ドクター・ドレー『The Chronic』はいかにヒップホップの歴史を変えたのか? 再配信を機に振り返る、新たな音像&憧れの確立
3曲目の「Let Me Ride」ではParliament「Mothership Connection」のサビをサンプリングしており、ジェームス・ブラウン「Funky Drummer」の定番ドラムブレイクも使用されている。サビの歌詞では、スピリチュアルソング(黒人霊歌)の「Swing Low, Sweet Chariot」と「Swing Down Sweet Chariot」を引用。宇宙からファンクというものを紹介し、地球に自由をもたらすジョージ・クリントンの“スターチャイルド”というキャラクターを世に出した作品となった。ドクター・ドレーはジョージ・クリントンのその意思を受け継ぎ、自分たちの新時代を築いていくことを表明したのではないかと考えることもできる。〈let me ride(乗せてくれ)〉というフレーズが「Mothership Connection」では「宇宙船に乗せて連れて行ってくれ」という意味だったとしたら、ドクター・ドレーの「Let Me Ride」では「お前らのイケてる車に乗せてくれ」というニュアンスとなっており、みんなの憧れの存在として君臨するドクター・ドレーの西海岸ライフスタイルを決定づける楽曲になったと言えるだろう。
スヌープ・ドッグをフィーチャーした「Nuthin' but a "G" Thang feat. Snoop Doggy Dogg」ではレオン・ヘイウッド「I Want'a Do Something Freaky To You」をサンプリングし、メロウでレイドバックな西海岸サウンドも確立した。当曲のMVもニューヨークで生まれたヒップホップのイメージとは違い、天気の良い屋外でパーティをする映像となっており、N.W.A.時代のイメージとは裏腹に全国の人が羨む“西海岸”のイメージをヒップホップに定着させたと言っても過言ではない。ドクター・ドレーの2ndソロアルバム『2001』(1999年)に収録されている「Still D.R.E. feat. Snoop Dogg」でも〈もう大変な暮らしはしなくていい/毎日バーベキューをしてファンシーな車に乗る〉(和訳)という歌詞が登場し、「Let Me Ride」でリスナーがドクター・ドレーに抱いた“憧れ”を踏襲している。
その他の曲でもスヌープ・ドッグ、ネイト・ドッグ、ダズ・デリンジャー(Tha Dogg Pound)、レディ・オブ・レイジ、RBXなどの西海岸ヒップホップのレジェンドたちが参加しており、1992年にリリースされたとは考えられないほどのサウンドクオリティを披露している。30周年を迎え、『The Chronic』がSpotifyやApple Musicなどのストリーミングプラットフォームで再リリースされたことについて、ドクター・ドレーは「このアルバムを元のディストリビューターであるInterscope Recordsの元に戻せて嬉しく思う。長年の同僚たちと、こちらのアルバムを世界中のファンのために再リリースできて、一周回って戻ってきたように感じるよ」とコメントしている(※2)。
再リリースを記念し、Interscope Recordsは特設サイトも公開しており(※3)、サイトにはグッズの他に『The Chronic』風のジャケット画像を作ることができるツールも展開されている。ヒップホップの歴史を変えた『The Chronic』、今こそ必聴である。
(※1)https://www.netflix.com/title/80214552
(※2、筆者訳)https://consequence.net/2023/02/dr-dres-the-chronic-is-back-on-streaming/
(※3)https://store.interscope.com/pages/the-chronic?utm_campaign=products&utm_medium=referral&utm_source=interscope.com
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