Bialystocksによる強烈なライブ体験 しのぎを削るクリエティビティがグルーヴにもたらすスリルと生命力

 Bialystocksの全国ツアー『Bialystocks 2nd Tour 2023』の追加公演。9月10日、EX THEATER ROPPONGIに集まった観客はみんな終演後に「とんでもないものを観た」と思ったのではないだろうか。それほど強烈なライブ体験だった。

 6~7月のツアー本編では、メンバーの甫木元空(Vo)、菊池剛(Key)に、サポートメンバーの朝田拓馬 (Gt)、Yuki Atori(Ba)、小山田和正(Dr)、秋谷弘大(Syn/Gt)が加わった6人編成で全国5都市をまわったBialystocks。対して、約2カ月後に実現した今回の追加公演は、オオノリュータロー(Cho)、早川咲(Cho)を迎えた8人編成で、extended edition的なライブだった。メンバーの嗜好が表れた会場BGMが流れる中、開演時刻を迎えると場内が真っ暗に。暗闇の中、「Winter」のメロディを用いたピアノのSEがレコードを思わせる音色で流れてきて、ライブの始まりを告げた。甫木元が歌い始めるとともに緞帳が上がり、大所帯のバンドが姿を現す。

 1曲目は「Nevermore」だ。冒頭は甫木元と菊池の二重奏だったが、ドラムフィルをきっかけにバンドイン。場内の照明もつき、一気に躍動する。バンドのサウンドは非常に肉体的。そしてバンドが熱量を上げるとともに甫木元もグッと声を張り、ソウルフルに歌っている。筆者はこの日初めてBialystocksのライブを観たが、今まで音源でのBialystocksしか知らなかった身からするとひっくり返りそうになるほどのエネルギーだ。演奏が終わると、観客が歓声と拍手をステージへ飛ばし、バンドを賞賛する。まだ1曲目とは思えないほどみんな興奮しているが、それほどバンドのパフォーマンスは素晴らしかった。ツアーをまわったことでアンサンブルは仕上がっているし、甫木元の喉も絶好調。“映画監督でもある”というプロフィールをうっかり忘れそうになるほど、シンガーとしての佇まいを完全に自分のものにしていた。

 Bialystocksのライブは即興芸術的だ。どの曲もライブアレンジが凄まじく、イントロやアウトロ、間奏の尺が延びていたり、全く存在していなかったパートが追加されていたりと、原型から大きく発展している。例えば「頬杖」の終盤にはバンドの音像が一気に激しくなり、甫木元もシャウトするパートがあるのだが、現在オンエア中のCMで聴いて「軽やかな曲だな」と思っていた人にとってはサプライズ的な展開だろう。レコーディングを終えたら完成ではなく、根っからのクリエイターである8人は今この瞬間も一回性の芸術を“作って”いる。それぞれのクリエイティビティの調和やぶつかり合いが、バンドのグルーヴにスリルと生命力をもたらしている。

 フォルテッシモからピアニッシモまで自由自在なバンドサウンドは、ある時は宇宙までダイナミックに飛翔し、ある時は聴き手のごく私的な感覚とリンクする。テクニカルなプレイの数々がパズルのように噛み合い、大きなダイナミクスを生む「All Too Soon」。星空や積雪を思わせる照明演出とともに届けられた「Winter」。旋律を丁寧に歌い繋ぐ「Thank You」の繊細な美しさ。コーラス入りの編成だと一層楽しい「I Don't Have a Pen」。ボコーダーを用いつつハーモニーで魅せた最新曲「Branches」の重厚な存在感。ハイライトは様々あったが、あの場にいた多くの人が真っ先に思い浮かべるのはおそらく「あくびのカーブ」のアウトロだろう。バンドメンバーが一旦捌け、ステージに残った朝田、Atori、小山田が白熱のセッションを繰り広げる中、彼らを撮影しようと甫木元がカメラを持って再登場したため、会場は大盛り上がり(先ほど甫木元について“映画監督でもあるというプロフィールをうっかり忘れそうになる”と書いたが、これは紛れもなく映画監督だからこそできるパフォーマンスだ)。さらにエレキギターを携えた菊池、秋谷が合流し、トリプルギターで豪快に締め括ったのだ。

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