東京藝術大学出身クリエイター集団 「アートゥーン!」に初インタビュー 芸術をYouTubeで発信する意味

YouTubeでさまざまなことが学べる昨今。数学や歴史などといった“勉強コンテンツ”を発信するチャンネルが増えていく中で、2024年8月4日に「藝大卒プロドラマーがその辺のゴミで「はいよろこんで」を演奏してみた【ギリギリダンス】」というYouTube Shorts動画から投稿が始まった『アートゥーン!』は“芸術”に特化したYouTubeチャンネルだ。メンバーは東京藝術大学出身者が集められ、画家やデザイナー、歌手から打楽器奏者までさまざまな分野で活躍しているアーティストが揃っている。
そんな彼らは先日公式ページをオープン。QuizKnockの運営会社として知られるbatonに所属していることが明らかになった。さまざまなもので絵を描いたり、一方的な質問で楽譜を当てたりする彼らの動画からはとにかくすごいことだけが分かるが、一方で彼らの素顔については謎に包まれている。なぜ彼らは集まり動画を公開するに至ったのか、音楽・美術の両軸で芸術を発信する意味はどこにあると考えているのかーー真田、林、桶家に話を聞き、これから「アートゥーン!」が目指していくものを聞いた。(編集部)
「藝大版『QuizKnock』を作りませんか」と声をかけた(真田)

ーーまず3人の自己紹介と今欲しいものを教えてください。
桶家:桶家です。歌手と作曲家をやっています。今欲しいものは、アナログシンセです。
真田:真田です。画家をやっています。欲しいものは、“より寛大な心”です。
林:林です。デザイナーをやっています。ホームベーカリーが欲しいです。
ーーありがとうございます。現在YouTubeでアートにまつわるさまざまなコンテンツを発信していますが、もともとYouTubeは見るほうだったのでしょうか。
真田:人並みだったと思います。芸人さんがシェアハウスをしている動画とか、それこそ『QuizKnock』も見ていましたし。その時に興味があるものを見ていました。
林:僕はどちらかというとYouTuberのコンテンツというよりも、MVとか映像系の作品を見ることのほうが多いです。世間を知るような感じで(笑)。
桶家:僕は正直全く見ていなくて(笑)、ここ数年でやっと少し見るようになってきたというような感じですね。
ーーそれぞれYouTubeへの親しみ方が違ったようなのですが、そもそもどういうきっかけで『アートゥーン!』を始めたのですか?
真田:もともと仲間内で「YouTubeとかやれたらいいね」みたいな話はしていたのですが、そのタイミングで僕の絵画個展にQuizKnockの運営会社・batonの代表である衣川洋佑さんがいらっしゃったので、僕から「藝大版『QuizKnock』を作りませんか」と声をかけました。batonは『QuizKnock』という大きなプラットフォームを運営していますし、いろいろなノウハウがあると思うので、やりたいことが実現できるんじゃないかなと。
ーー衣川さんとはもともと知り合いだったのですか?
真田:いや、その時に初めて喋りました(笑)。
ーーそこからどうやって『アートゥーン!』のメンバーを集めていったのでしょうか。
桶家:真田が声をかけている場に僕もたまたまいたので、僕が参加することは確定していましたね。
林:僕は桶家のあとに真田に声をかけられたのですが、そもそも何年も前から「YouTubeをやってみたい」と真田と話していたんです。たぶん、誘われた翌日には撮影に参加していたかも(笑)。
真田:他の出演メンバーも、基本的に僕から声を掛けました。東京藝大で仲良くなった最強仲良しメンツです。
バラバラな専門領域のなかで流れるフラットな空気感
ーーかなりフットワーク軽くYouTubeデビューすることになったんですね。YouTubeという多くの人が見る場所に参加することに、抵抗はなかったのでしょうか。
真田:もともと作品を発信する上で自分の姿や名前は世の中に出ていたし、あまり抵抗はなかったですね。『アートゥーン!』を始める前から個人で発信していくことにも慣れていて、それが当たり前だと思っていたので、すぐに発信することができたのかもしれないです。

ーー3人はもともと知り合いだったのでしょうか。
真田:2021年の東京藝術大学の学園祭『藝祭2021』のオープニング映像を僕が演出することになって、その音楽を手がけてたのが桶家、編集を担当したのが林で。作品づくりを通して知り合いました。
林:その時はコロナ禍だったから桶家と僕は作品上でしか交流がなかったんですけど。こうして『アートゥーン!』で合流する形になりました。
真田:音楽/美術の枠を越えて交流する人たちもいて、僕たちは交流したい側の人間だったんです。
桶家:真田と林の学年は入学した時がコロナ禍だったのもあって、学生のうちからSNSでの発信が盛んだったように感じます。だから、より学校内でのコミュニティがしっかりしているというか。
ーー先日公式ページとともにプロフィールが公開されましたが、専門領域が結構バラバラですよね。年齢も公表していて。
桶家:実は僕だけ公表していないんですよね。なんか年齢に興味なくて。
林:そもそも東京藝術大学自体が年齢をあまり気にしない校風なのかもしれないですね。
桶家:ああ、それは美術だけだと思う。音楽は結構縦社会かも。
ーーでも、『アートゥーン!』には桶家さん以外にも音楽分野のメンバーがいますよね。そこには友達同士のような空気感があると思います。
桶家:僕が縦社会みたいな雰囲気があんまり好きじゃないんですよね。僕と真田は学年が離れていたので最初はガチガチの敬語だったんですけど、タメ口で話してもらうようになって。『アートゥーン!』はフラットな関係性でやっていますね。
芸術のハードルを下げられたらいい(林)

ーーその空気感が動画によく表れていると思います。2024年の8月に動画投稿を始めて、現在は6万人以上の登録者がいるチャンネルになりました。この反響は予想していましたか?
真田:2本目に公開した、おばんの「楽器アキネイター」が早々に80万回再生を突破して。当初の試算よりもかなり上振れたので、「こんなに見てくれるんだ」っていう驚きがありました。
ーーたしかに、あの動画はすごく話題になっていたと思います。そのわりには、今なんだか皆さんの語り口が冷静な気がしていて。
林:それよりも「次の目標を達成しなきゃ!」という気持ちが大きいです(笑)。目標値を高く設定しているので、まだまだだなと思います。現状を分析して次に繋げたいので、あまり一喜一憂しすぎることもないかもしれないです。もちろん伸びたら嬉しいんですけどね。
ーーYouTubeのプラットフォームの特性上、かなり多くのコメントが寄せられていると思います。特に印象的だったコメントはありますか?
桶家:僕の名前をひたすら呼ぶコメントがあるんですよね(笑)。「おけいえーーーー」って。ずっと気になっています。びっくりマークが付いている日もあったり、そうじゃない日もあったり(笑)。
真田:知らない作品について知るきっかけになっているようなコメントを見ることは嬉しいですね。僕たちの動画をきっかけに「実際に美術館に行ってきました」「演奏会に行きました」というようなものを見ると「よし!」って思います。
林:『アートゥーン!』は「芸術をもっと身近に」というコンセプトのチャンネルです。芸術のハードルを下げられたらいいですよね。例えば、コンビニに行ったら鉛筆も画材も買えるじゃないですか。音楽もiPhoneで作れるし、サブスクでたくさんの音楽を聴くこともできる。だから誰だって美術/音楽に手を出すことはできるんです。そのきっかけとして『アートゥーン!』がいられたらいいねというのは、よく話しています。


















