石井竜也が『ISHYST』ツアーで響かせたかった思いとは? 逼迫した時代に伝えたいメッセージ

石井竜也、逼迫した時代に伝えたいこと

 石井竜也にとって約5年ぶりの開催となったコンサートツアー『TATUYA ISHII CONCERT TOUR 2022「ISHYST」』は、“ラスコー洞窟”の壁画をイメージしたセットで、セットリストも『MOON & EARTH』(2011年)や『HEARTS VOICES』(2012年)に収録されたメロディアスな楽曲が中心。3万年前の太古の時代、1万メートルの深海、青い地球を眼下に見下ろす広大な宇宙……悠久の時を超えるような壮大なサウンドと日本人の心の琴線に触れるどこかノスタルジーを感じさせるメロディ、そして好奇心をくすぐる石井のウィットに富んだトーク。見果てぬ世界の様々なロマンが、目の前に広がるようなコンサートだ。WOWOWプラスでは、6月26日にZepp Nambaで行われたツアーファイナルの模様を、7月31日に全曲ノーカットでテレビ初独占放送。同コンサートに込めた思いと見どころについて、話を聞いた。(榑林史章)

60歳になった自分が歌う時、何を歌ったらいいか

ーーツアーファイナルの模様がWOWOWプラスでノーカット放送されます。まるでタイムマシンに乗って、いろんな時代と場所に連れて行ってくれるような内容だと思いました。

石井竜也(以下、石井):ありがとうございます。米米CLUBのように「踊れ~!」みたいなコンサートでは、なかなか歌えないような楽曲を並べています。こういう時代なので、じっくりと腰を据えて聴いてもらいたいなという思いで、メニューを考えました。

ーーツアーは約5年ぶりとのことですが。

石井:『ISHYST』というタイトルのツアーは、歌に特化したシリーズで。5年前に開催した前回は、1970年代の『ヤマハポピュラーソングコンテスト』をきっかけにデビューした、大ヒット曲を生み出してきた方々の楽曲をカバーさせていただいたんです。

ーー5年のうちの約半分がコロナ禍ということになります。そこも含めて、ツアーで歌を届けることの意味など、深い思いがあると思いますが、いかがですか?

石井:まさかコロナ禍がこんなに長引くとは、誰も思っていなかったですよね。日本人はもともと花粉症などでマスクをする人が多かったから、マスクに対してそこまで拒否反応はなかったと思いますけど、それでも夏の時期までマスク生活となるとなかなか厳しい。そのストレスからか、ニュースを見ると嫌な事件が増えた気がします。それにインターネットも荒れていたり、難しい時代だなと思うわけです。その上、ウクライナのことも含め世界中で色々なことが起きているのは、時代が持っている病癖と言うか、そういうものもあるのかなって思いますね。そうした病癖が人の精神を病む方向に操作しているんじゃないかとか、そんなことまで思わせる状況だなと。

ーーそうした今という時代に対して感じたことを、メッセージとして表現する場がコンサートツアーなんでしょうね。

石井:そうですね。音楽を共有して単純に楽しんでもらうことも大切ですけど、60歳になった自分が歌う時に、何を歌ったほうがいいか考えたら、今ちょっと苦しい、悩んでいる、なかなか上手くいかない、そういう人に向けたものを歌うべきだと思ったんです。ツアーに足を運んでくれる世代のことを考えても、何かヒントになったらいいなと思っています。人類が誕生してからおよそ5万年と言われていますけど、地球の人生に比べたら僕らの一生なんて1秒にも満たない。そんな風に考えたら、それぞれが抱えている悩みはとてつもなく小さなことだし、人類の歴史という部分に目を向けると今より酷い状況はたくさんあった。そう思えば生きていられるだけでもありがたいし、気持ちも少しは楽になるんじゃないかなって。おじいちゃんも、そのまたおじいちゃんも、みんないろいろ我慢して世代を繋いできた。そう考えたらマスクをするくらい何てことない。もう少し頑張ろうよって。

