DYGL、最新作『Thirst』で表現した渇きから生まれるエネルギー 作品ごとに変化・成長するバンドのあり方
DYGLの4作目となるアルバム『Thirst』が12月9日にリリースされた。前作『A Daze In A Haze』ではメンバー個々の意見やアイデアをそれまで以上に積極的に取り入れ、さまざまなルーツや嗜好が混じり合う有機的な作品を作り上げた彼ら。今作はそこからさらに一歩踏み込んで、プロデューサーを立てずに曲作りからアレンジ、レコーディング、そして一部楽曲ではミキシングに至るまでをセルフで行った、DYGL史上もっともDIYなアルバムとなった。
これまでの経験、触れてきた音楽、そして前作から今作の間に流れていた世の中の空気や自分たちの身の周りの出来事まで、さまざまなことに感化されながら生み出された11曲は、とても多彩で多様だ。しかし同時にこのアルバムに一貫したものを感じるのは、ここで鳴っている音楽が、バンドという有機的な繋がりの中で悩み、試行錯誤を繰り返しながら形作られていったからだろう。秋山信樹(Vo/Gt)の書く歌詞も、そうしたサウンドにある意味で寄りかかりながら、今まで以上に率直に、自分の中にあるテーマを吐き出している感じがする。
アルバムごとに変遷を繰り返しながら――まさに「Sandalwood」で歌われるように「彷徨い」ながら――自分たちの音楽を探し求めるDYGLの旅はまだまだ続く。しかし文字通り自分たちの手でいちから築き上げたこのアルバムは、その未知の旅路においてひとつの道標になるのではないかという気がしている。(小川智宏)
この4人でやっている意味がより出てきた
――前作『A Daze In A Haze』はDYGLにとってひとつの転換点だったと思うんです。そこから今作にかけて、また変化した部分、繋がっている部分、どちらもあると思いますが、流れとしてはどういうものだったんでしょうか?
下中洋介(以下、下中):制作の方法に関して言えば、1st(『Say Goodbye to Memory Den』)、2nd(『Songs of Innocence & Experience』)とプロデューサーの方についていただいて、エンジニアもしっかり本職の方についていただいて、きちっと音を録って。自分たちだけじゃなくて他の人も交えて進んでいく形だったんですけど、その段階から「自分たちだけで録ったらどうなるんだろう?」っていうのはたぶんずっとあったんです。だからレコーディングのたびにエンジニアの方に気になったことを聞いてメモって、なんとなく自分たちで音を録ることを見据えながらやってきたんですよね。今回、それがようやくできる機会を得られて。全部手探りで、日程の組み方も自分たちでやったらどれぐらいかかるのかもわからないし、大変でしたけど、すごく楽しかったし、次に繋がる制作になったんじゃないかなと今となっては思いますね。
――みなさん、セルフレコーディングでやってみてどうでしたか?
加地洋太朗(以下、加地):ミックス、マスタリングと経て音がどういうふうに変わっていくかっていう過程が、今までははっきりとわかってなかったんだなって思いました。自分でミックスする曲もあったりしたので、その辺がかなり解像度が高く見られるようになった感じがありますね。
嘉本康平(以下、嘉本):うん、いろいろなことを学んだ印象は強いですね。あと個人的には、そこまで気にしなくていいのかなって思った部分もあります。自分たちで録ってできた曲と、他のアーティストの曲を聴き比べたときに、ミックスって本当に正解がないなと。「自分の出したい音が出せればそれでいいのかな」っていう部分と、「どう頑張ってもこんな音出せねえや」っていう部分と両方ありました。
――秋山さんはいかがでしたか?
秋山信樹(以下、秋山):バンドとしての曲作りのあり方っていうのが、1stから2nd、2ndから3rd(『A Daze In A Haze』)、3rdから今回の『Thirst』と少しずつ変わってきて。最初のアルバムはとくに僕がフレーズとかレイヤーまで曲全体を書き切っちゃうことも多かったんですけど、2nd、3rdぐらいから少しずつそれぞれのメンバーが持つアイデアを取り入れていこうっていう感じになって。今回はよりインタラクティブというか、制作のやり取りの中で予想外のアイデアが生まれたり、この4人でやっている意味がより出てきた感じがします。音の面でもそうなんですけど、コミュニケーションとか、バンドとしてものを作るっていう物事の進め方という意味でも、一歩先に進めた感じはあります。
――アルバムが全体像として固まっていったのはいつ頃だったんですか?
