Ado、「新時代」と共に遂げた2022年の快進撃 世界を虜にした圧倒的な“個の力”

 多くの人が指摘するように、彼女の持つ武器の一つががなり声だ。単なるがなり声だけなら誰でも再現可能である。しかしAdoは、通常の歌声からシームレスにドスの効いたがなり声へと変化させることもできる。それによって聴き手の脳みそを直で鷲掴みするような、迫力満点の攻撃力を曲に生んでいる。例えば「うっせぇわ」のサビ冒頭の〈はぁ?〉、あるいは「踊」の〈鳴いていこう〉の語尾など、曲の要所で効果的に使っている。がなり声は喉への負担が大きいとされる。だが、Adoはそれを一曲のうちに何度も多用する。それだけに体力の消耗は凄まじいだろう。まるで身を削るかのごとくAdoは歌う。だからこそ我々はAdoの歌に心が奮い立ち、血が騒ぐような感覚を覚えるのだと思う。

 そこからAdoのボーカルは、新曲を出すごとに進化を見せてきた。声帯を広げたり、縮めたり、瞬間的なビブラート、繊細なウィスパー、儚げなファルセット、高度なミックスボイス……何種もの声色を使い分け、多彩な表現力でリスナーを驚かせてきた。決定打となったのが『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」だ。

 近未来感のある80年代テクノポップ的サウンドを下地に、劇中のキャラクター・ウタに扮するAdoの力強くも美しい伸びやかなボーカルが印象的なこの曲は、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデューサーとして知られる中田ヤスタカが書き下ろしている。これまでの中田ヤスタカ作品はどことなくロボット感のある人工的なボーカル表現が魅力的だったが、この「新時代」で見せているのは、肉体的で爆発力のある、人間の内から出てくるエネルギーのようなものが全面的に表れたフィジカルな方向性だ。Adoとしてもこれほど前向きでストレートな曲を歌うことはなかったはず。2人にとって文字通り「新時代」な一曲に仕上がっていると感じる。

 声だけでAdoを認識している我々は、Adoという歌い手の人間性をその声から想像するよりほかない。それまでは主に「うっせぇわ」によって、どこか影のある攻撃性を孕んだ人物像をイメージしていた者が多いだろう。しかしこの「新時代」を機に、ある種の少年漫画の主人公のようなパワフルさを兼ね備え、そのパブリックイメージをポジティブなものへと一変させていくはずだ。

 今年10月、Adoは<ユニバーサルミュージック>グループ傘下のアメリカの名門音楽レーベル、<ゲフィン・レコード>とのパートナーシップをスタートさせることが発表された。日本の音楽シーンの新しい歌姫であるAdoが、世界のニューヒロインになる日も近い。

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