離婚伝説、チョーキューメイ、エイハブ、板歯目、Luli Lee……リアルサウンド編集部がいま気になるアーティスト

 新しい季節の訪れを迎え、リアルサウンドでは編集部スタッフがいま気になるアーティストをご紹介。ソロアーティストからバンドまで10組の特徴やおすすめ作品を挙げた。2023年さらなる活躍への期待を込めて、そしてリスナーとの新たな出会いの機会となれば幸いだ。

■離婚伝説

離婚伝説 – 愛が一層メロウ (Official Music Video)

 離婚伝説の「愛が一層メロウ」。バンド名のインパクトもさることながら、一瞬で虜になった一曲である。小気味よいギターのカッティングからコーラスへと流れていく爽快な導入に心を奪われ、冒頭から1分も経たないうちに訪れるサビにやられてしまった。タイトルにもなっている〈愛が一層メロウ〉というフレーズが、12回も繰り返されるのだ。なにかの空耳のように聴こえなくもない、ユニークな譜割りで歌われるそのサビには、一度聴いたら口ずさみたくなる人懐っこさがある。サビを繰り返しにした理由はメンバー曰く「みんなに覚えてもらいたくて」(※1)とのこと。曲先行での評価が当たり前となった今の時代だからこそ、その直球な狙いどおりもっとたくさんの人に愛されるポテンシャルを秘めた楽曲だと思う。

 離婚伝説は、松田歩(Vo)と別府純(Gt)により2022年1月に結成。楽曲から映像までセルフプロデュースをしている2人組バンド。2023年3月末時点で発表しているのは「愛が一層メロウ」「メルヘンを捨てないで」「スパンコールの女」の3曲のみ。ソウルやファンク、歌謡のエッセンスが感じられるどの曲からもポップセンスが滲み出ていて、これからの活動がとても楽しみな存在である。(久蔵)

※1:https://magazine.tunecore.co.jp/stories/246324/

■チョーキューメイ

『故のLOVE』MV / チョーキューメイ

 2020年の結成からドラマタイアップやタワレコメン選出などを経て、じわじわと認知を獲得しているとは思うが、個人的にどんどん推していきたい存在。様々なジャンルのエッセンスを感じさせながらも、真ん中には全方位に向かう大衆性があり、演奏/アレンジのクオリティも高い。そして麗(Vo)の、激情にも“可愛い”にも展開できる歌声も良く、歌詞に表れる独特な感性にはフロントマンとしてのカリスマを感じる。最新作『LOVEの飽和水蒸気量』から「故のLOVE」「十三月の銀河」をお薦めするが、ライブも楽しいので今のうちから絶対に行ったほうがいいと思う。(泉)

■エイハブ

洗脳 / エイハブ feat.可不

 自身の楽曲をセルフカバーするボカロPも今や珍しくないが、“2023年注目”という意味では1月に初の全国流通アルバム『ORIGIN:A』をリリースしたエイハブをピックアップしたい。Official髭男dism・藤原聡、松浦匡希らも輩出した鳥取県米子市出身のエイハブは、「ボカコレ2023春」ランキングに「洗脳」がランクイン(ちなみに個人的最推し曲!)。『ORIGIN:A』には収録全曲のセルフカバーが収録されており、自身で歌うことにも精力的だ。ボカロPとしての活動を始めたのはコロナ禍に入った2020年。それ以前にはバンド活動をしていたそうで、音楽制作自体はおそらくそれなりに経験があるのだと思うが、それにしても楽曲の完成度の高さに思わず唸ってしまった。いわゆるボカロらしいキッチュなサウンドの中にごく自然にトレンドを織り交ぜる手腕。冷静なようで人間らしいブレや心の揺れを感じる歌声。楽曲ごとにそのクオリティ、スキルを確実に上げており、アルバムを経た最新曲「洗脳」は第二章のスタートのようにも思える。現在は上京して会社員として働きながらコンスタントにリリースを続けているという音楽活動へのストイックさも素晴らしい。作家/アーティストとして確かな才能が光る一人だろう。(村上)

■板歯目

板歯目 ‐「KILLER,Muddy Greed」(Official Music Video_2022年7月7日リリース)_BANSHIMOKU

 〈バンド名が読めない!!〉(「地獄と地獄」)と自虐する19歳の3ピース、“爬虫類系ロックバンド”こと、板歯目(ばんしもく)。その本質は現代に鳴らされるべきパンクである。他人や世間を簡単には信じられない時代、偏った理性が壁を作って分断を生む時代に、千乂詞音(Vo/Gt)は〈爆発は心臓だ!〉(「芸術は大爆発だ!」)、〈固定概念をぶっ壊せ!〉(「地獄と地獄」)と大声で歌い切る。カマキリやトカゲなど生き物をモチーフにした曲が多いのも、直感や野生性、あるいは自然環境における循環を、一方通行でしか道理が成り立たない現代的閉塞感への反骨として捉えているからではないか。コモドオオトカゲに噛まれて死にたいと叫ぶ「コモドドラゴン」は象徴的で、ノイズや劣等感、憂鬱のない世界への憧れそのものである。一方、悲観性さえ自ら吹き飛ばすような豪快でクオリティの高い演奏も気持ちよく、ザ・クロマニヨンズ的で猪突猛進な「アンチョビットマシンガン」から、UNISON SQUARE GARDENを彷彿とさせる技巧を凝らした「KILLER,Muddy Greed」まで幅広い。ここで生きていくのではなく、「誰にも頼れないなら生きる場所を自分で切り拓いてやる」と言わんばかりの覚悟が痛烈に刺さる。2023年必聴のバンド。(信太)

■Luli Lee

[MV] 이루리(Luli Lee) - 불꽃(Flame)

 K-POPのダンスボーカルグループが世界中で大ブームとなっている昨今だが、韓国のインディーシーンにも、高い音楽性を持つアーティストは多数存在する。Luli Lee(イルリ)もその1人だ。元々は男女混合インディーバンド・Bye Bye Badmanのベーシストとして活動しており、現在はソロアーティストとして楽曲を発表している。2022年は自身のYouTubeチャンネルで多数のカバー動画を投稿しており、10月にはアルバム『Fade Away Like A Dream』をリリース。浮遊感のあるドリーミーな世界観を保ちながら、2020年頃の楽曲と比較するとぐっと大人っぽい雰囲気になり、アルバム全体としてどこか神聖な雰囲気を纏う作品になった。音楽だけでなく、アートワークも優れていて、自室での演奏動画一つ見ても細部へのこだわりを感じさせながら、あくまで演奏している姿はナチュラルな雰囲気が今っぽい。Instagramにもそのセンスは発揮されており、短いカバー動画から、外出先の写真まで、どれもキュートで彼女らしい投稿になっている。2023年に入りすでに2本のカバー動画を投稿しているLuli Lee。今年の活躍を期待したいと同時に個人的には来日の機会も願ってやまない。(佐々木)

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