ファレル・ウィリアムス独占インタビュー 「Yellow Lightに導かれて、新しい世界を作っていかなくてはいけない」
これまで『怪盗グルー』シリーズを毎作彩ってきた、このアーティストのカラフルな歌声と旋律とリズムなくしては、シリーズのここまでの世界的大成功はなかったと言っても過言ではないだろう。少なくとも、もし彼がいなかったら、このシリーズが築いてきたクールでオシャレなイメージは、今とはかなり違ったものになっていたはずだ。ファレル・ウィリアムス。言わずと知られた、世界的スーパースター。今回、『怪盗グルーのミニオン大脱走』のプロモーションの一環として、彼の地元であるロサンゼルスで単独の対面インタビューが実現した。ちなみに、そんな特別な時間をファレルが割いてくれたのは日本のメディアに対してのみ。しかも、まとまった時間をくれたのはこの取材だけだ。
近年、滅多にインタビューのオファーにOKを出さないファレルと直接話すことができる世界的にも貴重な機会とあって、『怪盗グルーのミニオン大脱走』についての話を足がかりに、この夏の音楽シーンを席巻している(ファレルも複数の曲でフィーチャーされている)カルヴィン・ハリスのニュー・アルバムから、彼自身の次作についての展望まで、その話題は多岐にわたった。当初、取材はビバリーヒルズの超高級ホテルのスイートルームで予定されていたが、ファレルから「太陽の下で話そう」という提案を受け、急遽ホテルのテラスでインタビューをおこなうことに。カリフォルニアの「イエロー・ライト」が照りつける中、あの柔らかく繊細な歌声そのままの小さな声で、ファレルはすべての質問にとてもジェントルに応えてくれた。(宇野維正)
僕の“バッテリー”を充電してくれるのが映画の仕事
ーー『怪盗グルー』シリーズの音楽を手がけるのは、今回の『怪盗グルーのミニオン大脱走』で3作目。そして、日本での公開時期は逆になっているのですが、昨年は『ドリーム』のサウンドトラックにおけるプロデュース・ワークとそこで書き下ろした新曲も本当に素晴らしいものでした。あなたは音楽家として長年充実したキャリアを送っていますが、そのベスト・ワークのいくつかは映画のために作った作品であるように思います。
ファレル・ウィリアムス(以下ファレル):映画の仕事はすごく楽しいんだ。今の僕は自分が大好きな仕事だけをやることができて、とても恵まれている。だから、何かいいオファーがあったら、そこに自分の時間をいくらでもつぎ込むことができるんだ。映画の仕事には様々なパラメーターやガイドラインがあるけれど、そこで正解を導き出していくことは、僕にとって純粋な楽しみだし、それが僕の活動全体のエネルギーになっている。言ってみれば、僕は背中にバッテリーを背負っていて、そのバッテリーを充電してくれるのが今回の『怪盗グルーのミニオン大脱走』のような映画の仕事なんだ。
ーー前作『怪盗グルーのミニオン危機一発』のために書き下ろした「Happy」は世界中でとんでもないスーパーヒットになったわけですが、そのことは今回の新曲、特にリード曲の「Yellow Light」のソングライティングやサウンド・プロダクションにどのような影響を及ぼしましたか? 「同じシリーズとはいっても、『Happy』と同じようなテイストの曲にはしたくない」というあなた強い意志のようなものを感じたのですが。
ファレル:えっと、「Happy」は2作目だったね。「Fun, Fun, Fun」も2作目だったかな? あれ? 1作目だっけ?
ーー2作目です(笑)。
ファレル:そうだった? 自分のやったことをすぐ忘れちゃうんだ(笑)。でも、それぞれの作品に取り組んでいる時は、その作品自体が、そこで僕がどんな音楽を作るべきかのクリエイティブなアイデアを必ずもたらしてくれるんだ。まさに、「Yellow Light」みたいにね。
ーーというと?
ファレル:「Yellow Light」というのはそのまま、黄色い光のこと。社会全体が悪い方向に向かっていると多くの人が感じている現在、僕たちにはこれまで以上に、高い次元の光のような存在が必要としている。そんなYellow Lightに導かれて、僕たちは新しい世界を作っていかなくてはいけない。
ーーこの曲で歌われている「黄色い光」というのは、「注意信号」という意味でもなければ、ミニオンたちの身体の色のことでもないんですね?
ファレル:うん。この歌で僕が歌っているのは、太陽から降り注ぐ眩しい光のことだよ(と眩しそうに空を見上げながら、手の平で太陽光を受けるように両手を差し出す)。
ーーこれだけ映画関連の仕事で充実感を得ていると、そのせいでソロ・ワークのプランや作業が後回しになったりはしないのですか?
ファレル:ソロ・ワークは当分ないよ。
ーーえっ? 本当に?
ファレル:当分ない。今はソロで作品を出すことは考えてないんだ。
ーー『怪盗グルーのミニオン危機一発』が公開された後、しばらくしたらアルバム『G I R L』をリリースして、そこに「HAPPY」も収録されてましたよね。てっきり今回も同じように、この先にはソロアルバムが控えているんじゃないかと期待していたんですけど。
ファレル:ノー。今、僕が集中してやっているのは僕たちのバンド、N.E.R.Dのレコーディングだ。
ーーへぇ! しばらく前から噂は耳にしてましたけど、本当にN.E.R.Dとして久しぶりに動いてるんですね!
ファレル:うん。だから、次に僕のアルバムが出るとしたら、それはN.E.R.Dの作品になるはずだ。
ーーもし今年出たら、7年ぶりの新作ということになりますね。
ファレル:そうなるのかな? 昔のことは本当にあまり覚えてないんだ(笑)。
――今、スタジオで作業しているN.E.R.Dの音楽はどういう志向のサウンドになっているんですか?
ファレル:それは話せない。
ーー(笑)。
ファレル:意地悪で言ってるんじゃなくて、君が初めて聴いた時に「ワォ!」って思ってほしいから話したくないんだよ。お化け屋敷(ホーンテッド・ハウス)に遊びに行って、そこで誰かが出てくる幽霊を前もって全部教えてくれたら、「ワォ!」とは思えないだろう? 僕が常に考えているのはみんなを驚かせたいということなんだ。
ーー「お化け屋敷」のように?
ファレル:そう(笑)。
ーー『G I R L』も今回の『怪盗グルーのミニオン大脱走』のサントラもソニー・ミュージックからリリースされていますよね。N.E.R.Dの作品も同じようにソニーから出ることになるんですか? そもそも、今のあなたとレコード会社の契約形態はどのようなものになっているんでしょう?
ファレル:僕はもう、誰かに急かされてレコードを出すようことはない。ただ、自分が作ったレコードを彼らにライセンスするだけだよ。
ーーメジャーのレコード会社から作品はリリースするけれど、アーティストとしては完全な自由を手に入れている?
ファレル:その通り。