連載「lit!」第36回:Måneskin、サム・スミス、ポップカーン……音楽性の強化から歴史の継承まで、フィーチャリング曲に注目
前回の海外ポップミュージック回は昨年のヒット曲やシーンにおける新たな流れに目を向けてまとめた(※1)。年明け1回目となる今回の「lit!」海外ポップミュージック回では、昨年からの連続性も意識しつつ、前回は触れられなかった動きについても手が届くような構成にしたい。そこで、話題に事欠かない音楽シーンについてできるだけ広がりをもって語るために、この1カ月でリリースされたフィーチャリング曲を6曲紹介する。アーティストの相互作用や、その意図を読み取る一助となれば幸いだ。
Måneskin「GOSSIP feat. Tom Morello」
華やかな風貌のイタリア出身ロックバンド、Måneskinによる2年ぶりとなる3rdアルバム『Rush!』が2023年1月にリリースされた。いよいよ2020年代のグローバル音楽シーンが彼らによって席巻されつつある。2021年5月にロッテルダムで行われた『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』で優勝し、昨年の夏には『SUMMER SONIC 2022』に出演、単独での来日公演も成功させ、日本国内でも大きな評判となったのも記憶に新しい。瞬く間に世界的トップバンドとなったタイミングで届けられた本作は、正真正銘のロックバンドとしての魅力に満ちていながら、新たなスタンダードになる可能性を持ったロックアルバムである。自然と身体が動き始めるような4つ打ちの生ドラムと無骨なベースがもたらすのは「踊れる」ロックとしての原始的な快楽である。一方同時にダミアーノ・デイヴィッド(Vo)が高らかに歌い上げるバラード曲も数曲収録しており、彼らの一筋縄ではいかない表現の多彩さがアルバム全体で示されている。
アルバム唯一のゲスト参加曲である2曲目の「GOSSIP」は、Rage Against The Machineの鬼才ギタリスト、トム・モレロをフィーチャーしており、間奏では“トム・モレロ奏法”とも称されるワーミーペダルを駆使して極度に歪ませたエレキギターの演奏が鳴り響く。また、YouTubeにはトーマス・ラッジ(Gt)がモレロとセッションするショート動画がアップされている。そこではモレロがジミー・ペイジやジョー・ストラマーの名前を引き合いに出しながら、「よりファンキーでバウンスした」お馴染みのサウンドをラッジに伝授しているのだ。今作では例えば14曲目「IL DONO DELLA VITA」のアウトロでのラッジのギタープレイに、モレロからの影響が感じられる。
トム・モレロは13歳の時にLed Zeppelinの影響で音楽に目覚めたという。彼が目覚めさせたギターキッズもたくさんいるに違いない。人々を奮い立たせるロックミュージックの連鎖はこれまでもこれからも続いていくのだ。Måneskinは今、間違いなくその先端にいる。
サム・スミス「Gimme feat. Koffee & Jessie Reyez」
ロンドンのシンガーソングライター、サム・スミスによる4thアルバム『Gloria』のリリースに先立って配信されたアフロポップを思わせる楽曲。コロンビアにルーツを持つカナダのシンガーソングライター、ジェシー・レイエズと、ジャマイカ出身でレゲエを出自とするコフィーの2名が作曲に参加し、ボーカルも務める。レイエズとスミスが組むのは2018年のカルヴィン・ハリスとのシングル曲「Promises」以来5年ぶりのことで、スミスの滑らかな歌唱と対比的なレイエズによるコーラス部分が本楽曲を決定的に特徴づけている。また、デビューアルバム『Gifted』が激賞され、2022年ポップミュージックにおけるレゲエシーンの充実を示すような存在であったコフィーは、その唯一無二の声での素晴らしい(が、それこそ“Gimme Gimme”と言いたくなってしまうほど短い!)ヴァースを披露している。
前回の年間ベスト回では触れきれなかったが、アフロポップ/アフロビーツという点で2022年はナイジェリアのバーナ・ボーイ、ファイアボーイ・DML、ウィズキッドといった面々が次々と充実したアルバムをリリースし、商業的にも批評的にも評価を得た年であった。近年の盛り上がりに呼応するようにビヨンセのような現代ポップのトップランナーによる作品でも、同じくナイジェリア出身のTems等のアフロポップ系アーティストを一部フィーチャーしていた。本楽曲は歌詞の面でもビヨンセの『Renaissance』に通ずる自由で開放的な性愛がテーマとなっている。昨年大ヒットを記録した同アルバムの先行曲「Unholy feat. Kim Petras」に比べるとチャート上での勢いは劣るものの、2022年の流れを引き継ぎ、2023年の幕開けを告げるにふさわしい1曲であると言えよう。
ポップカーン「We Caa Done(feat. ドレイク)」
この流れでおそらく今年1発目のアフロビーツ注目曲を紹介したい。ヤング・サグ、ジェイミー・xx、Gorillazとも共演歴のあるジャマイカのダンスホールアーティスト、ポップカーンがリリースしたアルバム『Great Is He』からの先行シングル「We Caa Done」である。本楽曲ではドレイクがポップカーンのフロウに添うようなメロディアスで心地良いヴァースを提供しており、MVにも出演している。元々ドレイクは2016年の時点で上述したナイジェリアのウィズキッドを自身の楽曲「One Dance」に迎え入れ、それ以降もアフロポップを積極的に取り入れてきた経緯がある。それは先駆的な試みでポップスターとしての優れた嗅覚を示すものだったが、その身軽さゆえにナイジェリアシーンへの敬意を欠いているという批判を受けることもあった。
しかし、ドレイクはこのシーンのアーティストやサウンドのフックアップを継続的に行ってきた。そして、ポップカーンは今作もドレイク率いるOVO Soundからリリースしている。昨年の2作のアルバムのうち特に『Honestly, Nevermind』はパンデミックからの解放を意識して動いているように見えるが、果たして今年はどのように仕掛けてくるのか、アフロビーツ勢との距離感もあわせて注目したい。