秋山:最初からムードとしてこういう感じの曲をやりたいというのはありましたけど、本当に図として見えてきたのは曲が出揃ってからかな。1曲ずつエントリーしていくっていう状態だったんで、10曲、11曲ぐらい揃ったときに「ああ、このアルバムはこんな感じになるんだ」みたいな。
――その出発点となったのはやっぱりリード曲の「Under My Skin」だった?
秋山:最初にできた曲という意味でもそうですね。あの曲は最初は加地くんが作ったデモを聴かせてもらって、そのまま加地くんの家でちょっとラフな歌を入れてみてっていうところからのスタートでした。
加地:で、みんなで作業を進めてくるなかでちょっと構成を変えていったり、肉付けしていったりしてできあがりました。最初は本当にギターのメインリフのループで作った曲ですね。イメージとしては前作のツアーでいろいろな地方を回って沖縄でライブがあったときに、秋山が「Little ROCKERS」っていう小さなクラブで友達を集めて「Mind the Gap」というDJイベントをやっていたんです。そのときに流れた音楽が心地よかったんですよね。コロナ禍以降、そうやってクラブとかで友達と集まって遊ぶこと自体が久しぶりだったのもあって、その記憶が結構残っていて。だから、音源ではしっかり生のドラムを使ってるんですけど、デモの段階ではドラムマシンでトラップみたいなハイハットの刻みとかも入れていたんです。そういう場所で聴ける音楽もやってみたいなっていうのは少し頭にありました。
――そういうクラブ的な空間にみんなが集まったときの高揚感とか一体感みたいなものがイメージにあったということですよね。
加地:そうですね。それを狙って作ったわけじゃないんですけど、結果的にちょっとそっちに寄っていった感じです。
――実際、サウンドはすごく自由なものになっているんですけど、歌詞はちょっとそれとは違うニュアンスがあるんじゃないかなと思いました。
秋山:僕的には、曲を聴いて自分の心の中に浮かんだイメージを当てていったので、あえて逆のものっていう心境ではなかったです。ぼんやり頭に浮かんでくる言葉を並べて、少しずつストーリーの輪郭を浮かび上がらせて。心の中にある感情を表現したいけどできなかったり、誰かに思いを伝えられなかったりするときのもどかしい感情を思い起こしたんですけど、この曲の高揚感と合わさったときにそういう思いがちょっと救われるような気持ちになれる気がして。
――今秋山さんが言ったことってこのアルバム全体を通してもすごく重要なことだなと思います。言葉とか思いが音と合わさることによって救われていったり肯定されていったりする、そういう気分がこのアルバムにはすごくあるなと思うんですよね。歌詞に描かれていることは迷っていたり彷徨っていたりするんだけど、でもそこに音があるからそれを認められたり受け入れたり、肯定できたりするっていう。
秋山:そうですね。昔から音楽に対して言葉を書くときはそういう気分になることが多いかもしれません。救いや、癒しを求めるような。1stアルバムの時なんかはもう少し一つの曲の中で、もどかしさから救いまでを包括的に表現しようとしていた気がしますが、今回はどちらかというとそこは曲ごとに任せていて。だから言葉だけ読むとちょっと暗いかなみたいな部分もありますが、そこに音があるから救われるというような。曲ごとのテーマはこれまで以上に振りきったかなと思います。とはいえやろうとしたことはそんなに変わっていないし、描きたいものはずっと一緒な気もします。
――例えばこのアルバムの「Salvation」の次に「Dazzling」が来るところのコントラストってすごいじゃないですか。サウンド的には本当に正反対なんだけど、でも歌っていることや言葉と音の関係性、そこから生まれている空気感みたいなものはすごく繋がっている気がする。音的なところじゃない部分でちゃんと繋がっているのがこのアルバムの良さなんですよね。
秋山:ああ、ありがとうございます。