GRAPEVINE『another sky』再現ライブから見える“25周年迎えたバンドの歩み” 今井智子、imdkm、森朋之が紐解く

GRAPEVINE 25周年をライター3氏が考察

 今年メジャーデビュー25周年を迎えたGRAPEVINEが、12月21日に映像作品『in a lifetime presents another sky』を発売する。本作には、7月に行われた20年前のアルバム『another sky』の再現ライブ映像が収められており、GRAPEVINEのロックバンドとしての歩みを辿る上でとても興味深い内容になっている。今回はそんな映像作品の見どころや、そこから浮かび上がるGRAPEVINEの特異な魅力について、音楽ライターの今井智子氏、imdkm氏、森朋之氏がそれぞれの視点から考察していく。

GRAPEVINE - in a lifetime presents another sky(Official Trailer 2)

「西原誠と過ごした時間と、その後の20年を結びつける」(今井智子)

 GRAPEVINEのステージは、いつもシンプルだ。メンバーと楽器、それらを照らすライティングぐらいで映像さえ使わない。そんなステージに持ち込まれたサインボード(看板)は小さいながら存在感を示している。

 これは彼らの2ndアルバム『Lifetime』のジャケット撮影に使われたもので、2014年に同作の再現ライブを行って以後、再現ライブのステージに登場するようになった。今回DVD&Blu-rayでリリースされる『another sky』(2002年)の再現ライブ『in a lifetime presents another sky』も然り。冒頭のシーンで田中和将(Vo/Gt)は、このサインボードを嬉しそうに持ってステージに現れる。

 “Lifetime”は人生とか生涯といった意味だが、過去の作品を現在の自分たちが演奏する再現ライブシリーズにそんなタイトルをつけたのも彼ららしい。人生は振り返ってみると、思いがけない記憶を呼び覚ましたり、自分のことなのに新たな気づきがあったりする。再現ライブはバンドにとって、まさにそんなものなのではないだろうか。『another sky』は20年前にリリースされたアルバムだが、彼らにとって大きな節目となった作品である上に、この制作を最後に脱退した西原誠(Ba)が再現ライブのステージを見守っていたのだ。そういったこともあり、ひときわ強い想いがこの再現ライブには込められていたに違いない。

 西原は脱退時、当時プロデュースを手掛けていた根岸孝旨に「僕が抜けてもバンドは存続します」と語ったそうだが、その言葉通り3人はサポートの金戸覚(Ba)と高野勲(Key)とともにバンドを続け、確実に成長して今に至っている。この20年の間も、バンドを立ち上げて彼らを結びつけた西原へのシンパシーを持ち続けてきたのではないかと思う。1部で再現された『another sky』は前述のように西原が参加した最後の作品であり、最新アルバム『新しい果実』(2021年)収録曲やお馴染みの曲などを演奏した2部のセットリストに入っていた「コーヒー付」「Scare」は西原の曲だ。この再現ライブは、20年を経て成熟してきたバンドが当時の曲を演奏することで、西原と共に過ごした時間とその後の20年を結びつけていた。

 もっとも、そんなセンチメンタリズムは彼らの演奏には微塵もない。GRAPEVINEとして力強く存在感のある演奏を聴かせるだけだ。アルバム収録順に演奏する1部は落ち着いた流れで1曲1曲を丁寧に演奏し、2部は起伏のある展開でオーディエンスを惹きつけていく。地層のように様々な想いが重なっている再現ライブだが、大切なのはGRAPEVINEというバンドの今を感じることだと思う。あなたがこの映像作品を観る時には、ここに書いたことなど忘れてGRAPEVINEを楽しんでほしい。(今井智子)

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