HYBE所属アーティストのダイナミックプライシング導入が物議を醸した背景 “ファンビジネス”ならではのジレンマ
リセールシステムがなくならない限りチケットの高騰は続くはずだが、問題は価格の高騰のみでなく、それを「“転売ヤー”だけではなくアーティスト/事務所/プロモーター側が行う」というところにもあるのではないだろうか。ファンの間では当初Ticketmasterを非難する声が多かったが、Ticketmaster側は「ダイナミックプライシングの基本価格設定はアーティスト/プロモーター側が行なっている」と公言しているため(※3)、チケット価格の最低/上限を設定しているのはプロモーター/アーティスト(事務所)側ということになる。特に人気の高いAgust Dのソロツアーに関しては「ツアー主催者はARMY MEMBER Presale期間中に100%のチケットを購入できるようにします。Presale中にすべてのチケットが完売した場合、General Verified Fan Presale または一般販売は行われません」とあらかじめ言っていた通り、ファンクラブ(FC)会員だけで完売した。「そもそもFCに入ることがチケット購入の最低条件」「(FCに入っているのに)チケットを買えない」「買えたが価格に納得していない」等、様々な不満を持ったファンも多かったのではないだろうか。
The @BTS_BigHit SUGA | Agust D TOUR IN U.S. presales powered by Verified Fan are nearly here and demand is high. As such, it's expected that many registered fans will not be able to get tickets. pic.twitter.com/yRulneQLPk
— Ticketmaster (@Ticketmaster) February 28, 2023
UPDATE for SUGA | Agust D TOUR IN U.S. — Due to extremely high demand during today’s ARMY MEMBER Presale, there will not be a General Verified Fan Presale or General Onsale.
— Ticketmaster (@Ticketmaster) March 2, 2023
また、BLACKPINKやNCT DREAMの公演と同様、TOMORROW X TOGETHERの場合は「(BTSほどのチケット需要がない場合は)チケットが即完しないのはダイナミックプライシングのせいだ」と苦言を呈するファンもいた。こちらに関しては、開演日が近づいてチケットの値段が下がれば最終的には完売することも多く、結果的に、定額チケット完売後にリセールが大量発生するよりはアーティスト側のメリットが大きい部分もあるはずだが、「即完」という冠を重んじるファンならではの視点と言えるかもしれない。
カンファレンスでは、ダイナミックプライシングの話に加えて「このシステムが適用されるためにはチケットを完売させるチケットパワーが必要だが、我々のアーティストはそれを持っている。 米国以外の地域も公演売上を増やすため色々なやり方を検討中」というコメントがあったため、今後各アーティストがツアーを控えているアメリカのファンや、アメリカでのチケット高騰の流れを見ていた他国のファンの間で不安が広がっていったのではないだろうか。
日本や韓国では一部良席の値段が高い抽選式のVIPシステムが導入されており、今後は座席によって値段が変わるシステムも検討されるかもしれないが、今のところファンからの不満は少ないようだ。これらと異なり、ダイナミックプライシングの最も厄介な部分は、一度システムを設定してしまうと、「チケットを欲しいのはファンだが、値段を吊り上げるのもファン自身」という部分ではないだろうか。チケット購入に参加しようとする「自分自身の欲望」自体がチケット高騰の原因になってしまうというのはファンダムにとっては大きなジレンマだ。
様々な国でビジネスをするということは、その国のシステムに沿ったやり方をしないと特別に損をしたり、結果的にビジネスができなくなるケースもあるだろう。チケットにおけるリセールシステムやダイナミックプライシングは、アメリカの極度な資本主義・新自由主義的な社会のあり方をダイレクトに反映しているにすぎないのかもしれない。また、カンファレンスは主に株主に向けたものだったため、「今後いかにお金を稼いで企業として成長していくか」を前面に出す必要があったのだろう。
しかし、HYBEのみならずK-POPアイドルビジネスの肝は「ファンビジネス」だ。「ファンからどれだけお金を取れるか」を考えていることがあからさますぎた場合、「アーティストへの好意」をベースにお金を払っている「ファン」としては、気持ちを金銭で試されるようなことが続けば不満が出るのは当然の流れとも言えるだろう。一部の韓国ファンの間では、このようなやり方そのものに対して「CD以外の商品のボイコット」が呼びかけられていたりもする(※4)。
「アイドル」はファンの支払うお金によって成り立っているビジネスであることは間違いがなく、そこは勘違いをさせる/するべきではないが、ファンビジネスの特性を考慮した上で、極度な“搾取”と感じさせないラインを見極めることが重要なのではないだろうか。
※1:https://www.allkpop.com/article/2021/10/tickets-to-btss-concert-in-la-are-being-resold-at-extortionate-prices
※2:https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-62919634
※3:https://ticketmaster-us.zendesk.com/hc/en-us/articles/9663528775313-How-are-ticket-prices-and-fees-determined-
※4:https://n.news.naver.com/entertain/article/144/0000884681
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