ブルーノ・マーズ、大興奮に包まれたドーム公演 クオリティで圧倒し愛嬌で魅了した、世界最高峰のエンターテインメント

 だが、魅せる時は徹底的に魅せるのがブルーノだ。本編終盤で披露された「Grenade」(2ndシングル曲)は近年の作品群ではあまり見られなくなったダークな恋愛ソングだが、楽曲の主人公が抱える悲痛な想いを、ロック色を強化して驚くほどにドラマティックになったバンドアレンジと共に、原曲以上に切実な歌声で徹底的に表現してみせる。ブルーノはギターも担当し、程よく歪んだ音色(弦の揺れや反響のニュアンスが伝わりながらも、深く歪んでいる、60年代~70年代のハードロックを彷彿とさせる本当に絶妙な歪みだ)で演奏側からもその感情を増幅させていく。最後のコーラスでは幾度も炎が噴き上がり、このドラマのクライマックスを限界まで引き上げようとするが、本当のクライマックスは最後にブルーノが一人で披露した爆音のギターソロによって訪れる。しっかりとした厚みのある弦の鳴りに、力強いチョーキングやフィードバックノイズを織り交ぜたエモーショナルな音色。(以前、ハロウィーンでコスプレを披露していた)ジミ・ヘンドリックスの名を思い出してしまったのはやや過言かもしれないが、それくらい大胆で圧倒的なソロによってあまりにも見事なフィニッシュを決めたのだ。ブルーノといえばファンクの印象が強いが、ロックの文脈においても只者ではない。改めてその事実を強く認識する瞬間だった。

 とはいえ、やはり最後はやはりパーティで楽しく締めたいのだろう。本編の最後を締めくくったのは、代表曲にして最高のポップナンバー「Locked Out Of Heaven」と「Just The Way You Are」だ。観客との掛け合いもバッチリで、「Locked Out Of Heaven」ではステージと客席が一体となった幸福感に溢れる空間にありったけの金色の紙吹雪が放たれ、「Just The Way You Are」では満面の笑みで歌うブルーノと、どこまでもポジティブなエネルギーを放出するバンド/ダンサーによってこれ以上ないくらいの大団円が広がっていく。最後にはもはや様式美とも言えるアウトロセッションによるメンバー紹介が行われ、最高にポップなムードの中で、観客は改めてステージに向けて惜しみない拍手を贈った。

 なんて素晴らしいエンディングだろう。明らかにショーは終わりであり、それで全く問題はないのだが、せっかくなので(筆者も含め)観客はアンコールを求めた。すると、意外にもあまり間を置くことなく、ブルーノが戻ってくる。ドラムとベースによるグルーヴたっぷりの演奏に合わせてバンド/ダンサーと共にフォーメーションを組み、掛け声を入れながら踊り出すブルーノ。景気の良いホーン隊が場をさらに盛り上げ、この場にいる誰もが聴いたことがあるであろうイントロへと繋がっていく。そう、本当の最後の曲として披露されたのは「Uptown Funk」だ。的確なタイミング/強さと絶妙な“揺れ”を保ちながら途轍もないグルーヴを生み出すバンド演奏とブルーノの歌声。一見軽快に見えるが寸分の狂いもないブルーノとダンサーのフォーメーションダンスから生まれる圧倒的にポジティブなムード。生で聴く「Uptown Funk」のあまりの破壊力に鳥肌とダンスが止まらない。ブルーノが「Don’t beleive me, just watch!」と叫ぶたびに、この空間が広がっていくような気さえしてくる。だが、何より驚いたのは、このとんでもない演奏の中心で、最後にトドメのダブルピースを決めてしまうブルーノの姿だ。もはや末恐ろしさすら感じてしまうほどだが、この圧倒的な経験と努力と才能に裏打ちされた“余裕”こそが、ブルーノ・マーズが世界最強クラスのポップスターである理由なのだろう。

 帰り道の途中、たくさんの観客が「凄かった」「最高だった」と同じくらい「可愛かった」と感想を語っていた。筆者もその一人だが、実際にパフォーマンスを体験すると、その凄みを実感したり、楽しみにしていた楽曲を生で聴けた興奮に加え、何よりもブルーノ・マーズという人間そのものがもっと好きになるのである。そして、また会いたくなってしまうのだ。

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