Sano ibuki、再会の喜びが溢れた3年ぶりのワンマンライブ 殻を破った“ポップスター”としての新たな片鱗も

Sano ibuki、3年ぶりワンマンレポ

 〈会いにいくよ〉という「ムーンレイカー」の歌詞を〈会いに来たよ〉に変え、Sano ibukiは観客と再会できた喜びを歌にした。1月21日に開催された3年ぶり3度目のワンマンライブ『Sano ibuki Special Live “ONE”』でのワンシーンだ。Sanoの楽曲には、孤独と内省に沈む“夜”に寄り添ってくれるものが多い。その音楽があることで明日へと希望を繋ぐことができたリスナーとSano自身が一緒に音楽を楽しめるのがライブという場であり、この日の東京キネマ倶楽部は、「今日までよくやってきたね」と静かに讃え合うような、やわらかく温かい空気で満ちていた。

 久々に実現したワンマンライブは、ミニアルバム『ZERO』のリリースを記念したもの。同作表題曲の「ZERO」、そして「ムーンレイカー」、「いつか」とストレートなギターロックサウンドによるアッパーチューンを連投することで、ライブスタートとともに走り出すオープニングだった。疾走感溢れるバンドサウンドの中でSanoは全力で声を張り上げる。一方、「pinky swear」の間奏では爆音のギターが飛び出してきたりと、バンドのアプローチも刺激的。Sanoの歌を大切にしながら個性際立つプレイをするバンドのメンバーは、奥村大(Gt)、なかむらしょーこ(Ba)、Yuumi(Dr)、山本健太(Key)の4名だ。山本のソロからバトンを受け取ったSanoが、夕暮れ色の光に包まれながら、心を込めて歌ったのは「滅亡と砂時計」。ボーカル&キーボード&シンセベースという編成での演奏で、逆光の照明も相まって神秘的な雰囲気が生まれたのは「マリアロード」。Sanoの歌唱、バンドの演奏、舞台演出が互いに作用し合いながら、印象的な場面を生み出していく。

 Sanoは最初のMCで「いやー全部飛んだなー(笑)」と喋る内容を忘れてしまったことを報告したが、それほど様々な想いが彼の中を巡っていたのだろう。おそらくそれは観客も同様。初めはバンドも観客も相手との距離を少しずつ縮めようとしている感じだったが、曲数を重ねるにつれて双方の心と体がほぐれていき、ライブの楽しみ方を一緒に思い出していった。また、Sano自身、今日を楽しみにして準備を重ねていたのだろう。中盤では、「(久々のワンマンが)嬉しくなって曲を書いてきたので、やってもいいですか?」と、今春リリース予定の新曲「眠れない夜に」を弾き語りで披露した。Sanoが音楽を紡ぐ理由やリスナーに届けたい想いをまっすぐに歌った曲だ。

 この日最後のMCでは、“魔法みたいな時間”という言葉を今まで信用していなかったと前置きしつつ、「こういう時は本当にそういうふうに思いますね。僕に魔法を見せてくれてありがとうございます」と語ったSano。

「言いたいこと、届けたいこと、伝えたいこと、たくさんあったはずだけど、言葉にならなくてもどかしいですね。終わりたくねえな。みんないつか今日のことを忘れてしまうと思うんですよ。あの扉を出れば、思い出に変わっていく。それでも、この一瞬だけでも想いを共有できて、俺の音楽が好きだっていう人と顔を突き合わせられて、本当にかけがえのない時間だなと思います。寂しくさせてくれて本当にありがとね。でも、俺の音楽はいつでもそばにいるわけで。これだけは忘れないでください。約束ね」

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