『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』、今年も紡がれた新たな物語 64,000人の祝福と歓喜の2日間を兵庫慎司が振り返る
それから。例年以上に各地で酷暑を迎えている今年、北海道も例外ではなく、本当に暑かった。特に1日目が。「RED STAR FIELD」に出たハナレグミが、「オリビアを聴きながら」でフィールドを盛り上げたあと、「オリビアを歌いながら、クラッと、天に召されそうな瞬間がありました」と言うほどである。
2022年は感染予防対策で、屋根を外してオープンエアになったが、今年は元の形に戻った「EARTH TENT」は、ステージに風が通らない構造で、演者にとって、かなり酷だったらしい。
初日トップのSHISHAMOは、最初のMCで「暑い!」「風通らなくない?」「何これ!」と、口々に言い合っていた。が、ライジングに出るのは6年ぶりでSHISHAMOは今年10周年、今日を楽しみにしていました――と喜びを伝え、「この曲だけ撮影&拡散OK」と伝えて、新曲「夏恋注意報」をプレイ。演奏前に、「ミスったらアップしないでください、それかその部分をカットしてアップしてください」と、丁寧にオーディエンスに頼む宮崎朝子だった。
2日目は、初日と比べるとちょっとマシな気温だったが、それでも同ステージのトップに出たMONGOL800の上江洌清作が「暑いっ!」と漏らしていたのには、「うーん、そうかあ、そうよねえ……」と、ちょっと考えさせられてしまった。たしかに今、沖縄って国内トップクラスの過ごしやすい気温ですよね。沖縄のバンドが北海道に来て灼熱地獄を味わっている、という。
そして、トラブルも。初日の最も暑い時間、14時にトップで「SUN STAGE」に立ったCreepy Nutsの、R-指定が熱中症になってしまったのだ。この日のライブは最後までやり遂げたものの、翌日の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』出演が、キャンセルになった。
それぞれは何度も『RSR』に出ているが、この形では初出演だったのは、地球三兄弟(真心ブラザーズ+奥田民生)。2曲目の曲中で、THE EARTH(桜井秀俊)が「地球のみなさんこんにちは、フェス初登場、地球三兄弟でございます!」と叫ぶと、曲終わりでOしゃん(奥田民生)、「そうか、初か。じゃあ我々は何をしてたの?」。
同じ2日目の「Hygge STAGE」に、ひとりで弾き語りで出演した尾崎世界観は、自分は座って歌うのにオーディエンスが立っているのが気にかかったようで、「みなさんもよかったら座ってみませんか?」と促す。
かなり多くの人が集まっていたので、結果、ものすごい広い範囲で、参加者がみんな座って、尾崎の歌に耳を傾ける、という、不思議な光景になった。しかも時間はちょうど夕暮れ、空も参加者も尾崎も徐々に赤く染まっていく。こういう時に歌われた曲(「ナイトオンザプラネット」や銀杏BOYZ「東京」のカバーや「ex ダーリン」)が、後々の『RSR』の物語になっていくのかもしれない。と、聴きながら思った。
これからも、震災も来るだろう。疫病も来るだろう。でもその中で生き抜くために学習して、 (命や生活を)つないでいく、それがわかるための小休憩だったと思えば、この2〜3年もムダじゃなかったんじゃないかな――OAUのTOSHI-LOWはMCで、コロナ禍以降から現在までを、そう位置づけた。
オーディエンスの反応のよさで、「こんな景色見たことねえよ、おまえら最高だよ!」と、ボーカル 柳田周作が半泣き(に見えた)で叫んだ神はサイコロを振らないは、同じ「EARTH TENT」で3つ前に出たPEDROのアユニ・Dを呼び込んで、「夏の曲です」と、一緒に作った「初恋」を、共に歌った。
2019年、『RSR』からの出演オファーがきっかけで再結成した(しかし台風のため中止で出演できなかった)NUMBER GIRLは、2022年の悲願の『RSR』出演と、12月11日のぴあアリーナMMのワンマンを終えて、再び解散。というわけで今年は、2日目23時20分の「RED STAR FIELD」に、向井秀徳は「MATSURI STUDIOから100年ぶりにやってまいりました、ZAZEN BOYSです」と登場した。
中盤のMCで向井は、「新作を制作しております。録音作品として、11年みなさんにお届けしておりません。今年中に出したいと思います。こうしてみなさんの前で言うことで、私のケツを、パーンと突き上げております」。で、その新作の中から3曲を演奏。
