ドクター・ドレー、新曲リリースが少ない理由 『GTA Online』内発表の6曲サプライズ配信を機に解説
参照:https://charts.spotify.com/charts/view/regional-global-weekly/latest
Spotifyの「トップ50(グローバル)」は、世界的に最もストリーミング再生された曲をランク付けしたチャート。本連載では、同チャートを1週間分集計した数値のデータを元に、グローバルな音楽シーンの潮流をお届けする。第19回となる今回は、20221年1月28日~2022年2月3日集計のチャートを見つつ、サプライズリリースされたDr. Dre(ドクター・ドレー)の新曲について書きたい。
Glass Animals、根強い人気……ラウ・アレハンドロが10位にランクイン
今週のチャートは、1位から4位までが先週と同じ結果となり、Glass Animalsの「Heat Waves」が再び1位を獲得。リリースから1年半以上が経っている楽曲であるが、その根強い人気が伝わってくる。通称「モダン・レゲトンの王」と呼ばれるラウ・アレハンドロの「Desesperados」が7ポイントアップで、10位にランクイン。リル・ナズ・Xの「THATS WHAT I WANT」が13ポイントアップし、トップ20に再度浮上した。
ドクター・ドレーが久々の新曲をサプライズリリース
ヒップホップの最重要プロデューサーと言っても過言ではないドクター・ドレー。映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』でおなじみの伝説的ヒップホップ・グループ、N.W.A.以前に彼が加入していたグループ、World Class Wreckin’ Cruも含め、彼のプロデューサーとしてのキャリアは35年以上になる。今までスヌープ・ドッグやエミネムなどのアイコニックなアーティストを発掘し、ヒップホップのサウンドの歴史を何度も変えた名プロデューサーである。2022年2月14日(日本時間)に行われる、第56回NFLスーパーボウルのハーフタイムショーに、スヌープ・ドッグ、エミネム、メアリー・J. ブライジ、ケンドリック・ラマーと共に出演することも決定している。また、大人気ゲームシリーズ『Grand Theft Auto』の新アップデート、『GTA Online: The Contract』内限定で発表されていた新曲6曲が、2月4日にサプライズ配信された。
ドクター・ドレーは滅多に新曲をリリースしないため、こちらはファンにとっては嬉しいサプライズとなった。彼と仕事をしていたプロデューサーのマーク・バトソンも「100曲をレコーディングして、その中からリリースされるのが1曲だけということもある(※1)」とインタビューで語っており、いかにドクター・ドレーが完璧主義者かということが伝わってくる。ドクター・ドレーのお蔵入りになった幻の3rdアルバム『Detox』で、ドクター・ドレーとコラボしたエイコンも、以下のように語っていた。
もしドクター・ドレーがリリースするとしたら、愛や情熱のためだけにリリースするべきだと思う。彼は全てにおいて完璧主義者なんだ。彼はその作品が目標を達成できなかったり、世界の期待に沿えなかったときのことを恐れているんだと思う。
ドクター・ドレーは自分がどれだけ力を持っているのか理解していない。彼はどんなときでも勝つ。彼はドクター・ドレーだからね。リリースしたらいいのに!アルバムには、世界が聴いたことがないであろう名曲が収録されている。そんな名曲を、実際に彼と一緒に作ったし、作業中に聴かせてもらったものはかなり熱かった。彼は完璧主義者だからね。完璧すぎるんだ。(※2)
そんな完璧主義者のドクター・ドレーであるが、『GTA Online: The Contract』では、彼の心境の変化を見ることができる。同ゲームは、ドクター・ドレーの未発表音源が入っているスマートフォンが盗まれ、音源が流出してしまうという設定になっているが、最後のミッションの後にドクター・ドレーはこのように語っている。
この事件で視野が広がったよ。ジミー(アイオヴィン)は正しかった。何年も作業しているデモを自分の手にとどめておくのはやめないといけないな。君が想像できないほどの音楽があるんだ。(※3)
ドクター・ドレーのプロダクションの特徴の一つは、その音の良さであろう。エンジニアとしてのキャリアも長い彼は、自身がミキシングを担当することも多く、「凄まじい時間をミキシングに費やして、ひたすら練習を続けてスキルを磨いてきた。だから今の自分がいるんだと思う」と明かしている(※4)。また、ドクター・ドレーは既存の楽曲をサンプリングする際にも、単にサンプリングするのではなく、使用するフレーズを新たに演奏することも多く、常に最新のサウンドクオリティで音源を作ることにこだわっていることがわかる。今回サプライズリリースされた6曲も、サウンドのクオリティが非常に高い。
楽曲「Black Privilege」では、フリーダ・ペインの「Its’ Yours To Have」をサンプリングしており、新たにオルガンのアレンジも入れている。また、ジュヴィナイルのヒット曲「Slow Motion」のサビも引用している。