WANIMA「今までのイメージや期待や予感を裏切っていきたいと思えた」 4年ぶりアルバム『Catch Up』で見えた決意と成長を語る
欧米を中心にポップパンクのリバイバル・ムーブメントが起こっているなか、ここ国内でも世代を超えて多数のパンクバンドが充実した作品をリリースしている昨今。日本の場合、Hi-STANDARDやELLEGARDENといった偉大な先人の影響もあり、メロディックパンク~メロディックハードコアのバンドが中心となって、より一層広いジャンルに影響を与えながらシーンを形成してきた。その結果、近年は彼らのDNAを正しく継承しつつもさらに新たなパンク像を打ち出すKUZIRAやTrack’s、ENTHといった世代が台頭。一方で、隣接するジャンルとしてエモのリバイバルも密かに進行し、ANORAK!やdowntといった面々がクオリティ高い作品で新たな潮流を生み始めてもいる。今まさに、国内のパンクとその周辺では独自の豊かな景色が広がりつつあるのだ。
そのような状況において、中心的な存在として忘れてはならないのがWANIMAだろう。2014年にデビューした彼らは、ヒットチャート上でも戦える稀有なグループとして、今のシーンの盛り上がりを生んだ立役者に違いない。もちろんその功績はセールス面だけではなく、音楽面に関しても言える。近年のパンクが内包するジャンル雑多性は、もともとWANIMAにおいても観察されてきた通りで、彼らはメタルやHIPHOPにレゲエ、スカ、ロカビリー、サンバといった実に多彩なサウンドを背景に忍ばせてきた。さらに昨年からは地元・熊本でフェス『WANIMA presents 1CHANCE FESTIVAL』も主催。MONGOL800、10-FEET、MY FIRST STORYといったパンク勢からASIAN KUNG-FU GENERATIONやONE OK ROCKといった大物実力派、さらにはKREVAやCreepy Nuts、AK-69といったHIPHOP勢までもが並ぶ、ジャンル横断的なイベントとなっている。若手を脱し中堅バンドとなりつつあるWANIMAの立ち位置は、徐々に変化の一途をたどっているのだ。
そんな彼らが、約4年ぶりのニューアルバム『Catch Up』をリリースする。今作は制作のアプローチを変化させたとのことで、近年のパンクの盛り上がりを紐解くうえでも鍵となる作品に違いない。ヒントを探るべく、メンバーに話を聞いた。(つやちゃん)
一曲ごとにテーマや色味が定まっている それぞれが“今のWANIMA”
――『Catch Up』、完成おめでとうございます。とても充実したアルバムになりました。
KENTA(Vo/Ba):昨年から開催していた『Catch Up TOUR -1 Time 1 Chance-』(2022年3月より実施)の最後の位置づけとして、このアルバムを作りました。ツアー中から、アルバムを作っていることを伝えておけばよかったなと思いました。でも、20曲あって、「こいつらもう解散するんかな?」とも思われるくらいのボリュームになりました。一曲ごとにテーマや色味が定まっていて、それぞれが“今のWANIMA”だと思います。
――テーマや色味が定まったのはなぜでしょう。制作スタイルで変えたことがあったんですか?
KENTA:10年やってきて、今までは自分以外の他の方にお願いしていた作業を、少しずつ自分たちでできるようになってきました。できないならできるように努力する。ないならあるなかで工夫する。プリプロも前までは自分たちではできない部分が多くありましたが、「曲の持っている色味をどのように表現するか」ということに対して準備ができるようになりました。
――なるほど。アルバムも、これまでのWANIMAらしさをしっかりと押さえつつも、バラエティに富んでいますよね。特に、7曲目「FLY & DIVE」や8曲目「Chasing The Rainbow」のメタリックなギターは印象的ですし、「夏暁」などもラップのような跳ねたリズム感があって面白いなと思いながら聴きました。
KENTA:「Chasing The Rainbow」は、村上宗隆選手(東京ヤクルトスワローズ)の登場曲として作った曲です。縦ノリのビートが、大きいスタジアムで鳴って映えるようにイメージしました。ラップの感覚は、自分がもともとHIPHOPとレゲエにルーツがあるからだと思います。
――KENTAさんは以前から、HIPHOPやレゲエを結構聴いてきたことを明かされていますよね。
KENTA:好きなのでかなり聴いています。自分の思っていることをパンチラインにして曲に落とし込むのは、そういった影響もあるのかもしれないです。
――ちなみに、みなさんは普段どのような音楽を聴かれているんですか?