ーー石井さんの歌やMCを通して、そういうことが伝わったらいいと。

石井;はい。それで、今回のコンサートで毎回最後に話していることがあって。3万年前のある人がいなかったら、あなたはここに座っていないんだよって。先人たちの営みがずっと続いて、今のあなたがいる。ここで僕が歌を響かせて、その響きからみんなが何かを感じて、自分もこうしようとか考えが少し小さかったなとか、そういうことを少しでもこのコンサートから感じてくれたらうれしい、と。そういう感じのことを必ず話すんですけど、やっぱり逼迫した時代では、なかなかゆったりと構えていられないですよね。

ーーだからこそ、せめてコンサートの2時間半だけでも心を安らげてほしい。実際にそういう曲が多いですし。

石井:そうですね。気持ちを楽にしてもらって、できたらもう少し大きな目線で、自分たちを見ようじゃないかって。そういう気持ちが、今回のコンサートの核にはあります。

ーーステージの後ろにはラスコー洞窟の壁画が映し出されていましたが、これをモチーフにしたのはどうしてですか?

石井:あれは3万年くらい前に描かれた壁画で、南フランスで発見されたものなんです。それも見つけたのは考古学者でなく、ただの子供だったのが驚きです。

 でも考えてみると、あの壁画には喜びや悲しみとか、いろんな思いが込められていると思うんです。壁画の中には手をかたどった模様もあって、だいたい12〜13歳くらいの子供の手だそうです。手を当ててその上から泥を吹きかけて手形を取っているんですけど、(形を残すには)大人の肺活量じゃないと無理なんだそうで、きっとお父さんとかが子供の成長を記録したんじゃないか、と。きっと大きくなる子が少なかったんでしょうね、疫病とか栄養の問題とかで。だから子供が大きくなった証を残そうと思ったんじゃないかな。

 太り気味の牛の絵が有名で、人間は丸と棒だけで描かれていて簡略化されているけど、動物のデッサンはすごくしっかりしているところからも、生き物に対する敬意や感謝を感じます。きっとその洞窟には1つのコミューンが暮らしていて、男たちが狩りに行っている間、女性と子供たちは干し肉や草などを食べながら飢えをしのいで、そんな中で獲物を持って帰ってきてくれた時の喜びたるや相当なものだったと思います。「命が繋がった!」って。ある男は、「俺はこんな獲物を捕ったぞ」なんて自慢したり、もうお祭り騒ぎだったはずです。そこで木を叩いて音を出し、女たちが踊る。きっとその頃から音楽はあったのだと思います。

ーーライブの原点が、ラスコー洞窟にはあったと。

石井:そうです。それになぜ洞窟に住んでいたのかを考えると、雨風をしのげること以上に、もう一つ“響き”が理由にあったんじゃないかと思います。例えば経験を積んだ長老が、「ここには行っちゃいかんぞ」と子供たちを諭す時、入り口で言ったのでは遠くまでは響かないけど、洞窟の奥で言うことで小さな声でも後ろにいる人にまで届く。そういう“響き”の効果みたいなものは、3万年くらい前から考えられていたんじゃないかなと思います。今ある宗教的な建物も、“響き”を計算して作られていますよね。イスタンブールにあるブルー・モスク(スルタンアフメット・ジャミィ)に行きましたけど、ちょっと声を張るだけで町中に声が響き渡るんです。エジプトのファラオが建てた宮殿もそうです。宗教者や時の権威者は、説法や演説をよりドラマチックなものに演出する手法として、そういう“響き”をちゃんと考えて建築物を作っていたんだと思います。

ーーコンサート会場も“響き”を計算された建築物の一つですね。

石井:それもあって、「響きをテーマにしたい」と音響監督にお願いをして音を作ってもらいました。1階のお客さんは普通に音を出すだけでも割とリバーヴィーに聴こえるんですけど、2階席ではどうしても乾いた音に聴こえてしまう。なのでできるだけリヴァーヴィーに作っていて、今回コンサート全体でオーバーリバーヴ気味に音を作っているのが特徴です。それに人間は、お母さんのお腹の中にいる時から心臓の鼓動やお父さんが話しかける声を聴いているわけで、“響き”というものと共に生きてきた。だから人間は、様々な“響き”があってこそ人生を満喫できる。だからこそ音楽というものも生まれたんだろうなと想像されるわけです。

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