大滝詠一「幸せな結末」を生んだドラマ制作陣の熱意 『ラブ ジェネレーション』が放っていた特別な存在感

『みんなが聴いた平成ヒット曲』第7回…大滝詠一「幸せな結末」

木村拓哉&松たか子『ラブジェネ』が最高平均視聴率を記録

 10月27日、岐阜県岐阜市で開催された『ぎふ信長まつり』の騎馬武者行列に、木村拓哉が織田信長役として登場し、同イベントの1日としての過去最多観客数46万人を記録したという。メディアもその勇ましい姿を多数報道するなど、木村が国民的人気を誇っていることをあらためて実感させた。

 いまから25年前のこの時期も、木村は日本全国をにぎわせていた。主演をつとめた月9のドラマ『ラブ ジェネレーション』が放送されていたのだ。広告代理店の営業マン(木村)と、同じ会社に勤務するOL(松たか子)が、いがみ合いながらも恋仲へと発展する様子を描いた同作。当時のフジテレビ月曜9時枠の連続ドラマとしては最高となる全11話の平均視聴率30.8%を叩き出した(※1)。

 放送前から『ラブジェネ』への期待感は高かった。すでに人気絶頂だった木村だけではなく、前年放送の月9ドラマ『ロングバケーション』(1996年/フジテレビ系)で木村と共演して脚光を浴びていた松も月9で初めてヒロインに抜てきされたからだ。

 多くの人が早くから心を躍らせていた『ラブジェネ』だったが、その番宣映像を観たとき、私は鳥肌を立てた。大滝詠一の名曲「君は天然色」「恋するカレン」(ともに1981年)が一緒に流れていたからだ。「大滝詠一の旧曲が主題歌なのか! さすが木村拓哉×松たか子の月9ドラマ」と特別性を感じた。さらに、筆者の記憶では10月13日の放送直前の番宣映像か、もしくは初回オンエアを観て、大滝の聴き覚えのない楽曲を耳にして「なんだこの曲は? もしかして新曲?」と驚きのあまりふたたび身体中がゾワっとした。

大滝詠一の12年ぶり新曲はドラマ放送日直前に完成

 なぜ驚いたのか。それは大滝にとって12年ぶりの新曲だったからだ。

 しかし、伏線はあった。前年放送の木村と山口智子主演ドラマ『ロングバケーション』のタイトルは、まさに大滝の名盤『A LONG VACATION』(1981年)へのオマージュだった。同作でもドラマ側から大滝へ接触があったが、主題歌制作は叶わなかったと言われている。それから約1年半後の『ラブジェネ』は、『ロンバケ』と同じく北川悦吏子が脚本、『ロンバケ』にも参加していた永山耕三が演出に名を連ねていた。そして木村と松の“再会”。大滝を迎え入れるお膳立てがしっかりと整えられていた。

 大滝は、『ラブジェネ』のために主題歌「幸せな結末」を書き下ろした。大滝と親交が深かった音楽評論家・萩原健太氏は、雑誌『レコードコレクターズ』(2020年4月号)の寄稿文で「『ラブ ジェネレーション』というドラマは97年10月13日放送開始予定だった。にもかかわらず、その主題歌と思われる新曲のマスタリング完成を告げる電話が10月11日。とんでもないギリギリ進行だったわけだ」と振り返っている。

 萩原氏はリリース前にマスタリングルームで同曲を聴いたという。「イントロからやられた」「完璧だった」と、あまりのすばらしさに放心気味にマスタリングルームの扉をあけて出ると、ソファで寝転がっている大滝が「久々に自分としては“実感”があったんだよ」と声をかけたのだという。

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