TOMOO、他者との関わりの中に見出す希望 メジャー1stシングル「オセロ」&ワンマンライブ『Estuary』に込めた真意を問う

TOMOO、他者との関わりの中に見出す希望

 シンガーソングライターのTOMOOが、メジャー第1弾となるシングル「オセロ」をリリースする。今年2月に開催されたワンマンライブ『YOU YOU』でも披露していたこの曲は、心弾むようなリズムの上で、メジャーとマイナーを行き来するメロディがプログレッシブなポップミュージック。たった一つの「白」が、それまでの「黒」を一瞬にしてひっくり返す「オセロ」に人生を喩えた歌詞は、TOMOOワールド全開だ。前回のインタビューでは、「人と人との間にある、フィロソフィーを残したい」と自らの創作モチベーションを語ってくれた彼女(※1)。この曲に込めたフィロソフィーはどのようなものだったのか、来たるLINE CUBE SHIBUYAでのワンマンライブ『Estuary』に向けて、今はどのような心境でいるのか。こちらの質問に対し、言葉を選びながら丁寧に語ってくれた。(黒田隆憲)

ネガティブな過去や状態は、いつか翻る時がくる

TOMOO(写真=SEIYA FUJII (W inc.))

ーー今日はメジャー1stシングル「オセロ」について、じっくりお聞きしていきたいと思います。この曲は、今年2月のワンマンライブ『YOU YOU』でも披露されていましたよね。いつ頃できた曲なのですか?

TOMOO:きっかけになったのは、その『YOU YOU』です。ライブのタイトルに「YOU」を2つ重ねたのは、「あなた」を強調したい気持ちに加え、昼夜2回公演の開催だという意味もあって。で、実は「オセロ」がそのワンマン公演の、もう一つのタイトル候補だったんですよ。昼と夜の公演、つまり「白と黒が並んで一つ」というのは「オセロ」にも喩えられるなとその時に思ったんです。

 二律背反するものが同居していること、しかも表裏一体で切り離せないということは、自分にとってはずっと前から気になっているテーマというか。自分の中にぼんやりとあった、ものの見方や捉え方ではあったんですよね。なので、そのライブで披露できるように今年のはじめから取り掛かっていました。

ーー「昼と夜」もそうですし、「生と死」や「日常と非日常」、「夢と現実」みたいに二律背反する世界を「オセロ」に喩えたことで、一つの「白」を、それまでの「黒」が一気にひっくり返すというダイナミックな瞬間をも描いているのがこの曲のユニークなところだなと。

TOMOO:ありがとうございます。

ーー実際に、そういう瞬間に立ち会ったことはありますか?

TOMOO:決定的な瞬間かどうかは分からないですけど、体感としてはありました。例えば音楽活動をしてきたこれまでの10年間で、いろんな出会いや軋轢、別れがあって。そういう中で、その時々ではすごくネガティブな思いだったり、関係性だったりしたものも、「これはいつかどこかでひっくり返るだろうな」とずっと思っているんですよね。なので、「そういう瞬間に立ち会った」というよりは、そういう瞬間が訪れる「途上」に今あるという感じなのかもしれない。

 ただ、もっと些細なことで言えば、例えば10年前にあった辛かったこと、嫌なこととかを今の地点から振り返ってみると、当時とは全く違って見えているどころか、「あったかい記憶」としてクルッと翻って立ち現れるような瞬間は、これまでにも何度かありました。あるいは昔作った曲を、最近になって演奏してみたら「あ、全部つながっているんだ」と気づくとか。

ーーなるほど。

TOMOO:私の場合は音楽活動が人生のメインなので、そういう瞬間がステージ上でも訪れると思っている節がある。例えばライブを観にくる人たちは、もしそこで演奏される音楽に感情移入することができたら、それを聴きながら自分の人生を振り返ることもあると思うんですよ。

 もちろん、お客さんそれぞれが脳内で思い浮かべている景色は決してひとつじゃないけど、その人の内側にあるそれらの景色が、ステージ上で反転してスポットライトに照らされる、みたいな。実際にスポットライトを浴びているのはステージに立つ演者ですが、観る側の人の過去がステージ上で光に当たって翻る。音楽にはそういう力があると「願っている」ところが私にはあるんですよね。

ーーそれが、音楽にできることの一つというか。

TOMOO:「そうであってほしい」という願いを抱く、演者側の歌にしちゃっているので、そういう意味で「オセロ」はかなり主観的な曲なんです。でも自分としては、これは普遍的な歌になるんじゃないか? とも思っていて。「ネガティブな過去や状態は、いつか翻る時がくる」みたいな、私個人に限らない、人間としてのフィロソフィーみたいなものと、あくまでも「私」の立場から見えているもの、どっちもごちゃ混ぜになっている曲ですね。ああ……また抽象的な話をしてますよね(笑)。

ーー(笑)。「過去」は変えられない。でも解釈によってはポジティブに反転させることができるかもしれないという、「希望」がここでは歌われているわけですね。

TOMOO:そうなんです。

〈見てないエンドライン〉のフレーズに込めた思い

TOMOO(写真=SEIYA FUJII (W inc.))

ーー曲自体はどのように作っていったのですか?

