、後者は1998年にリリースされ、いずれも平成の時代に世に放たれた作品だ。
本稿では、直近でリバイバルでヒットした楽曲と、そのリバイバルを生んだ環境、デバイスの変化など、多角的に紹介していきたい。
シティポップの新解釈と再提示
まず、冒頭にも挙げた「忘れられないの」とも密接に関わる、そして世界的なリバイバルを起こしている80年代の日本のシティポップについて考えてみたい。「忘れられないの」のイメージリファレンスとも言われるオメガトライブ時代の杉山清貴は、80年代に「SUMMER SUSPICION」や「ふたりの夏物語 NEVER ENDING SUMMER」などのヒット曲を連発したアーティストだ。その当時の同ジャンルに対し、ワールドワイドに展開するデジタルメディア『VICE』がシティポップについて特集した際(2019年)には、「都市部の若者のあいだで流通していたMOR“Muzak”(待合室などで流れるBGM)だった」と言及されている(※1/筆者訳)。また、シティポップは「日本のバブル期の都市生活におけるサウンドトラックだった」とも指摘した。
シティポップが持つきらめきの根源として「当時の日本経済の発展」はもはや前提として共有されているようで、2021年にはアメリカのメディア『Pitchfork』が、ジャンルと高度経済成長後の日本人のライフスタイルを紐づけている(※2)。
とりわけ、筆者は「都市部の」という部分が重要だと考える。経済発展の中心は東京だったという事実に、人口動態や主要企業の本社部門が次々に集結したことを踏まえると疑いの余地がない。90年代に入るとシティポップは“渋谷系”というフレーズを携えて定義されるが、この事実からもいかに東京がこのジャンルにおいて重要な役割を担っていたかが分かる(“渋谷系”という呼称の変遷については諸説あるが、シティポップにとってバブル期の東京が重要だったという点に大きく影響はないので、本稿ではこのように書く)。
翻って現在の音楽シーンで起きている現象は、場所の制約を受けないインターネット上で起きている。PUFFYの「愛のしるし」が再び脚光を浴びるきっかけとなったHoodie famによる振り付けや森七菜のカバー動画は、TikTokなどのアプリさえデバイスに入っていれば、どこからでもアクセスできる。そしてこれは、Z世代特有の現象ではないと言える。