ライブチケット価格が高騰を続ける要因とは? 人員不足や業界構造の変化がエンタテインメント市場にもたらす影響
「適正なライブチケットの価格」について、多数のアーティストの公演を担当するライブ制作会社のA氏にも話を聞いた。A氏は、欧米の価格変動方式に言及しながら次のように語る。
「我々の提供するライブは、国内でもチケット価格が少し高いほうに入ると思います。でもその分、来ていただいた方に楽しんでいただけるよう、舞台演出には工夫を凝らしている。サプライズの演出も含め、お客様に最高のエンタテインメントを届けようと思えば、チケット価格はどうしても現状の値段になってしまいます。もしかすると本当は、日本も欧米のようなチケットの価格変動方式を導入するほうがいいのかもしれません。欧米のコンサートは、席の位置によって価格が大きく変わるんです。それは“観る”だけでなく“聴く”という意識が根づいているからでもあり、例えば、最前列でしっかり盛り上がりたいという人もいれば、ステージから遠い席でもお酒を飲んだりしながら積極的に音を聴きに行きたいという人もいて、どういう楽しみ方をしたいのかによって、その都度、座席位置を細かく選んで買うことが欧米では当たり前なんです」
たしかに、ライブによって、または細やかな座席位置によって、支払う価格にグラデーションをつけることができたら、自分の予算に合わせて購入するチケットを計画でき、あらゆる人が行きたいライブに我慢することなく参加できるかもしれない。今後、日本のライブチケットの在り方は、欧米方式に変わっていく未来もあり得るだろう。
また、CDではなく配信で音楽を楽しむことが当たり前になっている昨今、音楽を取り巻くビジネスの在り方も、チケット価格に影響を与えている部分があるようだ。前述の物価上昇や人手不足に加え、音楽業界の収益構造の変化にも要因があるとA氏は指摘する。
「日本の音楽業界におけるライブは、以前はプロモーションの位置づけで行うことが多かったんです。CDやグッズの購入とファンクラブ入会の売上で収益を賄うことができたため、チケット代は多少安くしても問題ありませんでした。でも、昨今はCDが売れません。これまでの収益構造が崩れていく中で、音楽事務所もアーティストもライブで収益を得る必要が出てきました。そのため、従来のチケット価格では採算が合わなくなってきているのです」
さらに、国内人口における世代構造の変化も見逃せない要因になっている。A氏は次世代のエンタテインメントの担い手を育成する観点から、チケット価格も含めた日本のエンタテインメントのあるべき姿についてこのように述べた。
「今後、少子高齢化がさらに進めば、ライブに訪れる世代の人口は減っていき、現状を続けていてはライブが成立しなくなってしまう恐れがあります。さらに、ライブの作り手も高齢化問題が深刻で、50〜60代の方が現役でスタッフとして頑張っている構造があるんです。一方で、エンタテインメントの担い手として表舞台に立つ若者も、どんどん海外に流出してしまっている。次世代の若者にこの業界に入ってきてもらい、日本から世界に発信するエンタテインメントを作るためには、やはりお金の面も含めて、スタッフの土台をしっかりとキープしなければなりません。そのベースがあってこそ、アーティストの素晴らしいパフォーマンスが成り立ち、それがひいては世の中の多くの人に楽しみや感動、癒しを届けることにつながります。日本のエンタテインメントをこれからも盛り上げていくためには、チケット価格も含めて、スタッフもアーティストも、世界のエンタテインメントとレベルを合わせていかなければならないと思います」
チケット価格高騰の背景には、人手不足やインフラの問題など日本のエンタテインメントの未来に関わる重要な問題が残されている。これらの課題を乗り越えることができたとき、日本のエンタメは真の意味で新たなフェーズに突入すると言えるのかもしれない。
※1:https://corporate.pia.jp/news/detail_live_enta20230815.html
※2:https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00879/00003/
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