鈴木貴歩「エンターテックがカルチャーを創る」第5回
ファレル・ウィリアムスが明かした“創造力”の源 次世代楽器「ROLI」CEOとの対話レポート
アーティストが自らのクリエイティビティ、ビジネス能力を、音楽制作、パフォーマンスとは違った形で活用することが増えている。アーティストによる企業やスタートアップへの出資、参画がアメリカでは最も顕著な例だ。2014年にはThe Black Eyed Peasのウィル・アイ・アムが3Dプリントのソリューションを手がける「3D Systems」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任した。ラップ、ロックその他の歌詞の背景や知識を共有するプラットフォーム「Genius」にエミネムが、また音楽絵文字を提供するスタートアップ「Emoticast」に世界的な人気DJ、デヴィッド・ゲッタが出資をしたケースや、Jay-Zのようにスタートアップを買収して音楽サービス企業を設立、運営するパターンもある。
しかし、昨年末7年振りにN.E.R.Dとしてのアルバム『No_One Ever Really Dies』を発表したファレル・ウィリアムスが、次世代楽器「ROLI」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして参画した情報を聞いた時には、前述のアーティスト達の動きとは違うワクワクを感じた。
ROLIはCEOのローランド・ラムが創業したイギリスのスタートアップだ。アメリカ人でハーバードを卒業したローランドは、ロンドンに渡りデザインを学び、日本で禅を学んだこともある。彼は“楽器演奏をもっとアクセスしやすいものにしたい”というビジョンを掲げプロダクト「Seaboard」を制作した。Seaboardは見た目は“鍵盤”の形をしているが、鍵盤の鳴らし方に加え、押し込む、スライドする、押しながら揺らす、といったアクションを通じて、シンセサイザーのモジュレーションやピッチベンドを指一本で可能にし、多くの楽器を表現豊かに演奏することを可能にした。
2016年にラインアップに加わった四角い「BLOCKS」は、Seaboardのコンセプトや機能を鍵盤が弾けない人にも使ってもらう目的で開発された。iOS向けアプリ「NOISE」と連動し、シームレスにドラムマシーン、シンセサイザー、フィルター等のコントロールパッドになるデバイスである。
1月16日にApple 銀座で『Music Lab ~ ファレル・ウィリアムスに学ぶ創造力の源』と題して開催されたイベントでは、ローランドとファレルのトークセッションが行われた。イベントはローランドがファレルに質問を投げかけるという形式で進行した。
ローランド:今夜は、ROLIのことだけでは無く、もっと大きいテーマについて話したいと思います。何故“創作”をするのか? 音楽を創るのか?
ファレル:まず最初に全ての人が創作をすると考えています。創作は人間として前進する時に必要な要素であり、それが人々に対して影響を与えていくのだと思います。
ローランド:クリエイティブの判断、例えば“角度”をどう見つけていきますか?
ファレル:“角度”を見つけるということは、まずフィーリングを見つけることでそれに何かを付け加えていきます。その中でフィーリングが抑制される時もあるし、豊かになる時もあります。
ローランド:プロデュースする際、何か前に進まない時にどうブレイクスルーを見つけますか?
ファレル:音楽を創る時のアプローチは人それぞれ違います。自分には見えたり、他人には見えなかったり。暗い部屋の中でサングラスをかけている時に“光”が見える時が必ず来ます。
ローランド:テクノロジーとクリエイティブの関係をどのように見ていますか?
ファレル:テクノロジーは創作において何百万のオプションを提供してくれますし、一方で、アイデアを形にすることフォーカスする際に役立ちます。私は後者のアイデアを形にすることにフォーカスする際に用いることがほとんどです。
ローランド:これまでのキャリアで“落ちた”時と、“上がった”時のことをそれぞれ教えてもらえますか?
ファレル:タフな時はあったかな? とも思います。本当に大好きなことをやり続けているので文句は言えないし、全てが“学び”だと思います。“上がった”のはROLIに加わった時かな。他の人々が音楽を制作することを助けられるから。
ローランド:クリエイティビティの源はどこから来ていますか?
ファレル:“声なき声”をどう感じるか? これは誰でも持っているはずのもので、それをどう感じて形にできるかどうかは個人次第です。