“Rina Sawayama中心史観”で考える一大潮流 エルトン・ジョンとのコラボからフォロワーアーティストの登場まで
エルトン・ジョン引退ツアーで声を重ねたRina Sawayama
6月25日、英国『グラストンベリー・フェスティバル』でエルトン・ジョンがヘッドライナーを務めた。エルトンの引退ワールドツアー『Farewell Yellow Brick Road』最後の英国本国公演だ。この特別な夜、最初のゲストを迎えて意気揚々と歌い出したのが、1979年にシングルリリースされた名曲「Are You Ready For Love」。フィラデルフィア・ソウルの巨匠 トム・ベルによるプロデュース作品を大団円のセットリストに組み込み、しかもフィリーの名手・The Spinnersバージョンでの披露とくれば、それは胸が熱くもなる。
セットリストが折り返し、後半戦の熱気で会場が一体になった頃、エルトンが呼び込んだのがRina Sawayamaだった。1976年のリリース当時、エルトン設立レーベルに所属していたキキ・ディーとの名デュエット曲「Don’t Go Breaking My Heart」が流れる。8ビートの軽快なリズムに合わせエルトンとRinaが声を重ねる。“ぼくを傷つけないで”、“傷つけやしないわ”というやり取りが繰り返される。それだけなのに、身体がほてる。鳥肌は立つ。Rinaの力強い歌声がこんなに泣かせにかかるとは……。
Rina Sawayamaの存在を知ったのは、確か昨年FM-NIIGATAのラジオ放送を聴いていたときだったと思う。広告の合間に流れてきた「This Hell」(2022年リリース)の爆音。トラックタイトル自体が強烈な一撃で、恐ろしく鋭いボーカルと4つ打ちの明快なリズムに白旗をあげた。なんだ、この人。いったい、誰なんだ! そもそもなんで新潟の放送局でこんな刺激物が流れるのか。理由は、Rinaの出身地だから(え? この人、日本人なの?)。4歳でイギリスへ移住し、ケンブリッジ大学法学部で政治学や心理学、社会学を学んだという経歴を知ってなおさら驚く。エルトンも自身のラジオ番組『Rocket Hour』でRinaの「Comme des Garcons(Like the Boys)」を聴いて「これは誰だ!」となったらしい。さすがエルトン、話が早い。Rinaがリリースしていた「Chosen Family」(2021年)を一緒に再レコーディングすることになる。人類全体を包み込むようなオリジナル版の宇宙的サウンドも素晴らしいが、エルトンのピアノ伴奏でしめやかにはじまるデュエットはさらに奥深い。
フォロワーアーティスト「Yamato Watanabe」の存在
エルトンがRinaを発見しフックアップした事実にしろ、ぼくがFM-NIIGATAで「This Hell」に傾聴した偶然にしろ、ラジオとはある楽曲との出会いを思いがけず結びつけるものだが、「This Hell」を聴きながらもうひとり別のアーティストの存在が自然と浮かんできたことも奇縁だったように思う。それがYamato Watanabeだ。Yamato Watanabeは、今日本で最もRina Sawayamaのサウンドとビートに強く影響を受けている新鋭アーティストだと思う。今年1月20日に東京ガーデンシアターで開催されたRina初のジャパンツアー単独公演に足を運んだぼくは、よりによって彼と隣同士でライブを観る機会を得た。代表的なナンバーの合間のMCでRinaが流暢な日本語で客席へ語りかける。愛のある発話に耳を傾ける聴衆がまさに「Chosen Family」のようなコミュニティの一体感で、ぼくの隣席から熱い眼差しと張り裂ける声援を終始送っていた彼の横顔を鮮明に記憶している。
このYamato Watanabe、今年立て続けにデジタルリリースした4つのシングル(1st「Champion」、2nd「SELF-LOVE」、3rd「FURIOSO」、4th「NEZO」)を一聴すると、1stアルバム『SAWAYAMA』(2020年)に代表されるRina独自のサウンドに影響されつつ、4つ打ちを特徴とするビート感がより先鋭化されていることがわかる。
Rinaのコミュニティに感じるのは、人生を全面的に肯定していこうとする自由意志だ。Yamato WatanabeもまたGood Vibes Onlyな価値観を大切にしている。ここからRinaが発信し、体現しようとする愛のメッセージが独自に咀嚼、解釈され「SELF LOVE」という一語にギュッと集約される。彼が好んで使い、モットーに掲げるこの「SELF LOVE」が意味するのは、自分をとことんまで愛することで自分自身と向き合うこと。そう、全てはここからしか始まらない。