日食なつこはなぜ特殊な会場でライブを行うのか 全国の“植物園”を巡るツアーで得た人生初の音楽体験

日食なつこ『花鳥域』を振り返る

日食なつこ 『花鳥域』東京公演レポート

日食なつこ 『花鳥域』東京公演
『花鳥域』東京公演(SHARE GREEN MINAMI AOYAMA)

 朝起きた時には土砂降りだった雨も上がり、曇り空で耐えるSHARE GREEN MINAMI AOYAMAに多くの人が集まった。日食なつこによる6thミニアルバム『はなよど』のリリースツアー『花鳥域』、その東京公演である。

 まず語るべきは、そのロケーションだろう。ボタニカルコンセプトを掲げ、北海道のいわみざわ公園 色彩館を皮切りに、全国8都市の「植物園」で演奏するソロライブツアーである。レポートする会場SHARE GREENも、芝生広場を中心にショップやカフェが立ち並ぶ、都会のオアシスといった風情が印象的だ。会場の壁はガラス張りになっており、ライブ中にも広場に目を向けると子供が駆け回り、すずめが芝の上を飛び跳ねる。いわばガラス1枚を挟んで、日常と非日常が隣り合う空間である。

 ステージに置かれているのはピアノと最低限の機材、そしてそれを囲うように茂る植物、それから日食なつこをひっそりと照らすスポットライトだけである。会場の雰囲気は静謐で、ライブが始まってからも、お客さんは緑の舞台を見つめてじっと聴き入っているようだった。10数名のサポートメンバーが立ち代わり現れ、オーディエンスも手拍子や歓声で応えるなど、「動き」の多かった前ツアー(『蒐集大行脚』)に比べて、趣を異にしているのは言うまでもない。開放感よりも没入感がある、「聴く」というよりも「向き合う」という印象、そんな静寂を愉しむライブである。

 定刻からいくらか過ぎたところで現れた日食なつこを、多くの拍手が出迎える。が、早速演奏に移るのかと思いきや、始まったのは「公開サウンドチェック」である。普段カフェとして使用しているスペースを借りていることもあり、本来ライブ開始の数時間前に行うリハを本番にくっつけたという。そうした柔軟な姿勢からは、自身の力量への自信、あるいは余裕が透けて見えるようである。

 一通りのチェックが済むと、「ダム底の春」「夕闇絵画」「幽霊ヶ丘」と『はなよど』からの新曲が続いていく。シンガポールのインディロックバンド、Sobsをフィーチャーしたことでも話題となった「ダム底の春」は、鍵盤と歌だけになっても原曲の持つ爽やかな空気が残っている。軽やかなタッチで聴かせる左手のリズム、春風を感じて微笑むようなメロディが秀逸だ。幽玄な空気を醸し出す「幽霊ヶ丘」は、特にこの日のコンセプトと調和していたように思う。もしも林の中から恋人の幽霊が現れるなら、きっとこんな曲が鳴っているんじゃないだろうか。

 一層儚く、侘しさを噛み締めるような「泡沫の箱庭」を終えると、ツアーのコンセプトを語る簡単なMC。そして「diagonal」で演奏再開。歌詞からは生きるための意地やプライドを感じずにはいられないが、演奏は存外柔らかく、小さい会場にすーっと染み渡るような曲である。「ライオンヘッド」はソロの演奏でもリズミカルな魅力が十分。力強く地面を踏みしめるような低音には、原曲でパーカッションアレンジを担当したLA SEÑASから引き継いだ心意気を感じてしまう。

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