上田剛士、10代の原点と向き合うことで再確認した自分らしさ THE STALINからYMOまで、初のカバーアルバムを語る

上田剛士、初のカバーアルバムを語る

オリジナル曲を作るきっかけとなったJiaenの存在

一一さらに今さらの質問で、ベースを担当したいと思った理由とは?

上田:これ必ず聞かれるんだけど……ただ単にギターが弾けなかった。最初に買ったのはギターなんだけど、それはもう、綺麗に磨くぐらいしかやることがない(笑)。チューニングって何だよ? みたいな感じだから。だから楽器は我流も我流ですね。コピーも最初からあんまりしてないし。

一一いきなりオリジナル曲を作り出すんですか?

上田:オリジナルを作る奴らに誘われて、ちゃんとバンドに入ってベースを弾き始めたのが高校生の時。実がやってたバンド。「前にいたベーシストが辞めるから弾いて」って誘われて。そこからずっとオリジナルですね。でもその、高校のうちから自分のオリジナルを作るっていうのは間違いなくJiaenの影響で。

一一あぁ。Jiaen「Glass Objet」のカバーだけは年代が違うんですよね。だいたい70年代末期から1985年までの音源だけど、これは1992年発表の曲。

上田:そう。Jiaenはもともと仲間内のバンドだったんですよ。友達というか知り合いで。彼らは高校生でも横浜のライブハウスを満杯にできちゃう、すでにメジャーに行くことが決まっているような感じで、まぁ俺ら界隈でバンドやってる奴らにとっては、ひとつ頭抜けてる、憧れの存在だったので。そういう意味で、音源が出たのは90年代だけど、知ったのは80年代後半。彼らがいなかったら、そうやってバンドで食っていく、メジャーに行って活動していくことも、あんまりリアリティなかったんじゃないかなと思う。目の前にそういう奴らがいるから、自分らにもできるかもしれない。そういう気持ちを持たせてくれた重要なバンドだったから。

一一リアルに将来の道を拓いてくれた存在。先輩だったんですか?

上田:タメですね。年齢は一緒。

一一それは余計に刺激されますね。

上田:そうです。当時自分はまともにバンドもやってないし、ベースも持っているんだけど弾けるんだか弾けないんだかわかんないくらいの感じ。そういう時代に彼らはもう活躍してたから、本当に身近にいるスターだった。だから、自分にとっての“TEENAGE DREAMS”を並べた時にJiaenは絶対入れたいなと思って。これを抜いちゃうといろいろ変わってしまう。

一一グッとくる話です。ローティーンの頃の衝撃から始まって、高校時代どのようにバンドの道に進んでいったのかが示されている。

上田:はい、自分のイメージとしてはそうです。だから、このタイトルが浮かんだ時に、形になった気はしましたね。自分が今作っているものがなんとなくわかった感じ。

上田剛士を形作った、個性的でオリジナルである世代からの影響

一一まさに『TEENAGE DREAMS』。自分の足跡をいつかまとめてみたいと、どこかで思ってました?

上田:いや、カバーアルバムを作ることになるとは思いもしなかった。言ったように、基本的には忠実なカバーはしたくないし、自分のサウンドに作り変えないと意味がないと思ってるから。その意味で、こういった形が自分でも許せたのは……言うなれば好きだから。愛。もう、敵う敵わないのレベルじゃなかった。

一一対抗する必要もない、ただの愛だったと。

上田:そう。で、やってみると、まぁ自分らしさって、この時代の影響下にあるのは明らかだなとは思ったし。その上で、自分のサウンド、自分の音を作っていくことによって、もともと影響を受けたバンドとの違いも生まれてきたんだなって。自分らしさみたいなものも、なんとなくわかりましたね。

一一影響されるだけじゃなく、自分だけの音を作ることも重要でしたか。

上田:うん。俺が影響を受けた上の世代の人たちって、それぞれが自分の看板を作って、自分のアイデンティティで勝負する人たちばかりで。それを見てたから、一つひとつ個性があって、同じことはしたがらない、自分がオリジナルであるっていうことがすごく大事だった。そこは今の時代とは違うのかな。今はもっとみんなで横並びになって仲間を増やしていく感じ。もちろん俺たちの時代だって仲間はいたんだけど、それなりのライバル感もあって。

一一昔のパンクバンドだと、仲間意識どころか、お互いの悪口をガンガン言い合ってましたよね。

上田:そうそう(笑)。音にもそれが表れてるし。それぞれが、それぞれの音を鳴らす。だからこそ意味があるし、同じようなパフォーマンスもしない。今のフェス文化とはだいぶ違いますよね。で、自分の根底にはその影響が確実にあるから。そういう意味では、自分が独特の曲作りを続けてこれたのは、まさにこういう人たちの影響なんだろうなって。

TAKESHI UEDA - ユー・メイ・ドリーム (Official Music Video)

一一ただ、剛士さんは今の時代を否定していないと思うんです。

上田:もちろん。全然否定してないです。

一一今のほうがいいことって、たとえばどんなことでしょう?

