連載「lit!」第12回:ビヨンセ、The 1975、Mura Masa…ダンスフロアへ向かう夏の海外ポップミュージック チルな曲と併せて紹介

Dawes「Joke In There Somewhere」

 ここからはダンスフロアというよりも、聴きながら家でゆったり涼めるような楽曲を紹介していきたいと思います。

 まずは先日のフジロックでFIELD OF HEAVENにて充実のステージを披露した、L.A.を拠点に活動するオルタナティブ・ロックバンドDawesの新作『Misadventures Of Doomscroller』より一際清涼感を放つこちらの1曲。同アルバムの5曲目で、5分半の本編と連続した1分半のアウトロが分けて収録されています。本楽曲はボーカルを務めるバンドのフロントマン、テイラー・ゴールドスミスの爽やかなギターで幕を開け、ゆったりしたペースと味わい深い立体的な音響も相まって穏やかな情景を喚起していきます。

Dawes - Joke In There Somewhere & Joke In There Somewhere (Outro) (Official Performance Video)

 実は初来日であったフジロックでの今回のステージはこれまでのバンドの楽曲を中心に、新アルバムからの演奏は2曲と少なめ(※6)でしたが、何としても現地で堪能したかったと思わせる素晴らしいパフォーマンスでした。間違いなく今後とも見逃せないバンドのひとつでしょう。

マギー・ロジャース「Horses」

 続いては7月に2ndアルバム『Surrender』をリリースしたマギー・ロジャースによる大自然の解放感満載のこちらの楽曲。ロジャースは2016年に当時通っていたニューヨーク大学で行われたファレル・ウィリアムス主催のマスタークラスに参加し、その際課題として提出した自作曲「Alaska」を聴いたファレルが感動し、目を潤ませながら絶賛した動画(※7)をきっかけに注目を浴び、2019年のデビューアルバム『Heard It In A Past Life』で2020年のグラミー賞最優秀新人賞にノミネート(※8)されました。3年ぶりとなるフルアルバムでは髪をベリーショートにし、歌声の力強さも格段に増しています。また、元米大統領オバマ氏の夏恒例のプレイリスト(※9)にも新曲「That’s Where I Am」が選ばれており、ますます注目度が高まっています。

Maggie Rogers - That's Where I Am

 今回紹介する「Horses」は、ストレートな感情が綴られた歌詞に、伝統的なアメリカーナを強く意識させる圧巻のボーカルで、ライブだと大合唱が起きるのではないかと思えるほどメロディも洗練されています。しかし、アルバム全編このような方向かというと決してそうではなく、その音楽性はカントリー、フォーク、ロックまで多岐にわたります。実は2017年のフジロックにて初来日を果たしている(※10)ので、新作を携えて来年あたりにまた来日してくれるのではと期待しています。

Maggie Rogers - Horses (Official Video)

バッド・バニー「Otro Atardecer(feat. The Marías)」

 続いては今年5月にリリースしたアルバム『Un Verano Sin Ti』にてそれまでドレイクの保持していたSpotifyでの1日の歴代最多再生回数(1億7680万回)を1億8300万回という記録で塗り替え(※11)、年々その勢いを増しているプエルトリコのスーパースター、バッド・バニーによるこちらの1曲。バッド・バニーは日本ではやや馴染みの薄いレゲトンと呼ばれるラテン系の音楽ジャンル(最初に紹介したビヨンセの新作の1曲目でも使われています)を代表して革命を起こし続けている重要人物。凄まじい人気と同時に批評的評価(※12)も両立している稀有なアーティストです。また、伊坂幸太郎の小説を原作とする日本では今年9月劇場公開のブラッド・ピットが主演を務める映画『ブレット・トレイン』(※13)にて俳優デビューも果たしました。

 紹介する本楽曲はアルバムの中ではむしろ異質なほどまったりした雰囲気で、ネオソウル的なサウンドと洗練されたビジュアルで『コーチェラ・フェスティバル』の配信時も話題になったインディーポップバンド、The Maríasを迎えています。バッド・バニーと同じくプエルトリコ出身のボーカル、マリア・ザルドヤの幽玄な声と彼の掛け合いがクセになる、暑すぎる夏にもうってつけの良曲です。

Bad Bunny (ft. The Marias) - Otro Atardecer (360° Visualizer) | Un Verano Sin Ti

DOMi & JD BECK「TAKE A CHANCE(feat. アンダーソン・パーク)」

 最後に紹介するのはSNSを介してあのアンダーソン・パークに見出された大型新人DOMi & JD BECKによる破格のデビュー作『NOT TiGHT』からの1曲です。DOMi & JD BECKはフランスの出身ので22歳のキーボーディスト、ドミ・ルナと米出身の18歳、人力とは思えないほどの技巧派ドラマー、JD・ベックのデュオです。彼らは昨年大ヒットを飛ばしたブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるプロジェクトSilk Sonicのアルバムにも参加しており、今年に入ってからはパークがユニバーサルミュージックと新たに立ち上げたレーベル、<エイプシット・インク(APESHIT Inc.)>と名門<ブルーノート・レコード>と契約し、アルバムデビューに至りました。サンダーキャット、マック・デマルコ、スヌープ・ドッグ、ハービー・ハンコックなどといった信じられないほど豪華な客演を多数迎え入れて制作された本作ですが、2人の「超絶テク」を見事最高のポップアルバムとして仕上げたパークの手腕と、彼らを自身のInstagramのアイコンにしている(※14)(2022年8月現在)ほどの気合の入れようから、その本気度と自信が窺えます。

 中でも今回紹介したいのは、パーク自身もラップで参加している注目曲です。緩急が前後で激しく入れ替わる演奏ですが、それが全く違和感のない極上の滑らかさで成立しています。特に3人の歌唱が組み合わさるコーラス部の質感は唯一無二の美しいサウンドで、チルであると同時に感動的ですらあります。

DOMi & JD BECK, Anderson .Paak - TAKE A CHANCE (Official)

<参考>
※1:https://realsound.jp/2022/06/post-1065056.html
※2:https://genius.com/Beyonce-break-my-soul-lyrics
※3:https://www.instagram.com/p/Cfb3ddsFe2S/?igshid=YmMyMTA2M2Y=
※4:https://pitchfork.com/features/cover-story/the-1975-interview/
※5:https://www.setlist.fm/setlist/mura-masa/2022/naeba-ski-resort-yuzawa-japan-5bb21388.html
※6:https://www.setlist.fm/setlist/dawes/2022/naeba-ski-resort-yuzawa-japan-3b2257b.html
※7:https://www.youtube.com/watch?v=G0u7lXy7pDg
※8:https://www.grammy.com/artists/maggie-rogers/251991
※9:https://twitter.com/BarackObama/status/1552005985807618049?s=20&t=PR-VnBCQDLqbNPKCLWqRnw
※10:https://www.fujirockfestival.com/19/history/2017
※11:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/111816
※12:https://pitchfork.com/reviews/albums/bad-bunny-un-verano-sin-ti/
※13:https://www.bullettrain-movie.jp/
※14:https://www.instagram.com/anderson._paak/

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