TOMOO、鍵盤の上を歩くように進んできた人生 17歳の頃からの夢を叶えたNHKホールワンマン

TOMOO、NHKホールレポ

 シンガーソングライターのTOMOOが、東京・大阪NHKホールワンマン『TOMOO LIVE TOUR 2023 "Walk on the Keys”』を開催した。筆者が観たのは、6月3日の大阪公演に次いで6月28日に行われた東京公演。前回のツアー『TOMOO 1st LIVE TOUR 2022-2023 “BEAT”』で彼女は、心を全開にしてオーディエンスに飛び込んで行くようなライブを行なっていたが、今回はその時の開放感と幸福感をさらに上回る内容だった。

 定刻になり、ステージ前方の紗幕にオープニング映像が映し出される中、弦楽四重奏とホーンセクションを率いたサポートバンドによる「金色のかげ」(TOMOO活動最初期の代表曲)のインストバージョンが演奏される。紗幕が上がり、まるでハンマーを打ち下ろすような力強いTOMOOのピアノが会場に響き渡り、まずは昨年リリースされたメジャーデビューシングル曲「オセロ」からスタート。イントロが終わるとすかさずピアノから離れ、マイクを手にしてステージの端から端まで練り歩きながら、会場の一人ひとりに語りかけるように歌う彼女の姿に胸が熱くなる。前回のツアーあたりから、楽曲によっては「ボーカリスト」としてのパフォーマンスを積極的に披露していたTOMOO。今回、サポートメンバーにキーボディストの幡宮航太を加えたことで、その姿勢をより強く打ち出しているようだ。

 まるで楽曲「夢はさめても」のアートワークを彷彿とさせるような、カラフルなパッチワーク仕立てのセットアップを身に纏ったTOMOOが、「3階、元気? 2階、1階、みんなー!」と満面の笑みでフロアに呼びかけると、大きな歓声と拍手が響きわたる。以前のインタビューで彼女は、「やっぱりどんなにお客さんが優しくて、どんなにお客さんが私の音楽を喜んでくれていても、私が心を閉じていたら、ただ寒いままの実感で終わってしまう」と語り、『YOU YOU』『Estuary』(ともに2022年)とワンマンライブを重ねながら、次第にオーディエンスと「場」を共有する喜びを覚えていったと明かしていた。冒頭で述べたように今回のツアーでは、たとえ会場が大きくなってもファンと終始「会話」を試みていたのが印象的だった。

 続く「恋する10秒」は、緩急自在のバンドアンサンブルの上で、ファルセットを巧みに織り交ぜながら伸びやかなアルトボイスを披露。そして、ライブの定番曲「らしくもなくたっていいでしょう」は、ジェイコブ・コリアーによる「客席参加型」のステージに感銘を受けた、サポートギタリスト大月文太の提案により以前のライブでも導入された変則的なハンドクラップを、会場にいる全員で見事に合わせる。これにはTOMOOも、「おお!」と喜びの声を上げていた。

「今日はNHKホールワンマン『Walk on the Keys』に来てくれてありがとう。ここNHKホールは私史上、一番でっかいライブ会場であり、人生で初めてライブを観に来た場所でもあるんです。あれから13年経って、ここで歌えていること、ここでみんなと共有できていることを心から嬉しく思います。特別な夜、最後までよろしくお願いします!」

 そう挨拶をした後、TOMOOいわく「“もうすぐ夏ですね”という気分の曲」を続けて演奏。ジョニ・ミッチェルやキャロル・キングを彷彿とさせる「shiosai」は、入り組んだマジカルなコード進行の上に爽やかでポップなメロディを乗せているところが彼女ならでは。「雨でも花火に行こうよ」を経て「いってらっしゃい」は、跳躍するメロディをファルセットで歌うBメロにハッとさせられる。幼い頃からジブリやディズニーの楽曲に親しんできた彼女のルーツが垣間見える楽曲だ。

 今回ハイライトの一つだったのが、2台のピアノを向かい合わせにして幡宮と演奏した「ベーコンエピ」だ。主にコードバッキングをしながら歌うTOMOOに対し、ときにメロディに寄り添い、ときにカウンターフレーズを差し込みながら、自在に楽曲を彩っていく幡宮。その息のあった「遠隔連弾」に、会場からは大きな拍手が鳴り響いた。

 さらに、TOMOOが音楽を始めるきっかけとなった高校時代の友人とのエピソードを明かし、そのときに手紙の代わりに友人に贈ったという「ピアス」を弾き語りで披露。そして名曲「Cinderella」では、紗幕に投影した映像と照明のコラボが楽曲の美しさをさらに引き立てる。この曲では、今回新たに加わったベーシスト勝矢匠による躍動感あふれるプレイが白眉だった。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる