和氣あず未、近藤玲奈、竹達彩奈、東山奈央……個性や強みが落とし込まれた、声優によるコンセプト作品に注目
アニメや映画で描かれる様々なキャラクターに生命を吹き込む声優。性格や感情を声で表現するプロフェッショナルとも言える声優だが、近年アーティスト活動においてコンセプト作のリリースが増えている。
2022年1月には、和氣あず未が“夜”をテーマにした『あじゅじゅと夜と音楽と』をリリースした。昨年6月に発表した両A面シングルの表題曲「Viewtiful Days!」では〈夜はすぐ寝ちゃう〉と明るく歌っていた和氣。今作では、そんな活発なイメージとは一線を画したR&Bに挑戦し、新鮮な作品を作り上げている。1曲目の「茉莉花」から夜を堪能するゆったりとした楽曲に仕上がっており、3曲目「キャラメラテ」ではラップを紡ぎながら〈もっと好きにさせないで〉〈後悔するんならいっそ…〉と恋の葛藤を描き、〈気づけば甘いコーヒー零れそうで〉〈マグカップいっぱいになるまで シロップ溶かした〉と現実の苦味と甘い比喩を混ぜ合わせていく。「夢よりも早くこの恋が覚めても」では、浮遊感のあるサウンドで切ない夢心地な心情を歌い、フルートの音色が穏やかな「アイリスの夜」ではまどろみながら〈君〉への思いを柔らかい歌声で綴っていく。
〈今日交わした言葉の端 思わせぶりを混ぜてみたけど/わからないよね いいや もう眠ろう〉というやるせなさ、そして〈また明日 会えたらな〉と前向きな思いが混じり合う「アイリスの夜」は、眠りに落ちる前、様々な思いが交錯する瞬間を切り取っているよう。落ち着いた曲調で大人の雰囲気を見せつつ、ときにキュートな声色で眠りに誘惑するかのような、様々な角度から夜を切り取った作品となっている。
2021年4月にアーティストデビューを果たした近藤玲奈は、同年12月に『11次元のLena』をリリース。「11次元から見れば、この3次元は見方で姿を変えるホログラムの投影のような世界にすぎない」というコンセプトと“暴力的”というキーワードを接続し作られたという本作(※1)。今にも消えそうな歌い出しで始まる「僕だけが消える世界」は、冷たい〈さよなら〉という呟きを合図として突如激しく展開する。攻撃的ともとれる音とは裏腹に、〈白く染まっていく教室に 黒のままで〉〈放課後に響く掛け声から 息を潜めて逃げる〉といった息の詰まるような苦しさも表現されている。「Erase Me」では激しいドラミングやシンセの音色が〈私〉と〈ワタシ〉の激しい葛藤を表現。〈リボルバー 指そっと添えて/見えないワタシを狙った〉〈時間も空間も歪んで〉〈銃声が響いた〉といったまるで映画のワンシーンのような描写が見られ、同曲MVではセーラー服に身を包んだ近藤がこちらに鋭いまなざしを向けながら歌う。
EDMサウンドの「放課後のデカダンス」では〈「ねえ死にたくなったら またここで会おうよ」〉と歌い、悲痛な叫びを自身で紡ぎ、鍵盤の音が切ないロックチューン「僕が愛される日は」では〈11次元のここで待つことにするよ 愛される日を待ってるよ〉と次元を超えた救いに昇華している。1曲ごとに聴きごたえのある楽曲に仕上げながら、次元の異なる視点と葛藤など、アルバムのストーリーも重要視した作品となっている。ラストナンバー「ライカ」の終盤では、1曲目から続いた壮大な世界線が回収され、遥か彼方、次元を超えた場所から語りかけるかのように強烈な余韻を残した。