乃木坂46、10人編成で築くアンダーライブの新章 グループの未来を担う覚悟が熱く滲み出たステージに

乃木坂46、アンダーライブの新章へ

 乃木坂46アンダーメンバーによる『31stSGアンダーライブ』最終公演が12月19日、KT Zepp Yokohamaにて行われた。12月7日にリリースされた乃木坂46の31枚目シングル『ここにはないもの』アンダーメンバーによる今回のアンダーライブは、12月1日の横浜公演を皮切りに札幌、福岡、名古屋、大阪の全5都市のZepp会場で計9公演を行うツアー形式。今秋に開催された『30thSGアンダーライブ』をもって一期生・和田まあやが卒業したことで、今回から三期生5人、四期生5人の計10人という小編成でアンダーライブの新章を築き上げていくことになる。

 今回のアンダーライブ、何より驚かされたのはオープニングだろう。乃木坂46の全体ライブ同様、アンダーライブも出囃子である「Overture」からスタートすることが当たり前になっていたが、今回は切なさを伴うピアノインストとともに会場が暗転。その音色がいつしか「アンダー」へとつながっていき、ステージにひとり登場した座長の中村麗乃が同曲のサビをアカペラで歌唱するのだ。透き通るような歌声に耳を澄ませる観客は、彼女がワンフレーズ歌い終えると盛大な拍手を送る。そこから「アンダー」本編へと突入するとほかのメンバーが徐々に加わり、サビまでに10人が勢揃い。ピアノ伴奏のミニマルなバックトラックとともに、彼女たちは自信に満ち溢れた歌声を響かせた。従来のスタイルからガラッと変えたドラマチックな冒頭の構成は、アンダーライブを作り上げた初期メンバーがいなくなったこのタイミングだからこその“仕切り直し”感も伝わり、メンバーおよびスタッフのこのライブにかける想いも感じ取ることができた。

 2曲目の「三角の空き地」以降は徐々に熱量を上げていくようなセットリストとなっており、フロアの熱気とステージ上のパフォーマンスから伝わるエモーショナルさは「滑走路」「嫉妬の権利」と曲を重ねるにつれて上昇していく。また、「三角の空き地」では佐藤楓、「滑走路」では松尾美佑、「嫉妬の権利」では中村がそれぞれセンターを務め、オリジナル編成の持ち味を残しつつも現編成ならではの解釈も随所に散りばめられ、常に進化し続けていることを窺わせる。

 筆者はツアー初日となる12月1日の同会場での公演も観覧したのだが、各地での経験を経てセットリストや曲間の煽りなどに工夫が加えられていることにも気づかされる。初日は4曲終えたあとにMCが入ったのだが、この日はうっすらとBGMを流しながら向井葉月ひとりが短いMCで観客を煽る。序盤で上昇し続けた熱量をまったりトークで下げてしまわないための工夫は、その後の「三番目の風」「4番目の光」へとシームレスでつながり、観る側としてもライブをスムーズに楽しむことができた。これもツアー形式ならではの良さだろう。

 そして、アンダーライブに「三番目の風」「4番目の光」の2曲を投入することができたのも、三期生&四期生のみで構成された現編成だからこそ。このタイミングにこの2曲を披露するあたりにも、彼女たちの「ここからまた始めるんだ」という強い意思が伝わってくる。さらに、卒業した和田がセンターを務めた「Under's Love」も今回は伊藤理々杏&松尾のダブルセンターによる新編成でパフォーマンス。フレッシュさを取り戻したかのような前2曲とは異なり、この「Under's Love」では指先にまで神経が行き届いたかのような大人びた表現力で観る者を魅了した。

 7曲終えたところで、ようやく長めのMCパートへと移る。矢久保美緒を中心にトークが展開されるこのパートでは、公演中の怪我により名古屋、大阪の4公演を休演した北川悠理がこの日から復帰したことが告げられる。北川は「こうしてステージに立てて本当に、本当にうれしいです」と早くも感極まる。そんな北川の言葉を受け、伊藤は「さっきもでん(佐藤楓)と『明日のことを考えずに全部出し切れるじゃん』って話していて。怪我しないように、明日喉が枯れて喋れなくなるぐらい、全力を出し切ろうと思います」と意気込みを口にし、続く向井も「今日は10人やっと揃ったことがうれしくて。落ち着いてみんなを楽しませられるようにしたいですし、何より配信を観ている皆さんに『これがアンダーかよ!』と驚いてもらえるよう頑張ります」とインターネット生配信を視聴しているファンに向けてメッセージを送った。

 続いてはユニットパートに突入。「路面電車の街」では吉田綾乃クリスティーを中心に、中村麗乃&佐藤璃果とともに美しいハーモニーを響かせる。かと思えば、「満月が消えた」では北川をセンターに佐藤楓、松尾の3人でロックダンスを交えたキレのいいパフォーマンスを披露。「行くあてのない僕たち」では黒見明香&矢久保が色違いのお揃い衣装を身にまとい、アンニュイな空気を漂わせながらも力強い歌声を聴かせる。そして「コウモリよ」では伊藤&向井が激しいメタルサウンドに乗せて圧巻の歌声を轟かせる。この曲では黒見&矢久保もダンス&合いの手で加わり、華やかさを演出した。それぞれ先輩メンバーが作り上げてきたオリジナリティの強い楽曲群だが、残された“財産(=楽曲)”を継承しつつ、次の世代に向けて歌いつないでいこうとする姿勢、そして先輩たちに負けず劣らずの個性を発揮しようとする気概は、まさに新たなアンダーライブが始まったんだと感じさせるに十分なものだった。

 中村、吉田、北川によるユニットパートを振り返るトークに続いては、毎公演ひとりずつ決意表明を述べるコーナーへ。この日は松尾が担当し、グループ加入後の苦悩を吐露しつつ、将来どうなりたいのか、どうしていきたいのかわからないながらも「今が常に一番楽しいです。今を楽しむことに精一杯で、その先のことに不安を感じることも忘れてしまったりします」と本音を明かす。続けて「下を向くわけでも、上を見るわけでもなく、私は今自分が見えている景色を全力で楽しみながら、歩いたり走ったり、マイペースに自分の道を進んでいこうと思っています。もしよかったら私が見ている景色の一員となって、見守っていただけるとうれしいです」と観客に呼びかけると、フロアからは盛大な拍手が送られた。

 胸が熱くなるような松尾の言葉に続いては、メンバーの歌をじっくり聴かせるブロックへ。ここでは音数を減らしたアレンジの「明日がある理由」「いつかできるから今日できる」が用意され、メンバー一人ひとりのソロパートを交えながら個々の魅力が色濃く提示された。ライブ冒頭の「アンダー」にもつながるこのパートは、ツアー初日とは見違えるほどの進化を遂げ、間違いなく今回の経験が彼女たちの成長の手助けとなったことが窺える。

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