GRAPEVINE「Ub」がもたらすのは安心だけではない ディストピアから手を伸ばす“新たな自信作”に込められたもの

GRAPEVINE、新たな自信作に込められたもの

 GRAPEVINEが9月27日にリリースする18作目のアルバムタイトルが発表された。『Almost there』。「もうちょっと」「あと一息」といった意味だ。そしてこのタイトルは、「雀の子」に次ぐシングル曲として8月30日に配信がスタートした「Ub(You bet on it)」と関わりがあるらしい。

 「Ub」という文字から自転車で走り回っているフードデリバリーサービスを連想してしまったが、その後に続く「(You bet on it)」の省略形なのだろう。「4U」が「for you」を意味するのと同じようなものか。このフレーズは、betというから賭けることではあるのだが、いわゆるギャンブル用語ではなくて、絶対に自信があることに「君はそれに賭けていい(勝てる)」と促す感じ。「Ub」の歌詞で〈賭けてもいいぜ Baby〉と歌っていることからタイトルにしたのだろう。つまりは、この曲が自信作ということだ。

 人を食ったような関西弁の歌詞と複雑に展開する演奏で煙に巻いた「雀の子」とは対照的に、「Ub(You bet on it)」は全体にストレートなバンドサウンドで聴かせる落ちついたテンポの曲。歌詞もシンプルでわかりやすいし、田中和将(Vo/Gt)の歌は言葉が明瞭で聴きやすい。ラジオのヘビーローテーションを目指そう、SNSでバズらせようとプロモーションチームが力こぶを作るのが目に浮かぶよう。

GRAPEVINE – 雀の子(Official Lyric Video)

 勝手な想像をしていてもGRAPEVINEのことだ、「そんなことありませんよ」とあっさり否定してきそうだし、彼らがこの曲で表そうとしていることは他にあるに違いない。作曲は亀井享(Dr)、作詞は田中。亀井らしいキャッチーなメロディに田中は伸び伸びと歌詞をつけている。ちなみに「雀の子」から高野勲(Key)がプロデュースとクレジットされている。アルバム全体のプロデュースなのか楽曲単位なのか現段階では不明だが、初期の長田進や根岸孝旨、最近では高野寛やホッピー神山などがプロデュースを手掛けた以外は、GRAPEVINEとしてのセルフプロデュースで制作してきた。今回は長らくサポートメンバーとして活動してきた高野に委ねるという新たな試みをしているようだ。

 ガサガサとしたカッティングギターに乗って田中は歌い出す。もう1台のギター、ベース、ドラム、シンセと、一つひとつの楽器がくっきりとした音像で登場してくる。ギターリフは様々に変化するけれど、「雀の子」のように極端な曲の構成やテンポの変化はないので安心感を持って最後まで聴くことができる。ポップソングなら当たり前のことだし、GRAPEVINEはこれまでも数多の曲で私たちを安心させてくれてきたのだが、それが逆に落とし穴かもしれんなどと疑心暗鬼にさせられるのは「雀の子」の後だから。羹に懲りて膾を吹くとは、このことだ。

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