TOMOO:今回、生まれて初めて曲先に挑戦してみたのですが、言語化できない感情が先にあって、まずはメロディを作ってからなんとか言葉を探ってそこに当てはめていく作業は、「もう二度とやらない!」と思うくらい大変でした(笑)。

ーーはははは。〈不穏なメロディ〉というフレーズがありますが、この曲のメジャーともマイナーとも取れるようなメロディは確かに不穏さを孕んでいるし、展開も非常にプログレッシブですよね。

TOMOO:まずAメロでは「ウェットな方の憂鬱さ」というか、素直なアンニュイさを表現しました。私にとってはノスタルジックな、平成っぽいメロディラインとも言えますね。Bメロはポジティブともネガティブとも言えない、ふわふわしたちょっとよく分からない感情(笑)。例えるなら、地下鉄の構内をエスカレーターで降りていった時に、下から生暖かい風が吹き上がってくるような……分かりますかね(笑)? 下へ下へと降りて行っているのに、同時に上昇感があるみたいな。で、サビは本当に素直なメロディになっているんです。

ーーなるほど、オセロが黒から白へひっくり返る動的なイメージを、そのまま曲の構造に落とし込んでいるわけですね。ちなみに、1番のサビのみ〈君といつからだってはじめるPlay Back〉と歌っていて、2番と3番は〈君と〉が抜けて、〈いつからだってはじめるPlay Back〉と歌っているのには、何か理由があるのですか?

TOMOO:いや、特にないです(笑)。もしかしたら「君」と限定するのではなく、ちょっとだけ余白を持たせたかったのかもしれないけど、うーん、でもそんなに深い意味はないと思うんですよね。逆に、〈君と〉の方を歌の中で一度は入れておきたかったのかな。

ーー〈いっせーのでたたいた鍵盤 見てないエンドライン〉の部分はどんな意味?

TOMOO:そことかもう、完全に個人的なことしか歌ってないですね。バンドでライブをしている時って、それぞれが別々のフレーズを演奏することでアンサンブルを生み出しているわけだけど、ときには他のメンバーと「いっせーの」で合わせる瞬間があって。その瞬間のことを、ここでは描写しているんです。音楽をやってない人には意味不明かもしれないので、「ごめんなさい!」という感じなんですけど……(笑)。

ーーそれでも、どうしても入れたかった。

TOMOO:はい。私は弾き語りでやっていた時期が長かったので、人と一緒に何かを合わせることが、バンドをやるまではほとんどなくて。だからこそ、私にとっては数少なかった「人と音を合わせる」という行為が特別に感じるのだと思います。普段は自分の演奏にばかり気を取られ、他の楽器のこととか考えられなかったとしても、その瞬間だけは絶対に心を一つにするわけじゃないですか。そのことを描かずにはいられなかったんですよね。

TOMOO(写真=SEIYA FUJII (W inc.))

ーー「せーの」で音を合わせるその瞬間は、過去も未来も消失して「今」だけが立ち現れる。その状態を、〈見てないエンドライン〉と表現しているのですね。

TOMOO:いつも私は「終わり」のこと、つまり「エンドライン」のことを考えていたんですよ。基本的にポジティブな人間ではないので、例えば友人やバンドメンバーとの関係も、自分の音楽活動そのものも、「いつ終わってしまうのかな」ということを考えてしまう。「きっとこの先、こうなってこうなって……ああ、もうダメだろうな」って(笑)。それが一瞬でも視点が変わる状態のことを、おっしゃるように〈見てないエンドライン〉と表現しているんです。要するに「誰かを信じている状態」と言ってもいいのかな。

ーー「信じている状態」ですか。

TOMOO:この曲の歌詞には〈YOU YOU〉という、今年2月のワンマンライブのタイトルを混ぜ込んでいるのですが、人が強くなれる時って、気持ちが「YOU」に向かった時だけだと私は思っていて。そういう、人の想いが乗っかった状態……気持ちも「YOU」に向かっている時に、そこに生じた「強さ」を、この曲では〈見てないエンドライン〉や〈懲りないエンドライン〉というフレーズで表しているんです。

ーーたとえ自分自身が強くなくても、気持ちのベクトル次第で人は「強さ」を生じさせることができる、と。それってとても救われる考え方だなと思います。前作「酔ひもせす」と同様、今回のプロデューサーもmabanuaさんだそうですね。

TOMOO:はい。さっきも言ったようにこの曲はAメロ、Bメロ、Cメロで全く雰囲気が違うし、イメージしている音像も全く別で、それをどうまとめてどういうテイストにしたいのかが自分でもよく分からなくて。とにかく試行錯誤をしながら完成形を探っていくような作業が続きました。

ーー正解のないパズルを解いているみたいな。

TOMOO:そうなんです。それに根気強く付き合い、一緒に答えを見つけようとしてくださったmabanuaさんには感謝の気持ちしかないですね。「よくぞ見捨てずにここまで……」って。

ーーあははは。

TOMOO:結果出来上がったものは、J-POPやブラックミュージック、ちょっとクラシカルでジャズっぽい要素など、私の中の音楽的な歴史さえも混ぜこぜになった音像です。しかも今回、「暗さ/明るさ」の表現がとにかく難しかったのですが、聴きようによっては明るくも暗くも聴こえるような、本当に絶妙なバランスでミックスしてくださいました。

 mabanuaさんが入れてくださった、上下にポルタメントしているようなコーラスも、さっき私が話した地下鉄のエスカレーターを降りている時に下から風が吹き上がってくる感じを見事に表しているようで(笑)。個人的にものすごく気に入っていますね。

TOMOO(写真=SEIYA FUJII (W inc.))

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