Wham!、40周年の今こそ再評価したい7つの名曲 高橋芳朗が解説する“時代を先読みしたソングライティング”

Wham!、再評価したい7つの名曲

 実質的な活動期間は、1982年から1986年の約4年間、発表したオリジナル曲はたった19曲。それでも本国イギリスで6曲、アメリカでも3曲のナンバーワンヒットを放つなど、1980年代のポップミュージックシーンにおいて圧倒的な存在感を誇ったジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーによるポップデュオ Wham!。そんな彼らが1983年7月1日発売のアルバム『Fantastic』での本格デビューから40周年を迎えた。

 これを記念して、Netflixでは初の長編ドキュメンタリー『WHAM!』が公開。さらには短くも濃密なキャリアが一望できるシングルコレクション『The Singles: Echoes from the Edge of Heaven』も7月7日にリリースされるなど、今年は1986年の解散以降でも特にWham!に対する注目が高まる1年になりそうだ。

WHAM! | Official Trailer | Netflix

 ここでは、この絶好の機会に改めてWham!の音楽的魅力を検証すべく『The Singles』から7曲をピックアップ。それぞれの制作経緯や背景を整理しながら「いま」の視点を通して彼らが残した名曲群の聴きどころに迫ってみた。

Wham! - Maxell Cassette Tape Commercial (1984)

「Wham Rap! (Enjoy What You Do?)」(1982年)

 Wham!のブラックミュージックに対するスタンスは、彼らが1982年6月発表のデビューシングル曲「Wham Rap! (Enjoy What You Do?)」において当時世間に浸透し始めた頃の「ラップ」に挑んでいることから推し量れると思う。なにせ最初のラップのヒット曲であるThe Sugarhill Gang「Rapper's Delight」の登場が1979年9月、そしてラップを取り入れた楽曲として初めて全米1位を獲得したBlondie「Rapture」のヒットが1981年1月。さらにヒップホップのメインストリーム進出に大きな貢献を果たすことになるRun-D.M.C.とAerosmithのコラボレーション「Walk This Way」のリリースが3年後の1986年7月であることを踏まえても、Wham!のようなポップスターが早いタイミングでラップを紹介したことには、(失業問題を題材に若者たちのフラストレーションを歌った点も含めて)大きな意義があっただろう。ジョージ・マイケルは「Wham Rap!」の制作にあたって「Level 42のようなファンクのリフに乗せてラップをする」というアイデアを提案したそうだが(※1)、そもそもの曲想として「Rapper's Delight」を意識しているのは明らか。実際、サビの〈Wham! bam!〉などのフレーズはアンドリュー・リッジリーがクラブでジョージと一緒に「Rapper's Delight」で踊りながら思いついたそうだ(※2)。なお、プロデューサーを務めているのはジュニアのディスコクラシック「Mama Used to Say」(1982年)の制作にも携わっていたボブ・カーター。

Wham! - Wham Rap! (Enjoy What You Do?) (Official Video)

「Young Guns (Go for It!)」(1982年)

 2013年のDaft Punk「Get Lucky feat. Pharrell Williams, Nile Rodgers」のヒットを起点に現在まで続くディスコミュージックのリバイバル。そんななか、「Get Lucky」に参加していたナイル・ロジャース率いるChic流儀の軽快なギターカッティングを魅力とするディスコナンバーが根強い人気を博している。ドージャ・キャット「Say So」、BTS「Dynamite」、リゾ「About Damn Time」、ビヨンセ「CUFF IT」など、この錚々たる並びからもChic型ディスコソングの需要の高さがわかると思うが、こうした流れを受けて再評価したいWham!の楽曲が、The Boomtown RatsやABCなどを手掛けていたスティーヴ・ブラウンを共同プロデューサーに起用して作り上げた「Young Guns (Go for It!)」だ。この曲は全英シングルチャートで最高3位にランクインした彼らにとって最初のヒット曲で、おそらくモチーフになっているのは先述したThe Sugarhill Gang「Rapper's Delight」の元ネタでもあるChicの1979年のヒット曲「Good Times」。その裏づけとして、1983年のWham!の最初の英国ツアー『Club Fantastic Tour』のアンコールでは「Young Guns」と「Wham Rap!」に続いて「Good Times」のカバーが披露されている。

Wham! - Young Guns (Go For It!) (Official Video)

「Club Tropicana」(1983年)

 1980年代初頭にイギリスで流行したファンクとラテンミュージックのハイブリッド「ファンカラティーナ」の代表曲で、現在もなおクラブ界隈で人気の高いキラーチューン。リリースこそ1983年だが、1981年にはすでに作られていたという、「Wham Rap!」に続く実質2曲目のWham!作品だ。当時ジョージ・マイケルとアンドリュー・リッジリーが通っていたソーホーのナイトクラブ Le Beat Route(1980年代前半にロンドンを中心に盛り上がっていたムーブメント「ニューロマンティック」の拠点。Spandau Balletの1981年のヒット曲「Chant No. 1」のMVはここで撮影された)の熱気に刺激を受けて曲の構想を練っていったそうだが、グルーヴ自体はThe Gap Bandのファンク名作「Burn Rubber On Me (Why You Wanna Hurt Me)」(1980年)からインスピレースションを得ているとのこと(※3)。冒頭からソリッドなスラップベースで曲を引っ張るデオン・エステスの好演が光る。

Wham! - Club Tropicana (Official Video)

「Blue (Armed with Love)」(1983年)

 『Club Tropicana』のカップリングとしてリリースされたオリジナルアルバム未収録曲(1986年のラストアルバム『Music from the Edge of Heaven』では1985年4月の中国公演で披露したライブバージョンを聴くことができる)。約11時間の突貫工事でこしらえたセミインストゥルメンタルの曲ながら、1stアルバム『Fantastic』収録の「Nothing Looks the Same in the Light」などと共に、翌年の「Everything She Wants」につながっていくようなモダンなR&B感覚が堪能できる隠れた秀作だ。Tom Tom Club「Genius of Love」(1981年)、クレイス・ジョーンズ「Pull Up to the Bumper」(1981年)、グウェン・ガスリー「It Should Have Been You」(1982年)など、1970年代後半から1980年代にかけて数々の名作を生み出したコンパス・ポイント・スタジオ録音のダンスヒットナンバーに通じる魅力があるほか、ザ・ウィークエンド『After Hours』(2020年)以降の昨今のシンセポップ寄りなR&Bとの親和性も高い。

Wham!「Blue (Armed with Love)」

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