FIVE NEW OLD、“バンドを一度壊したい”という思いからの再出発 他者の視点を加えて見えた新しい姿

FIVE NEW OLDの再出発

 FIVE NEW OLDがニューアルバム『Departure : My New Me』を完成させた。印象的なタイトルが象徴するように、本作にはバンドにとっての様々な“New”が詰まっている。Bloc Partyのラッセル・リサックをはじめとした国内外の幅広いプロデューサー/アレンジャーの起用、日本語の割合を増やした歌詞、初めてのアニメ主題歌に加え、中盤に並んだダンスミュージック寄りのアプローチも非常に新鮮だ。

 今回のインタビューで語られている通り、こうしたトライの背景にはHIROSHI(Vo/Gt)の「FIVE NEW OLDを一度壊したい」という想いがあったという。バンドの知名度が上がる中で、HIROSHIがどんな葛藤を抱え、それをいかにメンバーと共有し、『Departure:My New Me』を作り上げたのか。新たな旅立ちの季節を迎えたバンドの現在を語ってもらった。(金子厚武)

僕らが伝えたいことを本当に正しく伝えられてるのかがわからなくなった

HIROSHI(Vo, G)
HIROSHI(Vo/Gt)

――『Departure : My New Me』からは文字通り様々な“New”が感じられますが、一番明確なのは楽曲ごとに複数のプロデューサー/アレンジャーを起用していることだと思います。前作『MUSIC WARDROBE』以降にどのような心境の変化があって、新作に向かっていったのでしょうか?

HIROSHI:『MUSIC WARDROBE』は<ワーナーミュージック・ジャパン>に来て、新しいチームで作った最初のアルバムで、タイアップも多かったので、すごく世の中に広まった作品だと思っていて。10周年というタイミングもあったから、「ここで集大成を作るぞ」みたいな気持ちもありました。ただ、そういう作品を作れた一方で、迷いも生じてたんですよね。

――迷いというと?

HIROSHI:たくさんの人に聴いてもらえるようになって、コアな音楽ファンだけじゃなく、一般の人にも聴いてもらう機会が増えたときに、僕らが伝えたいことを本当に正しく伝えられてるのかがわからなくなって、「何で音楽やってるんだっけ?」という感じになって……。去年末に僕、一回爆発したんですよ。「FIVE NEW OLDをぶっ壊してえ!」みたいな。それは「こんなバンドもう嫌だ」じゃなくて、何で音楽をやってるのか、何でFIVE NEW OLDじゃなきゃダメなのかっていうのを、もう一回みんなと考えたかったんです。なので、まずは自分たちを見つめ直すところから、この作品までの道のりが始まりました。

――FIVE NEW OLDというバンドの原点をもう一度見つめ直したと。

HIROSHI:もともと僕は洋楽にすごく憧れていて、言葉を選ばずに言うと、「J-POPとかクソだぜ」みたいな人間だったんです。世界にはもっと良いものがたくさんあるから、俺たちがそういうものと出会うきっかけになりたいと思ったし、自分たちが信じた音楽を人と分かち合いたいと思ったんですよね。最近は「ジャンルレスですね」と言われることが増えたけど、「ジャンルを超えてやろう」とかそういうことじゃなくて、ただ好きだからやってるし、その音楽を信じてるからやってるだけなんです。それを思い返したときに、FIVE NEW OLDの音楽は空港のようなものだなって。

――そこが『Departure』(=出発)というタイトルにも繋がると。

HIROSHI:そうですね。ゲートウェイになって、そこからいろんな世界に飛び立っていける。それとさっき言ったように、10周年という区切りを経て、僕個人としてはFIVE NEW OLDを一度壊して、そこから再生したいという思いがあったので、次へ旅立つポイントとして、このアルバムを作りたかったんです。

SHUN(B)
SHUN(Ba)

――今作におけるプロデューサーやアレンジャーの起用というのも、つまりはFIVE NEW OLDを一度壊して、そこから再生するためのトライの一環だったわけですよね。SHUNさんはもともとバンドをプロデューサー的な立ち位置で見ていて、その後にメンバーとして加入したわけですが、今回の変化をどのように感じていますか?

