さだまさし、後世に与えてきた刺激 14組のアーティストが再解釈した『みんなのさだ』レビュー

さだまさし、後世に与えてきた刺激

 さだまさしのトリビュートアルバム『みんなのさだ』が届けられた。

 レコードデビュー50周年にあたる10月25日にリリースされた本作のプロデュースは、寺岡呼人が担当。「さださん世代の一世代、二世代下のミュージシャンによる、新しい解釈のトリビュートアルバム」というコンセプトのもと、折坂悠太(「主人公」)、上白石萌音(「秋桜」)、木村カエラ(「修二会」)、琴音(「防人の詩」)、高橋優(「精霊流し」)、T字路s(「まほろば」)、葉加瀬太郎(「北の国から〜遙かなる大地より〜」)、福山雅治(「雨やどり」)、槇原敬之(「案山子」)、三浦大知(「風に立つライオン」)、MISIA(「虹〜ヒーロー〜」)、MOROHA(「新約『償い』」)、ゆず(「道化師のソネット」)、wacci(「関白宣言」)が参加し、それぞれのスタイルで歌唱、演奏した楽曲が収められている。

 1曲目は、「道化師のソネット」(ゆず)。鍵盤ハーモニカとアコギによるイントロ、北川悠仁の〈笑ってよ 君のために〉、岩沢厚治の〈笑ってよ 僕のために〉というフレーズが聴こえてきた瞬間、懐かしさとエモさが広がっていく。アコースティックデュオとして1998年にメジャーデビューしたゆず。90年代後半の音楽シーンにおいてアコギと歌を軸にした音楽性はかなり異色だったわけだが、四半世紀が経った現在、彼らの楽曲が幅広い世代に受け入れられているのは周知の通り。ゆずのスタイルの背景には間違いなく70年代のフォークがあり、その中心的存在の一人がさだまさしであったことに異論の余地はないだろう。素朴なアレンジによって原曲の魅力を引き出しているゆずの「道化師のソネット」からは、両者の音楽的なつながりを実感してもらえるはずだ。

 上白石萌音の歌唱による「秋桜」は、ピアノ、弦を中心に置いたオーガニックなアレンジ。〈淡紅の秋桜が〉と歌い出すと同時に、この曲のなかで描かれる風景と物語がありありと脳裏に浮かんでくる。まるで舞台の台詞のように紡がれる歌は、俳優としての活動を通して得てきたであろう表現力、そして、彼女自身の楽曲に対する理解の深さに裏打ちされている。両親の影響で昭和、平成の日本のポップスに親しんできたという彼女は、2021年に自身が愛する楽曲を集めたカバーアルバム『あの歌-1-』『あの歌-2-』を発表しているのが、楽曲に込められたストーリーを映し出すような歌の魅力はここにきてさらに魅力を増している。

 高橋優の「精霊流し」も素晴らしい。軸になっているのはアコギと歌なのだが、弾き語りではなく、ダイナミックなバンドサウンドを加えることで原曲の新たな魅力を引き出すことに成功している。誤解を恐れずに言えば、エレキギターの絡みを含め、歌謡ロック的なテイストが反映されているのだ。冒頭では抑制を効かせながら、曲が進むにつれて徐々に感情が露わになっていくボーカルも見事だ。

 個人的にもっとも心に残ったのは、折坂悠太によるオルタナフォーク的な佇まいの「主人公」。鍵盤ハーモニカ、アコギ、管楽器などを配したアレンジは穏やかで心地いいが、独特の歌い回しと節によって、どことなくサイケデリアな雰囲気が宿っているのだ。その絶妙なバランス感は、これまでの人生を振り返り、思い出のなかに漂うような「主人公」の内容ともしっかりと結びついている。さだのライブにおいてはクライマックスとなる感動的な楽曲として知られるが、不思議な浮遊感をたたえたこの折坂のバージョンも絶品だ。

 木村カエラの「修二会」でも、彼女の個性的なセンスが炸裂している。激しい躍動感に貫かれたビート、鋭利なコード感を描き出すギターサウンド、ライブ的な生々しさに貫かれた演奏は、まさにカエラ流のオルタナティブロック。1200年以上続く東大寺の二月堂の伝統行事をテーマにした歌とシャープなボーカルとの対比、エンディングでさらにテンポを上げ、聴く者をカタルシスへと導く構成も刺激的。ぜひ原曲と聴き比べてほしい。

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