『第73回紅白歌合戦』から見えた“新時代” ダンスとアニソン、存在感を強めた2つのキーワード
2022年12月31日、大みそか恒例となる『第73回NHK紅白歌合戦』(以下、『紅白』と表記)が放送された。今回はNHKホールに会場が戻り、しかも同会場での有観客は3年ぶりということで、本来の形式に戻って仕切り直しの年だった。
そのことを強調してか、ゆずと関ジャニ∞のコラボステージのように、観客が参加する演出も目立っていたように思う。トップバッターのSixTONESから始まった冒頭の流れなど、会場全体を巻き込んでのお祭り的一体感が強調されていた。初とは思えない堂々とした司会ぶりとともに、歌って踊れる強みを生かした橋本環奈のその面での貢献も大きかった。
今回の『紅白』については、昨年11月に出場歌手が発表された当初、顔ぶれを見て「若者寄りではないか」といった不満の声も聞かれた。ただその後、追加で加山雄三、松任谷由実 with 荒井由実、安全地帯、桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎らの出場が発表された。実際、これらの世代を超えて知られる歌手、アーティストは後半に集中して登場し、昔ながらの「紅白らしさ」を醸し出すのに一役買っていた。
ただ、その裏で『紅白』は新たな時代に確実に向かっている。記憶に残るステージを展開した初出場・Vaundyのような新しい才能が登場したこともむろんそうだが、より大きな全体の傾向として変化を感じた部分もあった。
ひとつは、ダンスの比重がますます高くなってきていることである。出場歌手を見ても、King & PrinceやBE:FIRST、さらにLE SSERAFIM、IVE、TWICE、NiziU、JO1といったK-POPおよびそれに関連の深いグループなどダンスパフォーマンスを特徴とするアーティストが数多かったことで、「踊る紅白」という感は強かった。さらに恒例となりつつある「ディズニースペシャルメドレー」内においても、今回はスペシャルナビゲーター・櫻井翔のほかIVE、Snow Man、BE:FIRST、日向坂46らがミッキーマウスらキャラクターとともにSNSを中心に人気となったキッズダンスプログラム「ジャンボリミッキー!」のダンスを披露したことも象徴的である。
また、ある意味それ以上に「踊る紅白」という印象を深くしたのが、SEKAI NO OWARIである。今回披露した「Habit」はMVでメンバー本人たちが踊り、その振付がTikTokで大きくバズったことがヒットの要因になった。『紅白』でも他の出場歌手と一緒に踊る姿には、かなりのインパクトがあった。
そうしたミュージシャンによるダンスパフォーマンスは、今回の出場者では藤井風などにもかねてから見られるところだが、この「Habit」が日本レコード大賞まで受賞したことで、その傾向はよりはっきりしたものになったように思える。
もうひとつ気づいたのは、アニソンの存在感である。これまでにもその傾向はあったが、今回はより高まった印象がある。『鬼滅の刃 遊郭編』のオープニングテーマであるAimerの「残響散歌」、『SPY×FAMILY』第1クールエンディング主題歌である星野源の「喜劇」といった新しい曲だけでなく、関ジャニ∞の「T.W.L」(『クレヨンしんちゃん』)、篠原涼子の「恋しさとせつなさと心強さと」(『ストリートファイターII MOVIE』)もあった。またSnow Manが歌った「ブラザービート」もアニメ『おそ松さん』の実写版映画の主題歌ということで、広い意味でここに入れてもいいかもしれない。