井上芳雄率いる『日比谷ブロードウェイ』が届けた珠玉のミュージカルナンバー 終演後コメントも

井上芳雄『日比谷ブロードウェイ』レポ

 いくつもの意味で画期的なミュージカルコンサート、『祝・日比谷野音 100 周年 日比谷ブロードウェイ with WOWOW 芳雄のミュー』が10月22日、日比谷公園大音楽堂で開催された。『日比谷ブロードウェイ』は、誰もが自由に様々な音楽を楽しめるイベントとして2019年に始まった『日比谷音楽祭』の、言ってみれば“ミュージカル部門”的なプロジェクト。日本ミュージカル界を牽引する俳優・井上芳雄が毎回異なる仲間たちと共に、様々なジャンルの音楽ファンの前でミュージカルナンバーを披露してきた。

『祝・日比谷野音 100 周年 日比谷ブロードウェイ with WOWOW 芳雄のミュー』の模様

 そして『井上芳雄ミュージカルアワー「芳雄のミュー」』は、その井上が今春からMCを務める、ミュージカル鑑賞デビューを後押しするようなWOWOWの生放送番組。それぞれに前例の少ないプロジェクトと番組が、井上をハブとして繋がり、コラボしたのがこの公演だ。それだけでも十分に画期的だが、今年100周年を迎えた野音の歴史上、ミュージカル俳優によるコンサートはこれが初めてだというからさらに画期的。これまでの『日比谷ブロードウェイ』を彩ってきた7人の俳優が、“音楽の聖地”と謳われるステージで繰り広げたコンサートは、音楽というものの中にミュージカルというジャンルがいよいよ定着したことを寿ぐような2時間半となった。

井上の選曲センスが光る、夜空に映えるナンバーたち

井上芳雄
井上芳雄

 幕開けを飾ったのは、ミュージカル『ONCEダブリンの街角で』より「Falling Slowly」。夕暮れがゆっくりと夜空に変わっていく様がタイトルと見事に重なり、野外で夕方から始まったコンサートのオープニングにこれ以上ないほど相応しい。本来は男女のデュエット曲だが、ここでは井上芳雄のソロから始まり、島田歌穂、屋比久知奈、田代万里生、佐藤隆紀(LE VELVETS)、甲斐翔真、そして中川晃教が一人ずつ登場しては井上と声を重ねていくというドラマチックな演出で、満員の観客を野音ミュージカルの世界へと誘い入れた。

井上芳雄
中川晃教
佐藤隆紀
屋比久知奈
田代万里生
島田歌穂
甲斐翔真
亀田誠治
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井上芳雄
中川晃教
佐藤隆紀
屋比久知奈
田代万里生
島田歌穂
甲斐翔真
亀田誠治
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 そんなしっとりとした幕開けから一転、観客が立ち上がって盛り上がれるようなナンバーを4曲挟んでからの、ソロ曲を畳みかけるコーナーが前半のハイライト。井上のリクエストにより決定した曲が多かったとのことで、夜空に映えるナンバーを的確にピックアップした井上のセンスが大いに光る。島田は「星から降る金」で夜空すら包み込むような、田代は「ザ・ミュージック・オブ・ザ・ナイト」で夜空に余韻が溶けていくような、そして井上は「抑えがたい欲望」で夜空を切り裂くような歌声をそれぞれ響かせ、喝采を浴びた。

 トーク力にも定評のある井上が、気心知れた仲間たちと繰り広げるコンサートとあって、随所に挟まれたMCも大きな見どころ。『日比谷ブロードウェイ』の思い出を振り返る、というのがトークテーマとして設定されてはいたようだが、当然ながら脱線が止まらない。とりわけ中川が、その唯一無二の歌声を縦横無尽に駆使して圧巻の「Bohemian Rhapsody」を披露した直後に自由すぎるトークを繰り広げ、“ツッコミマスター”井上をして「さすがの俺も盛り上げようが見つからない」と言わしめたシーンは必見だ。

役の経験者と夢キャストが入り混じる、ファン垂涎のコラボ曲

 後半は、ここでしか聴けない夢のコラボ曲が充実。共にミュージカル本編には出演経験のない島田と屋比久が『ウィキッド』より「For Good」を、また経験者の屋比久と未経験の甲斐が『ミス・サイゴン』より「世界が終わる夜のように」をそれぞれデュエットし、名曲の力と俳優の力を見せつける。ひたむきな歌声の中に強い意志が滲む屋比久のエルファバや、全身全霊で愛を表現する甲斐のクリスは、ぜひ本編でも観たくなった観客が多いことだろう。

 続いた『エリザベート』からの2曲は、経験者と“夢キャスト”が入り混じる、まさにミュージカルファン垂涎の趣向。まずは夢キャストの島田エリザベートが、フランツ経験者の田代、佐藤、未経験の井上を相手に「夜のボート」を。そして当たり役の呼び声高い井上トートが、ルドルフ経験者の甲斐、田代、未経験の佐藤を相手に「闇が広がる」をデュエットし、客席のボルテージを上げていく。豊かで温かみある歌声を持ち味に、落ち着いた役どころを得意とする佐藤が悩める若き皇太子ルドルフに挑み、「闇が広がる」の中でも最も“おいしい”パートを歌い上げた瞬間、ボルテージは最高潮に達した。

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 終盤には、『日比谷音楽祭』の実行委員長であり、長年のミュージカルファンでもある亀田誠治も参戦し、『日比谷ブロードウェイ』『芳雄のミュー』にゆかりの深い楽曲の数々をパフォーマンス。「日比谷ブロードウェイが育ってきていて嬉しい。この景色が観たかった!」と感慨深げな亀田の姿と、井上の「感無量」という言葉が改めて、このコンサートの大いなる意義を思い起こさせる。そうして全20曲の本編が幕を閉じ、アンコールで披露されたのは、やはり夜空に大いに映えるあの名曲。井上が「ここで歌ったらすごくいいんじゃないかと思った」というその曲の全貌は、ぜひ11月18日のWOWOWでの放送・配信で確かめてほしい。

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