連載「lit!」第10回:ファレル・ウィリアムス、カルヴィン・ハリス、カーディ・B……ヒップホップの枠を広げるコラボ曲5選
チャンス・ザ・ラッパー「The Highs & The Lows feat. Joey Bada$$」
2010年代にその名を残す3枚のミックステープ作品を生み出して以降、1stアルバムとして放った『The Big Day』(2019年)はあまりにも陽性かつ祝祭的な仕上がりで、リリース時に世間から賛否で迎えられ、主演したA24のホラー映画『Slice』は批評家から不評を買い、本国アメリカで劇場未公開にてリリースされる(これはコロナ以前の出来事だ)。ここ最近、思うようにプロップスが上がらなかった印象のあるチャンス・ザ・ラッパーだが、彼が今年リリースしたいくつかのシングルは、沈黙から目覚め、新たなステージに向かおうとしていることを証明している。その中で直近のリリースとなったこの曲では、Joey Bada$$を客演に迎え、メロウで温かみのあるサウンドとコーラス、2人のしっとりとした(それでいてキレのいいライムに溢れた)ラップが堪能できる。タイトルの「The Highs & The Lows」は、天気のように変わりやすい人々の感情の浮き沈みのことを指す。映画『くもりときどきミートボール』の引用で、日々の不安定な感情を表すチャンスのヴァースに、〈I swear I see It clear, like after the storm〉というJoeyのヴァースのラインが対応していることは言うまでもないだろう。予測のできない異常気象が訪れたとしても、いずれは晴れる。宇多田ヒカルやドナルド・グローバーと同じく、彼らもヨーロッパに旅立ち、開放的にラップをしているMVも記憶に留めておきたい。
カーディ・B「Hot Shit feat. Kanye West & Lil Durk」
再生した瞬間、熱風に吹かれたようだった。自身のシングルでは久々となる新曲「Hot Shit」でカーディ・Bが揃えたのは、カニエ・ウェストとLil Durkというビッグな組み合わせ。普段の彼らというよりは、カーディ・Bによって支配されているラップゲームに、客演という形で巻き込まれながらも、なんとか順応しようとしているようにも聴こえる。それほど、通常運転のカーディ・Bの音楽性とアティチュードが、より強い形で、思う存分詰まっているのだ。特に、持ち味であるメロディアスな要素を排し、似つかわしくないフロウを披露するDurkの姿は、元あるイメージから少しズレながらも新鮮に聞こえる。過激なリリックと地割れを起こしそうな低音を響かせるテイ・キースのサウンド、そして3人のハードなラップ。全ての要素がこの“クソ暑い”季節に加担する。
※1:https://youtu.be/u-DLQVmg6cM