さだまさし、アルバム『孤悲』から伝わる強い意思 コロナ禍における葛藤と願いが色濃く描かれた“生活の歌”

さだまさし、コロナ禍の軌跡を描いた新作

 さだまさしが、前作以来約2年ぶり、通算43作目のオリジナルアルバム『孤悲』を6月1日にリリースする。MISIA、ピアニストの紀平凱成とともに昨年の『24時間テレビ』(日本テレビ系)で披露されたチャリティーソング「歌を歌おう」、最初の緊急事態宣言が発令された3日後の2020年4月10日に発表された「緊急事態宣言の夜に」などを含む本作には、2年以上に及ぶコロナ禍のなかで悩み、格闘してきた、さだまさし自身の軌跡が強く反映されている。軸になっているのは、リスナーに寄り添い、ときに叱咤激励する姿勢、平和への願い、そして、この国の現状と未来への思いだ。

さだまさし New Album「孤悲」トレイラー<前編>

 今年の10月にデビュー50周年を迎えるさだまさしは、常に市井の人々の生活や感情に沿いながら、普遍性と時代性を共存させた楽曲を発表してきた。

 〈小さな物語でも/自分の人生の中では/誰もがみな主人公〉という歌詞に胸を打たれる「主人公」(アルバム『私花集』/1978年)、卒業とともに別れたかつての恋人から、“お嫁にゆく”と書かれた手紙を受け取るまでを綴った「歳時記(ダイアリィ)」(アルバム『夢供養』/1979年)、交通事故加害者の男性が被害者の妻に送金を続けるというエピソードをもとにした「償い」(アルバム『夢の轍』/1982年)、クリスマスの情景とともにサラリーマンの生活をコミカルに描いた「名刺」(アルバム『さよならにっぽん』/1995年)、もう会えない女性へ切ない思いをしたためる男性の姿を映し出した「恋文」(アルバム『恋文』/2004年)、そして東日本大震災の後、この桜の下からもう一度やり直そうという思いを込めた「桜の樹の下で」(アルバム『Sada City』/2011年)。また、前作アルバム『存在理由〜Raison d’être〜』のタイトル曲では、(コロナ以前に制作された楽曲だったものの結果として)コロナ禍のなかで右往左往する人々に〈あなたの無事を祈りながら/明日も一日が過ぎてゆく〉と歌いかける曲となった。70年代から現在に至るまで、さだが紡ぎ出してきた歌ーーその多くは“生活の歌”と言っていいーーが数多くのリスナーを励まし、癒し、明日を生きる力を与えてきたことは言うまでもないだろう。

 アルバム『孤悲』もまた、この社会を生きる人たちを描き、未来へ進むための意思やパワーを感じさせてくれる作品だ。それを象徴しているのが、タイトル曲「孤悲」。万葉集に収められた歌のなかにも登場する「孤悲」(こい)という言葉を題名したこの曲は、美しくも切ないオーケストラとピアノ、そして、〈今わたしに何が出来るでしょう/あなたのほんとうのさいわいのために〉という歌詞で始まるバラードナンバー。背景にあるのはもちろん、2020年の春から始まったコロナ禍の世界だ。

 大切な人と会いたくても会えない時期、言いようがない孤独に包まれた人も多かったはず。そんな悲しさ、もどかしさを乗り越え、以前よりもさらに強いつながりを得た人もいるだろう。しかし一方では、この状況に耐えられず、別れることを決意したり、一人でいることを選んだ人もいたはず。そんな人々に向けて、さだは〈わたしは独りの修羅となり/生命を尽くしてあなたを護るでしょう〉と語り掛ける。その根底にあるのは、常に大衆とともにあり、時代が求める歌を作り、歌いたいという変わらぬ姿勢。大変な時代になればなるほど、シンガーソングライターは“自分には何ができるか?”と自らに問い、実践すべきだという強い思いも、「孤悲」からは確かに伝わってくる。

 日本語の豊かさと情感を味わえる万葉集や『春と修羅』(宮沢賢治 著)といった作品からの引用を交えた歌詞、郷愁と壮大さをたたえた旋律、そして、盟友・渡辺俊幸の編曲など、さだまさしの音楽的な特徴が込められた「孤悲」はここから、彼の新たな代表曲としてゆっくりと浸透していくことになりそうだ。

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