連載『lit!』第56回:米津玄師、Foo Fighters、ずっと真夜中でいいのに。……自らの王道をアップデートした渾身の新作

 週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、6月にリリースされた国内外のロック作品を5つ紹介していく。

 今回は、米津玄師の新曲「月を見ていた」、ずっと真夜中でいいのに。の新作『沈香学』に加え、『FUJI ROCK FESTIVAL '23』への出演を控えたFoo Fightersの新作『But Here We Are』、年末の来日公演が発表されたNoel Gallagher's High Flying Birdsの新作『Council Skies』、そしてSigur Rósの10年ぶりとなる新作 『ÁTTA』をピックアップした。大型タイアップソング、渾身の集大成アルバム、多くのリスナーが待望し続けた久々の新作……というように、それぞれの作品が持つ意味合いはさまざまであるが、5作品とも、自身の王道をアップデートするような力強い響きを放っている作品であると思う。この記事が、国内外のロックシーンの“今”にキャッチアップするきっかけ、もしくは理解を深めるうえでひとつの手掛かりになったら嬉しい。

米津玄師「月を見ていた」

 昨年「M八七」(映画『シン・ウルトラマン』主題歌)、「KICK BACK」(アニメ『チェンソーマン』オープニングテーマ)を聴いた時にもあらためて驚かされたが、米津が作るタイアップ曲には、各作品への深い愛と理解、クリエイターへの並々ならぬリスペクトが込められている。そしてそれは、『FINAL FANTASY XVI』のテーマソングに書き下ろされた今回の新曲についても同じである。

 先日、YouTubeで公開された『FINAL FANTASY XVI』プロデューサー・吉田直樹との対談でも明かされていたように、米津にとって『FINAL FANTASY』シリーズは「人格形成に多大な影響を及ぼしたんじゃないか」というほど思い入れの深い作品だ。もともと同シリーズに対する高い解像度を持ち合わせていた彼は、開発の初期段階から脚本を読み込み、イメージを膨らませ、そして少しずつ出来上がり始めた映像を見ながらキャラクターの表情や感情への理解を深めていった。「クライヴ(本作の主人公)には幸せになってほしい」という思いがどんどん強くなっていったというエピソードが特に象徴的なように、まさに“開発チームの一員”として制作に取り組んだ「月を見ていた」は、結果として『FINAL FANTASY XVI』にとって必要不可欠な最重要ピースのひとつとなった。

 荘厳でシリアスなサウンドを貫くようにして歌われる〈あなた〉に向けた切実な思いの希望的な響きに強く心を動かされる。その響きは、『FINAL FANTASY XVI』のプレイヤーだけでなく、より多くの人の心にも沁み渡り得る普遍性を帯びていて、そういった意味でも、同曲はタイアップの枠を超えて、新たな米津流ラブソングとして愛され続ける楽曲となっていく予感がする。

FINAL FANTASY XVI テーマソングトレーラー / 米津玄師『月を見ていた』

ずっと真夜中でいいのに。『沈香学』

 2021年6月リリースの「あいつら全員同窓会」以降の歩みを総括した今作に収められた新曲は計3曲。そのうちの2曲が、アルバムのオープニングとエンディングという重要な位置に配置されている。

ずっと真夜中でいいのに。『花一匁』MV (ZUTOMAYO – Hanaichi Monnme)

 まず、1曲目の「花一匁」の〈ずっと真夜中でいいのにって溢した午前5時。〉という歌い出しを聴いて、ある予感がよぎった。そして、〈僕が歌うものは 既にあるものじゃーーーん〉というシビアな自己認識に続けて歌われる〈意味が欲しいよ〉〈柄にないことばかり たらたら溢して/こんな僕をまた 笑ってくれたらいいのに〉といった切実な言葉を聴いて、その予感が確信に変わった。その確信とは、今作でACAねは今までとは比べようもないほど赤裸々に自己開示をしている、ということだった。特筆すべきは、ラストに配置された「上辺の私自身なんだよ」だ。心の深淵を曝け出すような荒涼のシューゲイザーサウンドに乗せて届けられる〈紛い物が心地いい なんて/上辺の私自身なんだよ〉という一節は、かつてないほどのリアリティをもってACAねの実像を近くに感じさせてくれる。収録された既発曲を新たに聴けば明らかなように、今のずとまよは、日本のポップカルチャーシーンのど真ん中に立つことを堂々と引き受ける存在になった。しかし、手の届かない存在になってしまったかと言えばそうではなく、むしろACAねは『沈香学』をもって、今までよりも等身大で生身のコミュニケーションをリスナーに希求しているように思えてならない。新曲群がライブパフォーマンスを通してどのような真価を発揮するか、期待したい。

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