下村陽子、宇多田ヒカルらが誘う『キングダム ハーツ』を巡る音楽旅行 ディズニーとスクエニ“らしさ”交わるプレイリストの魅力

 ディズニーとスクウェア・エニックスによる人気ゲームシリーズ『キングダム ハーツ』。その20周年を記念して、「KINGDOM HEARTS OFFICIAL PLAYLIST」が公開されている。

 このプレイリストは、歴代の10作品から全350曲以上、17時間超のボリュームでこれまでシリーズを彩った楽曲の数々を楽しめる公式プレイリスト。全世界で累計3,600万本以上を出荷・販売(※2022年3月末時点)する人気タイトルの楽曲を通して、ソラをはじめとする登場人物たちの冒険の魅力を、改めて楽しめるようなものになっている。今回はこのプレイリストをもとに、長年愛され続けている『キングダム ハーツ』の音楽の魅力を紹介したい。

 2002年にシリーズ1作目が発売された『キングダム ハーツ』(以下『KH』)は、ディズニーとスクウェア・エニックスが共同で開発したゲームタイトル。ソラを筆頭にオリジナルキャラクターが主人公になっており、彼らとディズニーのキャラクターたちがともに力を合わせながら、光と闇の世界を股にかけた「心」や「絆」がテーマの物語を展開する。ゲーム内には『FINAL FANTASY』シリーズ(以下、『FF』)や『すばらしきこのせかい』のキャラクターも登場。2022年には1作目の発売から20周年を迎え、今後もさらなる展開が期待されている。

  『KH』の音楽を1作目から担当している、同シリーズのメインコンポーザーである下村陽子氏は、同作について「ハッピーエンドが基本のディズニーのファンタジーと、暗く重い話もあるスクウェア・エニックスのファンタジーとがひとつになっている」と過去のインタビューで語っているが、実際に、『KH』の音楽の特徴としてまず挙げられるのは、ディズニーとスクウェア・エニックスがそれぞれ描いてきた「異なるタイプのファンタジー」が、音楽面でも見事に融合していること(※1)。『ディズニー』と聞いてイメージする陽性のファンタジーと、『FF』シリーズなどを通して描かれてきたスクウェア・エニックスの重厚なファンタジーとが、『KH』という作品を介してひとつになっている。

『KINGDOM HEARTS -HD 1.5 ReMIX- Original Soundtrack』

 それが特に顕著なのが、歴代のディズニー作品で使われてきた音楽と、下村氏によって新たに書き下ろされた音楽とが共存する各ワールドのBGMだ。『KH』では主人公たちが様々なワールドを旅することで物語が進んでいくが、その中には実際のディズニー作品をモチーフにしたワールドが多数存在する。たとえば初代『KH』内だけを見てみても、『ふしぎの国のアリス』をテーマにした「ワンダーランド」や『ヘラクレス』の「オリンポスコロシアム」、『アラジン』の「アグラバー」、『ピノキオ』の「モンストロ」、『リトル・マーメイド』の「アトランティカ」など……ゲーム内の多くのワールドがディズニー作品を舞台にしている。

An Adventure in Atlantica

 そして音楽面でも、メルヘン調の楽曲から雄大で勇ましいオーケストラ、アラビア音楽やカリブ音楽など、この作品のために書き下ろされた『KH』のオリジナル楽曲と、同作アレンジによるディズニー楽曲が一緒になることで、それぞれのワールドへの没入感を高めている。また、各ワールドに用意された音楽の個性が際立っているだけに、ゲームをプレイした経験者は一聴しただけで「この曲はあのワールドの曲だ」と記憶が掘り起こされることだろう。これは音楽面でもディズニーとスクウェア・エニックスの世界観が交わる場所に、『KH』ならではの魅力が生まれていることを伝えてくれるポイントと言えそうだ。

A Day in Agrabah

 また、ワールドへの没入感という意味でもうひとつ印象的なのは、各ワールドの中で通常のBGMとバトル曲とがある程度共通した要素を持っていること。『KH』ではバトルに入った際に楽曲が大きく変化してギャップを演出する方法ではなく、バトル曲にもそのワールドのBGM固有の要素が加えられている。そのため、各ワールドの音楽に統一感が生まれている。だからこそ「KINGDOM HEARTS OFFICIAL PLAYLIST」は膨大な曲数を誇るわけだが、作業用BGMとして流し聴いているだけでもディズニーの様々な世界をソラたちと一緒に冒険するような感覚を味わうことができる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる