DOPING PANDA、再結成ツアーを経て見えた景色 ロックシーンが移ろう中で新たに目指すバンド像を語る
『AIR JAM』とパンクが起点になった“DOPING PANDA世代”のスタンス
ーー当時、DOPING PANDAがやっていたことはかなり新しくて、海外ロックとの同時代性を反映させながら、日本のロックシーンを先読みしたような音を鳴らしていたと思うんです。一方、この10年でDOPING PANDAの影響を受けたバンドのシーンも成熟して、リスナーもフラットにDOPING PANDAの音楽を聴けるようになった今再結成されたというのは、すごく意義深いように思います。
Furukawa:とはいえ、解散も再結成もタイミングを狙ってできるわけではないですから。蓋を開けてみたらそう言ってもらえることに幸せを感じてますけど、もうちょっと遅かったら今更感があったかもしれないし。本当に偶然なんですよね。
ーー戻ってきた今のバンドシーンに対しては、どう感じていますか?
Furukawa:洋楽由来のバンドがだいぶ少なくなったなと思いました。僕ら世代は英詞で歌ってるバンドばかりだったけど、それ以降は邦楽バンドをリスペクトして音楽を始める人が多い気がしていて。僕らはすごく洋楽っぽいバンドだと自負しているんですけど、そういう今のシーンにない違和感を若いリスナーに楽しんでもらってる気はするんですよ。
ーーなるほど。
Furukawa:洋楽由来でバンドを始めた最後の世代くらいなのかなと思ってます。まあそれ以降は洋楽ロックが弱くなってるという原因もあるんでしょうね。グローバル化で音楽の聴き方もだんだん変わったから。
ーーそれこそDOPING PANDAと同じ1997年結成のバンドといえば、10-FEET、HAWAIIAN6、ACIDMANあたりですよね。ジャンルはそれぞれですが、ロックやパンクのサウンドを拡張させながら、今に至るバンドシーンの礎を築いた世代だと思いますけど、その世代にいたことはDOPING PANDAの活動にはどのように影響しているんでしょうか?
Furukawa:まず僕ら世代にとってデカかったのは、やっぱり『AIR JAM』ですね。10-FEETとかHAWAIIAN6とかthe band apartにも影響を与えているし、ギターロックと言われてるアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とかACIDMANとかストレイテナーにも影響を与えていて。当時、Hi-STANDARDとか洋楽パンクのパワーって本当にすごくて、今だと想像がつかないかもしれないけど、英詞でパンクを歌ってないとライブハウスにブッキングされない時代があったんですよ。逆にアジカンは日本語詞でギターロックをやっていたから、僕らやHAWAIIAN6みたいにメロディックパンクの先輩たちとあまり繋がれないことがコンプレックスだった、みたいな話も聞いたことがあるし。よくも悪くも2000年代に活躍したバンドって『AIR JAM』へのリスペクトかアンチテーゼの塊なので、若い人たちから見ると不思議な世代に見えるのかもしれない。
ーーミクスチャーもメロディックパンクもギターロックもいる世代で、DOPING PANDAがいわゆるダンスロック的な音像に舵を切ったのは、改めて振り返るとどうしてだったんでしょう?
Furukawa:インディーズ時代のプロデューサーだった、SCAFULL KINGのTAGAMIさん(SYUTA-LOW "TGMX" TAGAMI)が、パンクとは別なことを試したいって言ってて。打ち込みとかが入ってきたのはその影響ですね。僕らはもともとそこまでパンク出身じゃなかったんですけど、さっき言ったように英詞パンクじゃないとライブに出られなかったので、寄せていった部分は少なからずありました。そこから僕らもTAGAMIさんの言うことを面白がって、パンクから飛び出したくなっていったりとか。メジャーに行ってからは形が変わっていくんですけど、結局「Crazy」とかもリズムセクションは四つ打ちだけどパンクだなと思いますし、ダンス的な要素はあくまでアプローチの1つであって、そうでない曲も山ほどありますから。わざわざ否定はしなかったけど、ダンスロックとかエレクトロって言われたのも最初は違和感がありました。本当のエレクトロって言ったら、先輩のBOOM BOOM SATELLITESとかだと思っていたので。
ーーとはいえ、同世代のバンドもみんなそうですけど、核がしっかりあるからこそサウンドの幅を広げてもスタンスがブレなかったと思っていて。逆にいうと、これからもそうやってドーパンらしさを保ちながら更新していくんだろうなと思うんです。
Furukawa:この前のアルバム(『Doping Panda』)は“ドーパンを作る”っていうことが制作のモチベーションとして強くて、結果的に「再結成アルバムが一番ドーパンらしい」っていうある種の矛盾みたいなことになりましたけど、今度は『∞ THE REUNION TOUR』の景色も踏まえて、もっと新しいものを提示したいなと思ってます。僕ら3人が出す音だけど過去の作品にはない、今の時代のサウンドにしていきたくて。先日、新しいデモも1曲作ったんですけど、2020年代だなっていうドーパンを目指していきたいと思っています。
新たなモチベーションでDOPING PANDAが目指すもの
ーーそして『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)も含め、今年はフェスに多数出演されますね。
Furukawa:もちろん『フジロック』は個人的にめちゃくちゃ思い入れのあるフェスですけど、先日出演した『THE CAMP BOOK』も、これから控える『氣志團万博』も『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL』も『たとえばボクが踊ったら、#004』も、フェスでどうするかっていうのは1個1個それぞれに課題があるような感覚です。『氣志團万博』ではジャンルの違う対バンをたくさんするような気持ちだし、『たとえばボクが踊ったら』にはThe Birthdayがいるから、チバさん(チバユウスケ)にドーパンを見てほしいなって思ったりとか。そういうフェスごとのテーマの違いは、ツアーでの1本1本に対しても同じですね。むしろ10年前は、あのフェスとこのフェスでモチベーションが違うっていうのはあまりなかったかもしれないです。バックヤードに籠り切って人のライブもほとんど見ていなかったし、そのイベントに誰がいるとか、どこの土地だとかあまり考えていなかったので。それが今、フェスに対してごく自然なモチベーションと意味づけを持てるようになったのは、この10年、自分が苦労した部分もあるからだよなって思います。成長と言えるのかわからないけど、すごく真っ当にライブするぞっていう気持ちになれてますね。
Taro:とりあえず今回の『フジロック』はご祝儀というか、再結成の話題性で出していただいたんだと思うので……。
Furukawa:そんなことはっきり言うなよ(笑)。
Taro:なので5年後にもう1回『フジロック』に出られたら嬉しいです。
Furukawa:じゃあタロティは5年はDOPING PANDAやれるってことね。
Taro:健康な体でいられたら。
Furukawa:やかましいわ。魚卵を食べるのやめなさい。
Taro:気をつけます(笑)。
ーー(笑)。
Hayato:もちろん、ご祝儀的に出させてもらえる部分もあると思うんですけど、やっぱりライブがよくないと『フジロック』には出られないと思うんですよね。だから僕たちのツアーの評判を聞いて、「これだったら出てもらいたい」という判断で出させてくれたのかなと。そこは自信を持って挑みたいと思います。あとは先日のツアーや再結成のリアクションを見て、思ったより若いお客さんがいることがモチベーションになりました。ちゃんとDOPING PANDAが時代と共に生きていけそうだなって。以前のファンの方に応援していただくのはもちろん大切だけど、続けていくには新しいお客さんにも見てもらいたいので。しかもそこに媚びるわけじゃなくて、やりたい音楽をしっかりやった上で盛り上げていきたいなと思っています。今のドーパンって、3人とも10年で築いてきた生活がある上での再結成なので、誤解を恐れず言えば、どうしても売れなきゃいけないわけではないんです。なので、きちんと自信を持って納得できる音楽を作って、それを認めてもらえたら最高だなと思います。
ーーこの先のDOPING PANDAについて、Furukawaさんはどう考えていますか。
Furukawa:今パッと思ったのは、下の世代で僕らのことをリスペクトしてくれてるバンドたちに「やっぱりドーパンはカッコいい!」って思われたいということです。自分たちが若かったからカッコよく見えてたわけじゃなくて、本当にカッコいいバンドなんだよってことを見せていきたいなと。
ーーいいですね。対バンの可能性もあるんでしょうか?
Furukawa:うん、ありますよ。
ーーBase Ball Bearとか夜の本気ダンスとか、いろいろなバンドたちとDOPING PANDAを同じライブハウスで見られる日が来たら、20年のロックシーンが1本に繋がるような気もしますね。
Furukawa:そうなったら思いっ切りかましたいと思いますね。彼らに「昔コピーしてました」って堂々と言ってもらえるバンドでありたいし、「全然声出てねえ」「弾けてねえ」とか思われるのは絶対嫌なので。好きだったことを誇りに思ってもらえるようなライブをしたり、音源を出したいなっていうのが、今のモチベーションになっています。
※ライブ写真は『∞ THE REUNION TOUR』Zepp Haneda公演の模様。