リアルライブの価値を高める多機能性 Sphere、The Bellwetherなど没入感やファンとの繋がり強化するアメリカの新ベニュー

多機能性を備えたアメリカの新ベニュー

 2023年はコロナ禍で行われてきた音楽ライブなどイベントの収容人数の上限撤廃や声出しが解禁され、音楽イベントが以前の形に回帰。これにより、今年は行動制限がない中で『FUJI ROCK FESTIVAL』や『SUMMER SONIC』をはじめとした日本を代表する音楽フェスが開催されたほか、現在もほぼ毎週と言っても過言ではないくらい、さまざまな音楽イベントが日本各地で開催されている。これにより現在、音楽フェスをはじめとするライブシーンは、コロナ禍以前の状況に勝るとも劣らない盛り上がりを見せている。

 また2023年は、昼間はライブホール、夜間はナイトクラブとして営業を行うZepp Shinjuku (TOKYO)/ZEROTOKYOや、「DJ MAG TOP 100CLUBS」(2022年版)でアジアNo.1の評価を受けたZoukグループによるZouk Tokyoといった新ベニューが東京の複合商業施設内にオープン。これによりコロナ禍が落ち着いた今、改めて、人が集まり、交流し、エンタテインメントを楽しむ空間としてのベニュー自体にも注目が集まっているように感じる。

 このようにコロナ禍により、全力で楽しむことが難しかったリアルライブの魅力を余すことなく楽しめる新ベニューの誕生は日本に限らず、海の向こうのアメリカでも見られる。そのなかで現在、もっとも話題となっているのが2023年9月29日(現地時間)にラスベガスにオープンした球体型アリーナの「Sphere」だ。

U2 - Live at Sphere, Opening Night, Las Vegas, USA - 29 Sep 2023

 世界のロックシーンを代表する、アリーナクラスのバンドであるU2によるこけら落とし公演が行われたSphereは、最先端のテクノロジーが詰め込まれたこれまでにない没入型のエンタメをリアルの世界で味わえると評判のベニュー。外側がLEDパネルで覆われた球体型のコンサート会場であるSphereの総工費は約3400億円と言われており、高さ366フィート(約112メートル)、幅516フィート(約157メートル)、外側を58万平方フィート(約5万3884平米)の2KのLEDが覆い、内部には16万個以上のスピーカーを備え、120万個のLEDスクリーンの解像度は地上最大の解像度16Kという画期的なスペックを持つ。U2によるこけら落とし公演の模様は海外メディアの報道のほか、SNSに数多く投稿されたことで、現地に足を運んだことはなくとも、その威容はなんとなく理解できるという日本の音楽ファンも少なくないだろう。

 ちなみにU2のメンバーであるボノ(Vo)の言葉を借りれば、Sphereは観客が映画やパフォーマンスに没入できるように造られたベニューであり、ホッケーの試合を観に来るための会場ではなく、建物全体がスピーカーになっているため、どの席にいても、完璧なサウンドを楽しめるとのことだ(※1)。

 高スペックなLEDスクリーンによるビジュアル演出は当然のことながらこのベニューにおける観衆の目を引く代名詞的要素であることは間違いない。しかし、この完璧なサウンドを実際に自分の身体で感じられる音響設計もまたSphereでの前例のない音楽ライブ体験を語る上で決して外せないものとなっている。

U2 - Live at Sphere, Opening Night, Las Vegas, USA - 29 Sep 2023

 興味深いのは、Sphereは音楽ライブに限らず、あらゆるイベントを没入感のある体験へと変化させる点だ。Sphereでは現在、U2によるレジデンシー公演『U2:UV Achtung Baby Live At Sphere』が開催されているほか、映画監督のダーレン・アロノフスキーによる映像インスタレーション作品「Postcard From Earth」も上映されている。Sphereは、音楽ライブ以外に授賞式やeスポーツ、ボクシング、総合格闘技などあらゆるエンタメに対応するように設計されており、それらのエンタメ体験に新たな視点を提供するとしている。

 その鍵となるのが、映像や音響だけでなく、気温の変化や風、香りといった五感を刺激する環境効果によって、観客が本当に別の場所にいるかのように感じる4Dテクノロジー。このような従来のライブ体験にない没入型の体験をWIREDは、ヘッドセット不要の“VR体験”と評している(※2)。

 リアルライブが息を潜めざるを得なかったコロナ禍ではメタバース空間を利用したバーチャルライブが注目を集めたことは記憶に新しい。このライブ体験は現実ではあり得ないVRならではの表現により没入感や追体験が話題になったが、次の発展・進化の課題として、しばしば挙げられたのは視覚以外の要素、つまり五感全てを刺激する要素だった。その意味では前述したSphereの4Dテクノロジーは、現行のバーチャルライブにはない要素を満たしていると言える。もちろん、リアルライブとバーチャルライブは同一視するものではなく、別物として考えるべきだが、五感全てを刺激するSphereが提供する没入感ある体験は、テクノロジーを駆使した最先端リアルエンタメ体験における現状の答えのひとつとして挙げられるはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる