GRAPEVINE『another sky』はなぜキャリアの転機となったのか? 20年越しの再現ライブで示した“バンド活動の変遷”

GRAPEVINE『another sky』はなぜ転機に?

 GRAPEVINEが7月1、2日に東京・昭和女子大学人見記念講堂で行った『grapevine in a lifetime presents another sky』のうち、2日の公演を完全収録したDVD&Blu-rayが12月21日にリリースされる。この公演は、20年前に彼らがリリースした5作目のフルアルバム『another sky』再現ツアーの一環として行われたもの。

 タイトルにある「in a lifetime」とは、2014年に2作目『Lifetime』の再現ツアーを行った際のツアータイトルだ。ちなみに、そのライブ映像も『IN A LIFETIME』と題してリリースされている。「in a lifetime」がアルバム再現ライブツアーとして新たな意味を持って定着したのは、2016年にTRICERATOPSと共に回った時。同じ1997年メジャーデビュー組であるこの2バンドが、それぞれ、TRICERATOPSはミニアルバム『TRICERATOPS』、GRAPEVINEは1stアルバム『退屈の花』を演奏。当時を思い出させつつ、デビューから15年を経たバンドの成長と時代の流れといったものを感じさせた。

GRAPEVINE - アナザーワールド(in a lifetime presents another sky)

 そしてメジャーデビュー25周年を迎えたGRAPEVINEが今回取り上げた『another sky』は、彼らにとって一つの節目と言っていい作品だ。デビューし順調に歩みを進めてきた彼らだったが西原誠(Ba)がジストニアを発症し演奏が難しい状態になった。治療のためバンドを一時離脱、4thアルバム『Circulator』で西原は3曲参加したが、田中和将(Vo/Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)の3人を中心に、プロデュースを担当した根岸孝旨らのサポートを得て制作した作品となった。後に復帰した西原は『another sky』の12曲のうち5曲を演奏したが、本作後にバンドを離れることになった。そんな複雑な背景のある作品だが、この時期のツアーから サポートメンバーとして高野勲(Key/Gt)と金戸覚(Ba)が加わる。痛みを伴いながら今に至る起点にもなったのが『another sky』であり、25年を振り返った時に触れておくべき作品と彼らが思ったのも不思議ではない。

 そんな重要な作品の再現ライブに、彼らはどんな思いで臨んだのだろうか。本公演には西原が駆けつけ、客席からライブを見届けていた。スペースシャワーTVで放送された当日のドキュメンタリーでは、田中、西川、亀井、そして西原がインタビューに答えている。本作品について「思い出深い作品」(田中)、「初期GRAPEVINEの最後のアルバム」(西川)、「複雑な時期のアルバム」(亀井)、「僕にとっては遺作。でも悲しみのノスタルジーはない」(西原)といったコメントから、やはり節目となった作品であることがわかる。ステージでは、20年前にリリースした作品であると田中が言及しただけだったが、バンドにとって大きな節目となった作品を再演し、それを西原が観ているということに様々な思いがよぎったに違いない。

 本アルバムの曲を丸々演奏するのも20年ぶりだったことだろう。前述のように不安定な状態でのレコーディングからサポートを迎えてのツアーを、もちろん当時の彼らは遜色のない演奏で行なったはずだ。この公演では、その後の20年で固めてきた5人体制で演奏することで、楽曲は大きな手応えを生み、バンドの表現力や演奏力が充実していることを感じさせた。それこそが、メンバーが西原に見届けてほしかったことなのではないか。前述したスペースシャワーTVのドキュメンタリーで、メンバーと同じくインタビューに応えていた根岸が、脱退を決めた西原から「僕が抜けてもバンドは存続します」と言われたと語っていた。その言葉への答えが、この再現ライブだったのではないか。そして、今回演奏したことで、『another sky』はひとつの完結を迎えたのではないかと思う。

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