井上芳雄による『芳雄のミュー』はミュージカルへの第一歩に? 初回ゲスト堂本光一と届けた生のトーク&ミュージックショー

井上芳雄『芳雄のミュー』の生の面白さ

『芳雄のミュー』は生放送 異例のミュージカル番組が実現した理由とは

 筆者がミュージカルを観始めた30年ほど前の日本は、人前で堂々と「趣味はミュージカル鑑賞です」とはなかなかに言いづらい世の中だった。「あの喋ってた人が唐突に歌い出すやつ? ぷぷぷ」みたいな反応が目に見えていたからだ。それが今では、「趣味も仕事もミュージカル鑑賞です」と言えばほとんどの人が興味を示し、「オススメ作品教えて」と返してくれるようになった。

 状況が変わった理由は大きく三つあると思っていて、一つは『レ・ミゼラブル』(2012年)、『アナと雪の女王』(2013年)、『ラ・ラ・ランド』(2016年)といったミュージカル映画の大ヒット。もう一つが山田孝之、小栗旬ら、第一線の映像俳優のミュージカル出演。そして最後がミュージカル俳優たちの相次ぐ映像進出で、石丸幹二や山崎育三郎らと並ぶその筆頭格が、今や地上波のゴールデン番組で司会を務めるまでになった井上芳雄である。

初回は堂本光一と、帝国劇場から生トーク

 そんな井上がホストを務めるトーク&ミュージックショー、その名も「生放送!井上芳雄 ミュージカルアワー『芳雄のミュー』」がWOWOWで始まった。初回のゲストは、共に1979年生まれで帝国劇場デビューが2000年という共通点を持ち、ミュージカル『ナイツ・テイル―騎士物語―』(2018年、2021年)で共演して以降、プライベートでも仲良くしていることを互いに公言している堂本光一。番組はその堂本が今まさに主演している舞台、『Endless SHOCK』の本番が終わったばかりの帝国劇場から生放送で届けられた。

 初回ということで、内容は井上と堂本による番組紹介。「ミュー」というタイトルの意味が紐解かれ、亀田誠治作曲・井上芳雄作詞によるオープニングテーマが初披露されるほか、今後は井上がキャスターとなってミュージカル界の様々なニュース、略して“MEWS”を取り上げていくことや、井上による日本オリジナルミュージカルのナンバー歌唱があることなどが、仲の良さとリスペクトがあふれる二人のトークを通して明かされていく。

 舞台が帝国劇場となったのは初回ならではの趣向だが、生放送である点は2回目以降も変わらないのは、番組名にも銘打たれている通り。生放送には、編集の手が加わらない演者のトークや、文字通り撮って出しの“MEWS”が届けられるという利点がある一方で、盛り上がらなかったりハプニングがあったり物足りない内容になったり、といったリスクもあるはずだ。これはまさに、ホストが井上芳雄だから可能な番組だと言っていい。

トークの達人でもある生粋のミュージカル俳優、井上芳雄

 井上芳雄の特異性は第一に、テレビや大きな劇団で知名度を獲得してからではなく、最初からミュージカルでデビューして大作ミュージカルの主役を張れるまでになった、言わば日本初の“生粋のミュージカル俳優”である点にある。お茶の間での知名度を獲得した今も、軸足はあくまで舞台に置き、年間のほとんどを稽古と本番に費やす。そんな彼がキャスターだからこそ“MEWS”には説得力があり、生放送での歌唱も難なく可能である、というのが「井上だから可能な番組」と思う理由の一つ目。

 もう一つの理由は、井上芳雄の第二の特異性、“トークの達人”である点にある。「僕はコンサートをやってもMCばかり褒められる」とは、かつてインタビューで本人が謙遜して言っていたことだが、実際その腕の確かさは並大抵ではない。筆者は日頃、ミュージカル俳優やクリエイターから話を聞いて記事にする仕事をしているが、対談や座談会メンバーに井上がいると現場での司会の役割はほぼ放棄して彼に回してもらっているばかりか、時にはそのあまりの回しの達者さに嫉妬を覚えるほどだ。そんな彼がホストなら生放送であろうと、盛り上がらなかったりハプニングに翻弄されたりする心配は無用というわけだ。

 「趣味はミュージカル鑑賞です」と言うのが恥ずかしい時代こそ今は昔だが、劇場に足を運ぶことのハードルは相変わらず高く、ミュージカルに興味はあるが生で観たことはまだない、という向きも多いことと思う。『芳雄のミュー』は、そんなミュージカル入門“一歩手前”層にとって、第一歩を踏み出すきっかけとなるに違いない。

■番組情報
『生放送!井上芳雄ミュージカルアワー「芳雄のミュー」』#1
WOWOWオンデマンドでアーカイブ配信中
https://wod.wowow.co.jp/content/132009

『生放送!井上芳雄ミュージカルアワー「芳雄のミュー」』#2
5/24(水)午後10:00 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
※5/26(金)午後2:00よりWOWOWプライムで再放送
※WOWOWオンデマンドでは放送終了後よりアーカイブ配信

毎月最終水曜午後10:00 放送・配信
※番組編成の都合上、放送週が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
https://www.wowow.co.jp/detail/188690

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