上田:いやー、単純に、ライブハウスでいつも喧嘩してるよりいいでしょ?

一一確かに(笑)。

上田:それはそれでけっこう嫌だった。ライブになると必ず喧嘩がある。血を流してる奴もいる。「またかい!」みたいな(笑)。それを考えると、バンドみんなでひとつの時代を作り上げていくような90年代以降の考え方、自分はけっこう好きですね。どっちも知ってるから、自分の生きてきた時代ってちょっと特別な感じもするし。自分のことだから当たり前だけど。もちろん今の子たちは今の違う形を作っていけばいいんだけど、でも、俺は自分の時代の、自分の音を続けていくのが役割なのかなって思う。

一一はい。あと最後に、アナーキーの「あぶらむし」は初回限定盤だけのボーナストラックです。これはなぜだったんですか。

上田:まぁ限定のものを作りたいって言われたのもひとつなんだけど、どの曲を選ぶかっていう時に、わりと「あぶらむし」は最後のほうに作ってたから。順番的にそうなった感じですね。

一一藤沼伸一さんが監督の『GOLDFISH』が公開されますよね(3月31日シネマート新宿/心斎橋ほかで公開)。一足先に映画を観たばかりだったので、これもめちゃくちゃ熱くなれました。

上田:あぁ、なるほど。これはね、あと数曲作ろうかなって言ってる時に、偶然ポケットの中でiPhoneが鳴り出して。なんかの拍子に突然「あぶらむし」がかかった。

一一え、そんなことってあります?

上田:どこかから「チャー、チャカチャカチャカ」ってイントロが聴こえてきて。夏の夕方、夕焼けみたいな時間帯だったから、急になんかすごい青春感、今にも走り出しそうな気分になって(笑)。でもよく見たら自分のポケットから聴こえてるっていう。まぁそういうことでアナーキー。「あぶらむし」が一番好きな曲だったから、あぁ、これはやっぱやるしかないって。この曲でギターソロを弾いてるのも俺です。他の曲はみんな実が弾いてくれたんだけど、初めて、自分で弾いたギターソロが作品になるという。

一一貴重なもの、たくさん詰まってますね。

上田:うん。楽しかった。カバーって、やってるほうが楽しいんだなってことはわかった。聴いてる人が楽しいのかどうかはちょっとわからないけど……。

一一いえ、確実に、絶対的に楽しいです。

上田:楽しんでもらえたら嬉しい。うん、自分がすごく楽しんでいるものになってます。

TEENAGE DREAMS
『TEENAGE DREAMS』

■リリース情報
上田剛士
カバーアルバム『TEENAGE DREAMS』
2023年3月29日(水)発売
・通常盤:¥3,300+税
・初回限定盤(CD+ブックレット):¥5,000+税

ダウンロード/ストリーミング
https://jvcmusic.lnk.to/teenage_dreams

<収録曲>
01 ニュー・キッズ・イン・ザ・シティ/ LIZARD
02 Wake Up / アレルギー
03 STOP JAP / THE STALIN
04 PARANOIA / あぶらだこ
05 象の背 / あぶらだこ
06 California Uber Alles / Dead Kennedys
07 ユー・メイ・ドリーム / シーナ&ザ・ロケッツ
08 In Between Days / The Cure
09 メリーゴーラウンド / イヌ
10 Bodies / Sex Pistols
11 TIGHTEN UP (JAPANESE GENTLEMEN STAND UP PLEASE!) / YELLOW MAGIC ORCHESTRA [Original song by Archie Bell & the Drells]
12 ダーリン・ミシン / RCサクセション
13 Glass Objet / Jiaen
14 仰げば尊し / 遠藤ミチロウ
<Bonus Truck>
あぶらむし / アナーキー
※初回限定盤はボーナストラック収録

■ライブ情報
『AA= SPRING HAS COME TOUR_Chap1』

5月3日(水・祝)大阪
会場:梅田Shangri-La
開場/開演:17:30/18:00

5月4日(木・祝)愛知
会場:名古屋UPSET
開場/開演:17:30/18:00

6月3日(土)神奈川
会場:横浜FAD
開場/開演:17:30/18:00

AA= オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる