岡本知高「老いと共に歌がどう変化していくかが何よりの楽しみ」 デビュー20周年を迎えてもなお追求する歌声の新境地
岡本知高が、CDデビュー20周年を記念して『あなたに太陽を~CDデビュー20周年記念ベスト』をリリースした。
同作には、すでにリリースされている人気曲に加え、Kiroro 玉城千春による書き下ろし新曲「あなたに太陽を」や海上自衛隊の歌姫・三宅由佳莉とのデュエット曲「祈り~a prayer 2023」などの新録音曲も収録。こうした作品リリースやコンサート活動のほか、音楽・バラエティへのテレビ出演と、“男性ソプラニスタ”として多くのファンを魅了してきた。
インタビューでは、デビューから20年経った今もなお発見の連続だという、歌手人生について大いに語ってもらった。(編集部)
自分がやるべきことを常に考えながらやってきた20年
ーー10周年、15周年の時も振り返る機会があったと思いますが、20周年を迎えた今、どんな心持ちですか?
岡本知高(以下、岡本):色々な経験をさせていただいた20年なんですけど、僕の性格的には明日のことしか考えられないタイプで(笑)。なのでこの20年はずっと今日と明日の練習をどうするか、ということを考えて生活してきました。アーティストとしては、長い目で自分の人生設計を考える必要があるかもしれません。でも僕の場合はもうその日と明日を一生懸命生きよう、今自分がやるべきことは何だろうというのを常に考えながらやってきた20年でした。20周年を迎えられたアーティストさんを見るとすごいなって思います。でも自分がいざ20周年を迎えてみると、あ、こういう感じなんだって。自分自身のこれから先にも期待したいです。
ーー今が何より大切。
岡本:そう。振り返っても覚えていないんですよ、今に夢中なので。でも学生時代と比べて歌が大きく変わっているのは事実だし、それは僕自身の心が変わったということなので、それは事実として嬉しいです。自分自身は、今日と明日で変わるはずはないんだけど、リボンが裏返るように、ポイントポイントで変化はあったわけで。でも「大きな分岐点がありましたか」とか、「何か転機がありましたか」って聞かれることがありますが、自分の記憶としてはないんです。
ーーこれからそれを聞こうと思っていました(笑)。
岡本:そうなると、吹奏楽部でずっとやっていたサックスを声楽に切り替えた高校3年の時が、大きな分岐点だったと思います。プロになってからは先程も言いましたが、毎日自分と向き合って、今日よりもほんの少しでいいから成長した自分に、明日バトンを渡したいという気持ちで練習はしています。
ーーこれまで何度か岡本さんのコンサートを観させていただいていますが、岡本さんの歌を聴いてると「明日頑張ろう」とか「もっとちょっとだけ頑張ってみよう」って気持ちにさせてくれます。明日頑張った、その積み重ねの先に未来がある、ということを教えてくれる歌というか。
岡本:もう僕自身がまさにそうなので。劇場に足を運んで下さるお客さま一人ひとりの人生のようなものを感じます。僕も色々なコンサートや舞台を観に行きますが、劇場に座っているだけで気持ちがいいんです。その日その時の演者さんのパフォーマンスと、自分の人生の今日というタイミングで劇場に足を運んで、これは偶然というか奇跡というか狙ってでき上がった瞬間ではなく、その時間の流れに身を委ねながら、偶然その場で一緒になることができる時間なんです。自分の中では運命めいたことが起こる場所が、劇場だと思っています。
ーー今回の『あなたに太陽を~CDデビュー20周年記念ベスト』には、岡本さんがコンサートで大切に歌ってきた曲達が詰まっています。
岡本:そうなんです。アルバムのトラックナンバーの若いほうが今回チャレンジした曲で、大きい数字のほうが、これまで大切に歌ってきた作品です。
ーーアルバムの一曲目を飾るのは、Kiroroの玉城千春さんが書き下ろした新曲「あなたに太陽を」です。
岡本:20周年ということと、12月からスタートする20周年記念のコンサートツアーで新曲を歌いたいと思いました。それで誰に書いてもらうかってなった時に、僕の中では学校コンサートを始め、様々なコンサートでKiroroさんの「未来へ」をずっと歌わせていただいてきて、(玉城)千春さんとは一度もお会いしたことないのに、ずっと前から知ってる人という感じだったので、迷わず千春さんに書いていただきたいと思いました。
ーー玉城さんにはどんな曲を書いて欲しいとリクエストしたのでしょうか?
岡本:僕のコンサートには若い方もいらっしゃるけど、60〜70代ぐらいの方もたくさん足を運んで下さいますし、女性の方も多いです。普段、家事を忙しくこなし、家族を支えているお母さんたちに共感していただける歌詞を歌いたいとお伝えしました。千春さんは僕の気持ちもくみ取りつつ、でもやっぱり岡本知高の歌を作るとなると、最初はすごくスケールの大きなものを想定されたみたいで。それこそ「アメイジング・グレイス」のような広い世界が見えてくる作品を考えてくださったのですが、「もっと生活に密着した、普段の生活の中にある一場面を切り取ったようなものが歌いたいです」とお願いしました。
ーー確かに岡本さんが歌う曲を頼まれたほうは、懐の深い歌というか、懐の深い声が似合う歌を作りたいと思いますね。
岡本:そうみたいです。やっぱり僕の中にはまず「未来へ」という作品があったので、あの曲は自分のお母さんへのメッセージじゃないですか。そういうことを歌った新しい作品が欲しかったんです。