斉藤和義、30年間で研ぎ澄まされたロックンロールの真骨頂 ツアーメンバーとの一発録りアルバムを全曲解説

斉藤和義、一発録りアルバム全曲解説

 今年4月に約2年ぶりとなる通算22作目のオリジナルアルバム『PINEAPPLE』を発表。現在、7月30日まで続く全国ツアー『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2023 “PINEAPPLE EXPRESS”~明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ~』を開催中の斉藤和義から、30周年記念アルバム『ROCK’N ROLL Recording Session at Victor Studio 301』が届けられた。

 これまでリリースしてきたオリジナルアルバム22作から斉藤自身が厳選した12曲を、現在のツアーメンバーである真壁陽平(Gt/Cho)、山口寛雄(Ba/Cho)、河村吉宏(Dr/Cho)、松本ジュン(Key/Cho)とともにライブさながらの一発録りでレコーディング。ヒット曲や代表曲から、知る人ぞ知るコアな名曲までを含んだ“セットリスト”を、生々しい臨場感をたたえたサウンドによって体感できる極上のロックンロールアルバムに仕上がっている。キャリアを通して、“ツアーをやるために曲を書いている”という趣旨のコメントを繰り返してきた斉藤。ライブの緊張感とテンションをダイレクトに伝える本作は、彼の本質であり、真骨頂と言っていいだろう。では、本作の収録曲を紹介していこう。

斉藤和義 - 30周年記念盤 『ROCK’N ROLL Recording Session at Victor Studio 301』ティザー映像

「Cheap & Deep」(アルバム『和義』/2013年) 

 オープニングは、斉藤のアコースティックギターのフレーズから始まる「Cheap & Deep」。ウッドベースを軸にした骨太のグルーヴ、ぶっきらぼうで鋭利なボーカルを軸にした斉藤流のロカビリーナンバーだ。メロディラインに絡みつく真壁のギター、不穏なムードを描き出す松本のオルガンを含め、このバンドの魅力が色濃く反映された1曲。

「Are you ready?」(アルバム『ARE YOU READY?』/2010年) 

 続く「Are you ready?」はヘヴィな手触りのギターリフが炸裂するミドルテンポのロックチューン。グッと重心を落としたリズムセクションと曲が進むにつれて広がりを増していくメロディラインのコントラストに惹きつけられる。〈行こうぜ/重たい腰あげて〉とリスナーを鼓舞するような歌、アウトロにおける重厚なサウンドも強烈だ。

「ジレンマ」(アルバム『ジレンマ』/1997年)  

 「1、2、3、4」という斉藤のカウント、テレキャスターの音とともに疾走しながら始まるロックンロール。直線的なビート、オルタナ的な匂いが漂うギターが響き合い、思わず身体を揺らしたくなる。楽曲が進むにつれて地面から離れ、空に向かって飛翔するような感覚を担っているのは、心地よく広がるキーボードと鋭利にして壮大なギターの音色だ。

「やさしくなりたい」(アルバム『斉藤』/2013年)

 印象的なイントロのギターフレーズは真壁。しっかり抑制を効かせながらも、徐々に感情が滲み出てくる斉藤のボーカル、そして、全編に渡ってメロディを弾く真壁のギタープレイの絡みは極めてスリリングだ。リリースは約10年前だが、〈強くなりたい やさしくなりたい〉というフレーズの意味は、むしろ現在のほうが強烈に響く。

「ポストにマヨネーズ」(アルバム『WONDERFUL FISH』/1995年) 

 ブルースのフィーリングが色濃く漂う「ポストにマヨネーズ」のキモはやはり、斉藤、真壁のツインギターの絡み。手数を抑え、いぶし銀のグルーヴを描き出す河村のドラム、楽曲のボトムをしっかりと支える山口のベースラインなど、このバンドの渋さと豊かさがたっぷりと体感できるテイクだ。怒りと侮蔑を感じさせるボーカルも文句なくカッコいい。

「どしゃぶりジョナサン」(アルバム「I LOVE ME」/2007年)

 エキゾチックな憂いをたたえたアコギの響きが印象的なミディアムチューン。郷愁を誘う6分の8拍子のリズム、切なさ、やるせなさをたっぷり含んだ歌、アコースティックな音像が一つになったこの曲は、本作のなかでも異色な佇まいを感じさせる。寓話的な世界観と男の哀愁が共鳴し合うリリックにも心を奪われる。

「わすれもの」(アルバム『NOWHERE LAND』/2003年) 

 中心にあるのは、斉藤のピアノ。リズミックなフレーズを重ねながら、独創的なグルーヴへとつながっていく。どこか淡々とした雰囲気の平歌、解放感に溢れたサビの対比もこの曲の聴きどころだろう。 〈取り戻したいものがあるんだ〉という切実な願いを刻んだ歌詞、そして、諦念と情熱を行き来するようなオルガンとギターの響きも絶品。

「マディウォーター」(アルバム『Toys Blood Music』/2018年) 

 他者と自分を比べ続け、嫉妬や虚しさにまとわりつかれた状態を描いたこの曲は、斉藤、山口、河村のスリーピースで録音。シャープなギターリフ、推進力のあるエイトビート、骨太のベースラインによるシンプルで攻撃的な演奏に強く引き込まれる。間奏パートのストラップベース、切れ味のいいドラムのフィルなどにも注目してほしい。

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