ZARD「揺れる想い」は“永遠性”を決定づけた一曲に 坂井泉水の歌詞が共感を生み続けた理由

『みんなが聴いた平成ヒット曲』第13回 ZARD『揺れる想い』

 『24時間テレビ「愛は地球を救う」』(日本テレビ系)のチャリティーマラソンなど各分野で頑張っている人を後押しするときに流れる「負けないで」、2014年より小田急渋沢駅下りホームで列車が近づいてきたときに耳にする「揺れる想い」(上りホームは「負けないで」を使用)をはじめ、ZARDの多くの楽曲は長年にわたり、さまざまな場面で聴き継がれている。もはや、私たちの生活のなかにそれらの曲が当たり前のように溶け込んでいる。

 1991年より活動をスタートさせたZARDは、翌年のシングル曲「眠れない夜を抱いて」が45.5万枚のセールスを記録して脚光を浴びる。そして1993年、「負けないで」が164.5万枚、「揺れる想い」が139.6万枚、「あと少し、もう少し…」が84.3万枚、「君がいない」が80.1万枚、さらにZYYG, REV,ZARD & WANDS featuring 長嶋茂雄名義のコラボ曲「果てしない夢を」が72.6万枚を売り上げた(オリコン年間シングルランキング調べ)。以降も「この愛に泳ぎ疲れても」「Boy」(1994年)、「マイ フレンド」(1996年)といったヒット曲を次々と発表した。

 ただZARDは、その数字以上に記憶に残るものがあった。前述したように、リリースから約30年が経ってもまったく色褪せない。日本のポピュラーミュージックでここまで普遍的かつ日常的な楽曲はあっただろうか、とあらためて敬服させられる。ZARDの坂井泉水は、1999年にアルバム『永遠』をリリースしたとき、こんな願いを込めてタイトルをつけたのだという。

「自分たちの音楽が永遠にスタンダードになれば」(書籍『永遠 君と僕との間に』(2019年/幻冬舎))。

ZARDのイメージカラー「青」が表現していたもの

 「揺れる想い」が収録されたアルバム『揺れる想い』が発売されたのが、ちょうど30年前の1993年7月。発売年だけで193.8万枚のビッグヒットとなり、同年のオリコン年間アルバムランキングでも2位のWANDS『時の扉』に30万枚以上の差をつけてトップとなった。

 この「揺れる想い」が、ZARDの永遠性を決定づけた曲の一つだと言っても良い。ZARDのミュージックビデオの多くは「青色」が重要なカラーとして登場するが、その意識をより強めたのが同曲である。「揺れる想い」から映像スタッフとしてチームに加わった伊藤孝宏は、『永遠 君と僕との間に』のなかでこのように証言している。

「ZARDの現場は、坂井さんの自然な姿を長時間撮影して、(プロデューサーの)長戸(大幸)さんがベストシーンを選び、その映像を軸に全体を構成していきます。スタート! アクション! はなし。坂井さん自身の映像が決まったら、その間を海や青空でつないでいきます。CGを使うことはありません。映像に意味は持たせません。曲とともに本人のイメージがリスナーの意識に残ることがもっとも重要でした」「坂井さんのカラーは青ということも共通認識だったと思います」

 ZARDのミュージックビデオに出てくる、海、青空は物事の普遍性を表現する際、もっともシンボリックな情景である。また「揺れる想い」が使用されたCM『ポカリスエット』の商品カラーも青で、当時放送されたCM中の一色紗英が気になる男性と距離感を詰めていく瑞々しい様子も、海、青空を背景に描かれていた。なによりこのCMのストーリー自体、誰もがかつて経験したり、もしくは年齢を重ねても失われたりしない恋愛のドキドキ感が映し出されていた。伊藤は「意味は持たせません」と話していたが、それでもZARDのクリエイティブには潜在的に普遍性、永遠性が根付いていたと言えるだろう。

坂井泉水が共感できる曲を書けた理由

 「揺れる想い」には、〈揺れる想い体じゅう感じて このままずっとそばにいたい〉〈青く澄んだ あの空のような 君と歩き続けたい in your dream〉といった一節がある。その歌詞もまた普遍性、永遠性を想起させるものだ。一方で、決して時代性やなんらかのトピックを突出させたり、自我を際立たせたりする内容ではない。絶妙にフラットであり、それでいてちゃんと作り手の体温が感じられる。そのバランスがZARDのすごさであり、楽曲がエバーグリーン化している一番の理由ではないか。

 とりわけその歌詞が時代を問わず誰の心にも響き渡っている要因には、坂井の生活感覚が大いに影響していると考えられる。坂井は「負けないで」がヒットしても、自宅から毎日、小田急線で1時間以上かけてスタジオに通っていたという(『永遠 君と僕との間に』より)。

 同書は坂井の暮らしぶりと歌詞の関係性について「100万枚を超えるヒットを連発しても、坂井の生活が派手になることはなかった。ごくふつうの20代の女性の感覚を失わなかったからこそ、多くのリスナーが共感できる歌詞を書けたのかもしれない」とし、ZARDの音楽制作ディレクターをつとめた寺尾広も「坂井さんが贅沢をしている気配は特になく、スタジオの出前でも、僕たちと同じようなメニューを選んでいました」と振り返っている。

「揺れる想い」Music Video

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