岡本知高「老いと共に歌がどう変化していくかが何よりの楽しみ」 デビュー20周年を迎えてもなお追求する歌声の新境地

岡本知高、デビュー20周年インタビュー

日本中のホールを制覇したい

ーー今回は15曲中7曲が新録です。

岡本:僕は歌いたい曲をいつもメモしていて、その曲達を新たにレコーディングしました。忘れっぽい僕が46歳にして少し成長できた証でもあります(笑)。

ーー個人的に「やさしさに包まれたなら」の新録は、ハープとストリングスのシンプルなアレンジで、岡本さんの歌があの歌詞に改めて強い光を当てて、胸に“飛び込んで”きました。

岡本:よかった。今どの曲を聴いてもそうなんですけど、もっとこうしたいという思いが強くなっていて、この曲もこのアレンジで早くコンサートで歌いたいです。僕はユーミンさんの曲の中で「翳りゆく部屋」と「やさしさに包まれたなら」が大好きで、音楽をやっているということは、もう全てのエッセンスが自分の糧になって、本当に嫌なこととか悲しいことまで含めて、歌として昇華させるんです。あらゆるものが自分の糧になるということが、この歌の中では〈目にうつる 全てのことはメッセージ〉っていう簡潔なワードでまとめられています。

ーーシンプルなパワーワードですよね。

岡本:ユーミンさんがこの曲をどういう気持ちで作られたのか、僕は勉強不足で存じ上げないのですが、〈カーテンを開いて〉という歌詞も、40代後半ぐらいの女性がゆっくり開ける感じで捉えたり、雨がシトシトと降ってる感じとか、少し時間の流れがゆっくりで、大人の視点からこの曲を見たときに、なんて味わい深い作品なんだろうと思いました。若々しいフレッシュな感覚でも捉えられるけれど、僕はもう崇高な心のお薬みたいな曲だなって思ったので、とにかく音を削ぎ落して、シンプルにしました。シンプルな隙間にたくさんのメッセージがある、そのたくさんを表現したかったんです。

ーー「World in union」(Japanese version)も新録です。今年はラグビーW杯も開催されるので、またこの曲が注目を集めそうです。

岡本:コンサートではこの曲はこういう曲で、僕はこういう気持ちで歌いますということが伝えられるけど、やや長尺の曲なのでCDではたくさんの方にメッセージ性をわかりやすく伝えるために日本語で歌いました。

ーーこの曲もそうですが、岡本さんの代名詞ともいえる「Bolero」も収録されていて、コンサートの見せ場、聴かせどころになっている曲が全て入っていると思います。このアルバムを聴くとコンサートに行きたくなる人も多いと思います。

岡本:それは嬉しいです。コンサートだとトークを挟んだりして、色々なジャンルを岡本なりに歌うのが僕のスタイルで、でもアルバムって曲間にトークが入るわけでもなく、難しい面もあると思いますが、この作品は岡本知高を一枚にするとこうなりますという感じになっています。

ーーこのアルバムを引っ提げての全国ツアー『CDデビュー20周年記念Concerto del Sopranista2023-2024』が12月からスタートしますが、今回はどんな編成で臨むのでしょうか。

岡本:ピアノとパーカッション、キーボードでこのアルバムの曲達に込められたメッセージを丁寧に歌って届けます。

ーー今日、明日のことしか考えられないとおっしゃる岡本さんにこんなことを聞くのは野暮かもしれませんが、この先の野望、希望を教えて下さい。

岡本:そう聞かれて、いつも何も答えられないんですよね(笑)。というのは自分が年を重ねて歌える歌が僕は楽しみで、一方で、肉体の衰えとともに声の張りや高さ、力の面では衰えていくところも受け入れながら、老いと共に歌がどう変化していくかが何よりの楽しみなんです。でもそれは全てのお客さまに共感していただけるものではないと思います。自分がやりたいことはないのかなって一生懸命考えています。自分を磨くこと、この声をキープすることに必死で、コンサートに全精力を注いでいます。一生懸命考えた結果、日本中のホールを制覇したいと思いました。

ーー地方のホールって、いい音がするところがたくさんありますよね。

岡本:そう。日本はこんなに小さな島国なのに、ホールとか劇場の数が世界一なんです。だからできる限り行き尽くしたいというのがひとつの夢です。あとは、自分の故郷と同じぐらいの、ちっちゃな街にもたくさん足を運びたい。

ーー老いが味になって、歌にさらに深みや凄みを感じることができるのが楽しみです。

岡本:僕は色々なスポーツの大会でパフォーマンスをやらせていただいていて、なのでアスリートが若い年齢で引退されていく姿を見ると、ファンの方と同じようにすごく淋しい気持ちになります。一方で歌というものは、パフォーマンスに関してはいくつになっても歌えるし、もっと深いものが表現できるようになるはずです。『題名のない音楽会』のオーディションの審査員をやらせていただいたことがあって、80歳を超えた素人の方の歌って泣けるんです。年季が入った楽器の音が素晴らしいように、年老いた人の声も本当に素晴らしいので、そこを追求していきたいです。最近の悩みは、若い頃に比べて格段に自分の中の技術的なアイテムも増えたし、思考の余裕もできたし、もっとこうやって歌いたいっていうことがたくさんあり過ぎて、披露できる場がもっと欲しい。もっとこうしたいのにという、頭の中で聴こえている自分の歌をたくさんお届けしたいです。

■リリース情報
『あなたに太陽を~CDデビュー20周年記念ベスト』
9月20日(水)発売
¥4,000(税込)/¥3,704(税別)
詳細:https://store.universal-music.co.jp/product/uwcd10005/

公式サイト:https://www.okamototomotaka.com/
公式Twitter:https://twitter.com/TomotakaOKAMOTO

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