石崎ひゅーいが10年間歩んだ“別れと出会い”の軌跡 「花瓶の花」から「花束」へ美しく変化するかけがえのない想い
石崎ひゅーいが2012年7月にメジャーデビューしてから、もうすぐ10年が経つ。彼はこれまでの10年の中で、自身の作品を次々とリリースしながら、山下智久や私立恵比寿中学をはじめとする他のアーティストへの楽曲提供にも挑戦してきた。特に、数ある菅田将暉への提供曲の中でも、「さよならエレジー」「虹」「ラストシーン」の3曲はどれも大きなヒットを記録。こうした度重なる菅田とのコラボレーションは、石崎が誇るソングライティングの才能が広く世間へ知れ渡るきっかけとなったと言える。そうした楽曲提供の経験は確実に自身の活動へと還元されており、様々なアーティストとの交流を通して成長を続けてきたこの10年間の軌跡は特筆すべき部分である。
そして言うまでもなく彼のこれまでの10年間は、アーティストの仲間はもちろん、彼の音楽を愛するたくさんの人たちによって支えられてきた。そうした歩みを象徴する楽曲の一つが、2016年5月にリリースされたキャリアを代表するバラード「花瓶の花」である。石崎がキャリア初期から歌い続けてきた大切な曲で、この曲名がそのまま2ndアルバムのタイトルにもなっている。リリース時に発表された石崎のコメントを読むと、彼の同曲への強い思い入れが伝わってくる。
「僕はだらしない人間です。なにが大切かよくわからないし。いろんなものを大事にできないし。約束は忘れるし。途中で諦めるし。めんどくさいし。でもこの『花瓶の花』だけはすごく大切にしてきた気がします。それはこの曲を聞いてくれたみんなの愛がすごかったからだと思います。みんなに育ててもらってる。だから大切にできたんだと思います。感謝しています。(※1)」
コメントの中でも、特に「みんなに育ててもらってる。」という一文がとても彼らしい表現だと思う。まるで、自分の楽曲を一輪の“花”のように例えたその表現には、石崎の作詞のセンスがそのまま表れている。
その後、2020年には「Flowers」がリリースされており、そして今回、デビュー10周年イヤーに新曲「花束」を発表した。「花瓶の花」から「花束」へ。こうした流れを踏まえると、彼の表現においては、“花”が大切なモチーフの一つとなっていると言えるだろう。
同じく10周年を迎えるドラマ『警視庁・捜査一課長 season6』(テレビ朝日系)の主題歌として書き下ろされた「花束」では、美しくドラマチックなメロディに乗せて別れの切なさが歌われている。しかし、別れを単にネガティブな出来事として捉えるのではなく、同時にそのきっかけとなった出会いの尊さも丁寧に伝えている。冒頭と最後で歌われる〈幸せを束ねた花みたいに/重なっていくことを夢見てた〉というフレーズは過去形の言葉で歌われているからこそ切なく響いているが、決して悲壮感はなく、聴いた後には爽やかな感動が押し寄せてくる。一つひとつの出会いと別れは何ものにも代え難い経験であり、その一つひとつを束ねながら私たちは自分の人生を強く生きていける。同曲は、被害者の無念を晴らすことを誓って事件解決に挑むというドラマのストーリーに寄り添いながら、このような輝かしい人生観を伝える感動的な楽曲であると思う。