日食なつこはなぜ特殊な会場でライブを行うのか 全国の“植物園”を巡るツアーで得た人生初の音楽体験

日食なつこ『花鳥域』を振り返る

 ライブも中盤に差し掛かったところで、懐かしい曲がいくつか歌われる。2ndミニアルバム『オオカミの二言』に収録されている、「ヒューマン」と「少年少女ではなくなった」である。彼女のライブ会場に設置される「お手紙ポスト」に届いた手紙の中で、特にリクエストの多かった楽曲だという。ライブ毎にコンセプトや音楽的(あるいは演奏上の)テーマはありつつも、こうした音楽を通じての観客との交流も、日食なつこが大事にしているものだろう。とりわけ「少年少女ではなくなった」は、ままならない人生を強く生き抜くようなリリックと、それを真っ直ぐに届けるような歌唱が素晴らしい。

 燃えるように愛したかつての恋を歌う「座礁人魚」は、悲恋を綴った曲が多い『はなよど』との馴染みが良い。そして植物が見える場所での弾き語りでは、どこか幻想的に響くから不思議である。景色によって曲のニュアンスが変わるのも、このツアーのちょっとした効果なのだろう。また、この日ひとりで歌った日食なつこは、まるで物語を読む詩人のようで、歌を媒介にして曲に込めたストーリーを伝えているようにも感じた。

 この日二度目のMCが入るわけだが、とんでもないエピソードを聞かされることになる。なんとこのツアーに合わせて、植物園に似合うであろう孔雀の石膏像を購入したのだが、それがまさかの詐欺サイト。入金を済ませたところで気づいたというのである。現実にそんなことあるのか? と言いたくなるような話だが、その悔しさもツアーを完走することで成仏させたのだと信じたい。

 ここまでじっと聴き入っていた会場から、「蜃気楼ガール」で大きな手拍子が起こる。加速していくイメージを喚起するテンポ感とポップなメロディが、一瞬でファンの心を掴んだようだ。続く「真夏のダイナソー」と併せて、梅雨を抜けた先にある夏を迎えにいくような爽快さに胸がすく。

 コンパクトなセットリストであっという間に過ぎていったライブは、最後に「やえ」を聴かせて幕を閉じた。佳曲揃いの『はなよど』の中でも、一際詩美を感じる曲である。とりわけライブでこの曲を聴くと、その包み込むようなメロディに改めて引き込まれてしまう。歌は儚くも力強く、抒情的な旋律が足を運んだ多くの人を魅了したはずだ。そして原曲にはストリングスのアレンジが入っているため、きっとこの先大きな会場でもどんどん育っていくのだろう。

 さて、先のインタビューでは、2023年は「リリースをせずに音楽を届ける手段を考えている」、「既存曲を使って変則的なことをやる年になるんじゃないか」と語っていた日食なつこである(※1)。「植物園ツアー」を終えたあと、どんなアイデアが飛び出してくるのか楽しみである。

※1:https://realsound.jp/2023/04/post-1310576.html

■リリース情報
6thアルバム『はなよど』
発売中
¥2,420(税込)

<収録曲>
1.やえ
2.ダム底の春
3.夕闇絵画
4.幽霊ヶ丘
5.diagonal
6.ライオンヘッド
7.蜃気楼ガール

配信はこちら
https://orcd.co/nisshoku

日食なつこ 公式サイト
https://nisshoku-natsuko.com/

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