SHUN:僕は後から入ったこともあって、バンドをちょっと俯瞰することが自分の役割だと思ってたんですけど、『MUSIC WARDROBE』でその立場でできることはやり切った感覚があったんです。そんな中で、HIROSHIくんから「バンドを壊したい」という話を聞いて、今までHIROSHIくんにすべてを任せすぎてたかもしれないと思いました。HIROSHIくんが中心になって動かすことがこのバンドの良さだと思ってた部分もあるけど、責任を負わせすぎてたなって。

――一歩引いて見ることも大切だけど、引き過ぎていた部分もあったかもしれないと。

SHUN:なので、次はこれまでの俯瞰的なスタンスじゃなくて、もっとメンバーの一員として……もちろん、今までもそうだったんですけど、心の底からこのバンドの一員として、みんなと血の通ったものを作りたいっていうのが、今回の自分のテーマとしてありました。プロデューサーさんやアレンジャーさんに入ってもらったけど、結果的にブレない作品が作れたのはそこが大きかったというか。メンバーがちゃんと意見を共有して、自分のバンドとして一曲一曲作った感触が今まで以上にある作品になったと思います。

WATARU(G, Key)
WATARU(Gt/Key)

WATARU:メンバー以外の人の手が加わるのは、単純に楽曲をビルドアップしてもらうっていうことじゃなくて、その作業を経験することで、自分たちの選択肢が広がるっていうことなんですよね。なので、自分たちの新しい側面を見せつつ、アレンジのパターンとかを自分たちのものにしていくことで、今後にも繋がる作品になったと思います。

SHUN:今まではHIROSHIくんとWATARUくんが楽曲の基を作って、それに肉づけしたり、アレンジをするのが自分の役割だと思ってる部分があったんですけど、今回は別にプロデューサーさんとかアレンジャーさんがいたので、もっと根っこの部分をメンバー4人で作るのが課題であり、テーマにもなっていて。

HAYATO:それもあって、今回ドラムの音色にも相当こだわって、『Too Much Is Never Enough』の頃を思い出したりもしました。

HIROSHI:これまではHAYATOがいい音だと思えばそれでオッケーにしてたけど、今回は4人でサウンドの方向性をより明確に共有して、それが普段HAYATOがしないような音の作り方だったとしても、みんなで意見を出し合って音を作っていって。

HAYATO:僕が一人でブースにいて、みんなの意見を聞きながらチューニングしたりして、でもその場ではマイクに乗って出た音がわからないから、「これでいい音になるのかな?」っていう不安もありながら叩いてたんです。でもみんなを信じてやって、あとで聴いてみると、めっちゃいい音になってたんですよね。

SHUN:そうやって自分たちで細かいところまでコントロールしたので、いろんなプロデューサーさんやアレンジャーさんが入っても、バラバラな感じはしないアルバムができたなって。そうなれたのはやっぱりHIROSHIくんが暴れたのが大きくて(笑)、そこで一回バンドを破壊して、もう一度みんなで組み立て直せた。個人的にも、ゼロイチからしっかり一緒に組み立てることができたので、やっとバンドとして正しい形になれた気がします。

HAYATO(Dr)
HAYATO(Dr)

――HIROSHIさんが爆発したのは、明確に「この日」っていうのがあったんですか?

HAYATO:大阪でライブをした後だよね。

WATARU:通称「大阪冬の陣」と呼ばれている(笑)。

HIROSHI:僕、今まで人生で一回も金髪にしたことなかったんですけど、去年のZepp DiverCityでの10周年公演が終わったあとに、初めて金髪にしたんです。もはや自傷行為に近かったというか、それくらいのころからたまってるものが出てきてたんだと思うんですよね。

――「何で音楽やってるんだっけ?」というモヤモヤが生じてきたのは、今振り返ると何が大きな原因だったと思いますか?

HIROSHI:『MUSIC WARDROBE』のタイミングでいろいろタイアップに起用していただいたのは嬉しかったし、クライアントが求めることに応える喜びもあったんですけど、そういう曲で歌われる歌詞はどうしても希望を持つものが多くなるじゃないですか。本当は世の中それだけじゃないのに、「希望」というベールで何かを隠していないかって。もちろん、自分はそれだけじゃないものを書いてきたつもりだけど、誰かに何かを感じ取ってもらえるものを残せたのかどうか。そういう葛藤がすごく生まれてきて。

――そこをこのタイミングでもう一度見つめ直したかったと。

HIROSHI:『Departure : My New Me』というタイトルは、一見すごくポジティブですけど、自分をアップデートする過程では、醜い自分と出会うかもしれないし、それを受け入れなきゃいけない辛さとかも内包されていて、そこも含めて描きたかったんです。ただ希望を描くんじゃなくて、その先に希望があるんだっていう、「お前がやりたかったのはそういうことだろ?」って。それで爆発しちゃったんですよね。もちろんファンの方が「曲を聴いて元気になりました」って言ってくれるのはめちゃめちゃ嬉しいことで、感謝もしてるんですけど、そこにちょっとジレンマがあったのも事実で。「じゃあ、その人たちがどういう希望を持ってくれたのか」というところまで掘り下げて考えようと思ったんです。

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