全曲を終え、去り際にコップを掲げ、「ライジングサン、乾杯」と言ってから向井、「あの、はっきり決めましたよ。ZAZEN BOYSは今年中にニューアルバムを出します」。さっき宣言してから演奏している間に、決意が固まったらしい。
「SUN STAGE」の大トリひとつ前のVaundyは、自身のヒット曲を惜しみなく連打し、超満員の参加者を熱狂させながら、「ありがとう、藤井 風!」と叫び、彼の「何なんw」も歌った。昨年の出演が自身のコロナ感染でキャンセルになり、藤井 風がその穴を埋め、Vaundyを4曲カバーしたことへのお礼である。こんなドラマも、今の『RSR』ならでは、かもしれない。
そして、「SUN STAGE」朝4時からの大トリ、マカロニえんぴつ。曲の合間に「いやあ、噛み締めたい! 噛み締めたい!」と喜びを表したり、「今年、いろんなフェス、出さしてもらってるけど、“今日が最後かも”と思って演奏しています。今日は特にその思いが強いです」と急にシリアスなことを言ったり、感情の振れ幅も楽曲の振れ幅もダイナミズムがデカいパフォーマンスで、オーディエンスを魅了し続けていく。
はっとりは、アンコールの時、自分たちが大トリを引き受けたことについて、こう言葉にした。
「納得してない人もいると思ったの。だって、ライジングサンっぽくないじゃん。若林さん(『RSR』プロデューサー)と飲んだ時言ったの、荷が重いって。でも、若林さんに『大トリをやってほしい、世代を背負ってほしい』って言われた、光栄だと思った、これからライジングサンも変わっていく。俺らのあとも、新しいバンドがどんどん出てきている。でも、今年、その大きな節目を担ったと、自信を持って言える」
そして、「もう1曲、一緒に歌ってほしい。絶望をちょっとした希望に変えてほしい」という言葉と共に、この時間まで残った、「SUN STAGE」エリアいっぱいの参加者に、「ヤングアダルト」を贈った。
時間とお金をかけて、泊りがけで遠くまで行って、たくさんのステージの中から観るアクトを選びながら、で、時には何も観なかったりしながら、自然の中で、不便や不自由をも「楽しさ」として受け止めながら、非日常を味わうロックフェス――つまり、この『RSR』やフジロックのような大規模な野外ロックフェスは、現在岐路に立たされている、と感じることが多い。
都心から近いコンパクトな会場で、ステージ数もそこそこで、ムダな時間なく、次々と豪華なアクトを観ることができる、便利でリーズナブルなフェス──言い換えれば、それは「フェスという幻想を必要としないフェス」「“イベント”に近いフェス」ということになるのだろうが、そんなフェスのほうが求められる時代になっている、という傾向は、確実にあると思う。コロナ禍が世の中をそう変えた、とも言えるし、それよりもっと前からその傾向は始まっていた、という見方もできる。
ここのところ、毎年2日ともチケットがソールドアウトしている幕張の『SUMMER SONIC』や、ひたちなかから蘇我に場所を移しても連日ソールドアウトの『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』が、その証だと思う。
ただ、世の中の流れがそうであっても、そんな時代と折り合いをつけながら、『RSR』は生き残っていくだろう。そう強く思えた2日間だった。古くからの出演者を大事にしながら、ニューカマーも続々と登場するブッキングも、古参も初参加も入り交じる参加者たちの楽しみ方も(そう、長いこと通っている人が多そうなのに閉じた感じがないのだ)、それぞれのアーティストのパフォーマンスも含めて、それが感じられる瞬間が、フィールドのあちこちに、いろんな時間に、何度も何度もあった、そんな2日間だったので。
『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』ライブ写真一覧
※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2023年8月23日13:00、リアルサウンド編集部)
誤:両者のコラボ曲として、9月1日にリリースされる「傷だらけの王者」を、人前で初めて披露したのだ。
正:両者のコラボ曲として、9月1日にリリースされる「傷だらけの王者」を披露したのだ。
誤:男闘呼組の4人にドラマー 青山英樹(この日BABYMETALでも出演していた)とプロデューサー 寺岡呼人が加わった6人で
正:男闘呼組の4人にドラマー 青山英樹とプロデューサー 寺岡呼人が加わった6人で
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