FUJI(Dr/Cho):自分もHIPHOPやレゲエは聴いていますが、どちらかと言うと、バンドやポップスが好きです。ただ、「自分のドラミングに足りないところはどこだろう?」と考えた時に、パターン化している部分だらけでした。だから、HIPHOPやレゲエのビートをちゃんと自分のなかに落としていかないといけないと思って、意識的に聴いてインスピレーション源にしていきました。今までそんなことはやってきていなかったので、そのあたりも、これまでと制作の仕方が変わりました。
――具体的にどのあたりをドラムプレイに反映しましたか?
FUJI:今まで、ビートとビートのあいだにくるオカズが特に一辺倒でした。その固定観念を外したかったから、ふたり(KENTA・KO-SHIN)にも聴いてもらって、ちゃんと意見を言ってもらいました。タイム感も同様で、これまでは自分のドラムってどうしても突っ込んでしまいがちでした。その突っ込みのせいで曲を台無しにしていたこともあった。そういった欠点にちゃんと向き合って、今回の20曲はトライさせていただきました。
――Xに影響を受けているとこれまでもおっしゃっていた通り、WANIMAは疾走感のあるドラミングが売りですもんね。でも、そこであらためて緩急を意識するようになったと。
FUJI:自分が今まで得意だと思っていたビートも、テンポが少し上下したりするだけで、まったくグルーヴが出せなくなっていました。
――メンバーに意見を求めてフレーズを直していった曲って、どのあたりですか?
FUJI:20曲ほとんど全部。2曲目の「名もなき日々」の最初のビートは、自分では絶対出てこなかったリズムです。KENTAが作詞作曲しているので、全体の方角を指示してくれるなかで、そのメロディと言葉の色味を教えてもらったうえでドラミングに落としていきました。
――KO-SHINさんはいかがですか?
KO-SHIN(Gt/Cho):自分はもともとEDMやクラブミュージックが好きで、それ以外にも特にHIPHOPや90年代のロックを聴くようになりました。聴く曲の幅は広がりました。
――それが作品にも反映されている?
KO-SHIN:されていると思います。曲がより活きるようなギターをイメージして、それを具現化できるようになった。特に「FLY & DIVE」は、今まで出てこなかったフレーズです。
KENTA:今ふたりの話を聞いていて、すでに世のなかにあるたくさんの曲から「これよかね!」「参考にしてみようか!」って柔軟に自分たち自身のなかに取り入れられるようになったことがすごく大きかったんだと思います。曲作りは苦しい作業だと勝手に決めつけていた。もちろん今も簡単な作業ではないけれど、もっと頭を柔らかくして向き合えるようになった気がする。今までだったら、19曲目の「Midnight Highway」は、形にすることもできなかったと思う。これは、深夜の高速を車で走って、ただ過ぎていくだけの思い出す過去や今の景色をきっちりキャッチして残すことができた曲です。このアルバムは、一曲一曲すべてを今の自分の温度を逃さずにひりつきながら作ることができました。
――今までの曲作りのアプローチは結構ガチガチだったんですね。あまりそういうイメージがなかったです。勝手な思い込みですが、出来上がった楽曲を聴いているぶんには、もっと伸び伸びと作られているのかと思っていました。
KENTA:今までは自分の技術不足で頭も表情も固かった。要領も悪くて凝り固まっていたと思う。今までは、スタジオに入ってゼロから曲を作り出さないと勝手に追い込んでいた。常にアイデアが降りてくるのを待っている状態。でも今回はテーマと期限を決めて作らせてもらいました。16曲目の「バックミラー」は、「バックミラーに映る景色が過去とするならば?」ということをテーマに設けたり、そこから思いを馳せたり、今までとは作り方が変わった。
――なぜそれができるようになったんですか?
KENTA:ごちゃごちゃ考えて泥沼にハマらず、切り替えられるようになったからかな。一日スタジオにこもって何も生まれずに帰る日があったとしても、そこから発想や気持ちを切り替えて違う形で次の日に挑めるようになった。意識して過信せずに成長し続けてさえいれば曲はどんどん生まれるはずだと考えられるようになったのも大きいと思います。
――なるほど。たしかに、今作は曲展開が新鮮ですよね。ところどころ、裏切られるような部分がある。
KENTA:今までは、僕たちのなかに「次のパターンはこうじゃないとダメや!!」という思い込みさえあった。でも、もう今までのWANIMAのイメージや期待や予感を裏切っていきたいなとも思えたね。新しく出会う人たちが、「あれ? 自分の知っているWANIMAとはなんか違うな」と思ってくれたら嬉しい。今まで応援してくれた人たちに対しても、今までとこれからをぶつけてWANIMAについてきてよかったなと思ってもらえるような作品になっていると信じています。